講演情報
[22-P-L001-04]視野狭窄を伴うUSN症例への頸部振動刺激
*丸谷 萌夢1、中島 詩聞1、久保田 孝輔1、吉武 将司2 (石川県 1. 老人保健施設まだら園、2. 金城大学)
【はじめに】左半側空間無視(以下USN)は脳卒中後に生じる高次脳機能障害であり、ADLの低下や転倒リスクの増大につながる。USNに対する介入として頸部振動刺激が報告されており、作業療法前に実施することで空間認知機能の改善を認めたとの報告がある。頸部振動刺激は身体正中認知への作用を通じて左側空間への注意を促す可能性が示されている。そこで今回、視野狭窄を伴うUSN症例に対し頸部振動刺激を実施し、その効果について検討した。
【症例紹介】症例は70代男性。X年Y月Z日に右側頭葉から頭頂葉の脳出血を発症しA病院へ入院。検査の結果、視野狭窄およびUSNを認めた。X年Y+6月Z+7日に介護老人保健施設へ入所した。
ADLは食事、整容、排泄動作は自立していた。入浴は部分介助を要した。USNと視野狭窄の影響から、歩行および移乗に付き添いや声掛け、手引き誘導を必要とした。更衣では靴を左右反対に履く場面が散見された。また、物品や空間の位置を把握する際には視覚だけでなく触覚を利用する様子がみられた。
【評価】初回評価では、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)19点、線分二等分試験はほぼ正中、Trail Making Test-A(TMT-A)は5分間で12まで遂行可能であった。Catherine Bergego Scale(CBS)は14点であった。
観察評価では、①靴を左右反対に履くことが多い、②触覚を利用して空間や物品位置を把握している、③USNの影響で左側への注意が向かず物品や場所の認識が困難である、④視野狭窄の影響により周囲状況の把握にも困難さがみられる、などの特徴を認めた。
【介入】介入期間は11週間とし、週2~3回実施した。対象者を座位とし、ハンディ型振動機器(SIXPAD Power Gun Slim)を用いて左後頸部(頸部伸筋群)へ50Hzで5分間の振動刺激を実施した。その後、体幹左回旋を促しながら机上課題を行い、左側空間への探索および注意喚起を図った。
【結果】介入終了時の評価では、HDS-Rは13点、線分二等分試験はほぼ正中、TMT-Aは5分間で6まで、CBSは14点であった。線分二等分試験およびCBSに大きな変化は認めなかった。一方、HDS-RおよびTMT-Aは低下を認めた。
TMT-A実施時には、直前に選択した数字や数字の位置を忘れる様子がみられた。また、数字探索時には机上の用紙内だけでなく前方の壁などにも視線を向け、無関係な場所を探索する場面が認められた。さらに課題途中で会話を始めるなど注意が逸脱する様子もみられた。
観察評価においても明らかな改善は認めなかった。しかし、介入直後には左側へ視線を向ける場面や、左側空間への注意が一時的に向上する様子が観察された。
【考察】本症例では11週間の介入を実施したが、机上評価および観察評価において明確な改善は認めなかった。HDS-RおよびTMT-Aの低下から、介入期間中に認知機能や注意機能の低下が生じていた可能性が考えられる。そのため、USNに対する介入効果が評価結果に反映されにくかった可能性がある。
また、本症例はUSNに加えて視野狭窄を併存していた。USNによる注意障害と視野狭窄による視覚情報の制限が重複したことで、空間認知障害が複雑化し、改善を阻害した可能性が考えられた。さらに、物品や空間を認識する際に触覚情報へ依存する傾向がみられたことから、視覚探索を中心とした介入だけでは十分な効果が得られなかった可能性も考えられた。また、日常生活場面では常に職員や介護者が近くで見守りや声掛け、手引き誘導を行っていた。そのため、対象者自身が能動的に周囲環境を探索し、問題解決を図る機会が少なかった可能性がある。触覚や人的支援への依存が形成されていたことで、自発的な視覚探索行動の獲得や定着が促進されにくかった可能性も考えられた。
TMT-Aでは、左側だけでなく右側の数字に対しても探索困難な様子がみられた。課題中には直前に選択した数字や数字の位置を保持できず、探索範囲が机上から周囲環境へ拡散する場面が認められた。また、課題途中で会話を始めるなど注意の持続も困難であった。これらのことから、空間認知障害だけでなく、注意機能やワーキングメモリ機能の低下が課題遂行能力へ影響した可能性が示唆された。
頸部振動刺激は頸部固有感覚入力を変化させ、身体正中認知へ影響を与えることで左側空間への注意喚起を促すとされている。先行研究ではUSN評価の改善が報告されているが、本症例では明らかな改善は認めなかった。これは視野狭窄の併存や認知機能低下の影響により、刺激効果が十分に発揮されなかった可能性が考えられる。
一方、介入直後には左側への注意が一時的に向上する様子が観察された。先行研究でも即時的の報告あり頸部振動刺激が身体正中認知へ影響し、左側空間への注意喚起を促した可能性は示唆されたものの、その効果は持続せず、ADL改善には至らなかった。
また、本症例では線分二等分試験で大きな偏位を認めなかった一方、CBSでは左側への注意障害や空間認知の問題が確認された。このことから机上評価のみではUSN症状を十分に捉えられない可能性があり、介入効果の判定には机上に加えて生活場面が重要である。
