講演情報

[22-O-L005-07]認知症専門病棟での個別運動介入身体機能維持と病棟連携

*柳川 友美、向井 絢子、柘植 春花 (島根県 介護老人保健施設サンホームみずほ)
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【はじめに】
認知症高齢者では認知機能の低下に加え、身体機能低下や日常生活活動(以下ADL)の低下を認めやすく、活動性の維持が重要であるとされている。また、認知症高齢者に対する運動療法は身体機能の維持・改善に有効であることが報告されている。しかし、認知機能低下により運動内容の理解や継続的実施が困難となる症例も多く、対象者に応じた関わり方や環境調節が必要である。特に認知症専門病棟では日常生活における活動量低下や廃用進行が問題となりやすく、継続可能な運動介入方法の検討が求められている。今回、当施設の認知症専門病棟利用者を対象に、理学療法士・作業療法士(以下リハビリ職)が個々の認知機能や反応に応じて声掛けや運動提示方法を工夫しながら下肢運動を実施した。また病棟内で介入を行うことで、対象者のみならず病棟職員への影響についても併せて検討した。

【倫理的配慮】
本取り組みの発表にあたり、個人が特定されないよう氏名等の個人情報を匿名化しプライバシー保護に