【結論】視野狭窄を伴うUSN症例に対し、頸部振動刺激を含む介入を11週間実施したが、机上評価および観察評価において明確な改善は認めなかった。認知機能低下や視野狭窄の併存が影響した可能性があり、USNに対する介入効果を検討する際には机上検査のみでなく認知機能の変化や感覚代償などを含む生活場面の多面的評価が重要である。また、即時効果を生活場面へ汎化させる継続的な介入方法を検討する必要がある。
【症例紹介】症例は70代男性。X年Y月Z日に右側頭葉から頭頂葉の脳出血を発症しA病院へ入院。検査の結果、視野狭窄およびUSNを認めた。X年Y+6月Z+7日に介護老人保健施設へ入所した。
ADLは食事、整容、排泄動作は自立していた。入浴は部分介助を要した。USNと視野狭窄の影響から、歩行および移乗に付き添いや声掛け、手引き誘導を必要とした。更衣では靴を左右反対に履く場面が散見された。また、物品や空間の位置を把握する際には視覚だけでなく触覚を利用する様子がみられた。
【評価】初回評価では、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)19点、線分二等分試験はほぼ正中、Trail Making Test-A(TMT-A)は5分間で12まで遂行可能であった。Catherine Bergego Scale(CBS)は14点であった。
観察評価では、①靴を左右反対に履くことが多い、②触覚を利用して空間や物品位置を把握している、③USNの影響で左側への注意が向かず物品や場所の認識が困難である、④視野狭窄の影響により周囲状況の把握にも困難さがみられる、などの特徴を認めた。
【介入】介入期間は11週間とし、週2~3回実施した。対象者を座位とし、ハンディ型振動機器(SIXPAD Power Gun Slim)を用いて左後頸部(頸部伸筋群)へ50Hzで5分間の振動刺激を実施した。その後、体幹左回旋を促しながら机上課題を行い、左側空間への探索および注意喚起を図った。
【結果】介入終了時の評価では、HDS-Rは13点、線分二等分試験はほぼ正中、TMT-Aは5分間で6まで、CBSは14点であった。線分二等分試験およびCBSに大きな変化は認めなかった。一方、HDS-RおよびTMT-Aは低下を認めた。
TMT-A実施時には、直前に選択した数字や数字の位置を忘れる様子がみられた。また、数字探索時には机上の用紙内だけでなく前方の壁などにも視線を向け、無関係な場所を探索する場面が認められた。さらに課題途中で会話を始めるなど注意が逸脱する様子もみられた。
観察評価においても明らかな改善は認めなかった。しかし、介入直後には左側へ視線を向ける場面や、左側空間への注意が一時的に向上する様子が観察された。
【考察】本症例では11週間の介入を実施したが、机上評価および観察評価において明確な改善は認めなかった。HDS-RおよびTMT-Aの低下から、介入期間中に認知機能や注意機能の低下が生じていた可能性が考えられる。そのため、USNに対する介入効果が評価結果に反映されにくかった可能性がある。
また、本症例はUSNに加えて視野狭窄を併存していた。USNによる注意障害と視野狭窄による視覚情報の制限が重複したことで、空間認知障害が複雑化し、改善を阻害した可能性が考えられた。さらに、物品や空間を認識する際に触覚情報へ依存する傾向がみられたことから、視覚探索を中心とした介入だけでは十分な効果が得られなかった可能性も考えられた。また、日常生活場面では常に職員や介護者が近くで見守りや声掛け、手引き誘導を行っていた。そのため、対象者自身が能動的に周囲環境を探索し、問題解決を図る機会が少なかった可能性がある。触覚や人的支援への依存が形成されていたことで、自発的な視覚探索行動の獲得や定着が促進されにくかった可能性も考えられた。
TMT-Aでは、左側だけでなく右側の数字に対しても探索困難な様子がみられた。課題中には直前に選択した数字や数字の位置を保持できず、探索範囲が机上から周囲環境へ拡散する場面が認められた。また、課題途中で会話を始めるなど注意の持続も困難であった。これらのことから、空間認知障害だけでなく、注意機能やワーキングメモリ機能の低下が課題遂行能力へ影響した可能性が示唆された。
頸部振動刺激は頸部固有感覚入力を変化させ、身体正中認知へ影響を与えることで左側空間への注意喚起を促すとされている。先行研究ではUSN評価の改善が報告されているが、本症例では明らかな改善は認めなかった。これは視野狭窄の併存や認知機能低下の影響により、刺激効果が十分に発揮されなかった可能性が考えられる。
一方、介入直後には左側への注意が一時的に向上する様子が観察された。先行研究でも即時的の報告あり頸部振動刺激が身体正中認知へ影響し、左側空間への注意喚起を促した可能性は示唆されたものの、その効果は持続せず、ADL改善には至らなかった。
また、本症例では線分二等分試験で大きな偏位を認めなかった一方、CBSでは左側への注意障害や空間認知の問題が確認された。このことから机上評価のみではUSN症状を十分に捉えられない可能性があり、介入効果の判定には机上に加えて生活場面が重要である。
【結論】視野狭窄を伴うUSN症例に対し、頸部振動刺激を含む介入を11週間実施したが、机上評価および観察評価において明確な改善は認めなかった。認知機能低下や視野狭窄の併存が影響した可能性があり、USNに対する介入効果を検討する際には机上検査のみでなく認知機能の変化や感覚代償などを含む生活場面の多面的評価が重要である。また、即時効果を生活場面へ汎化させる継続的な介入方法を検討する必要がある。
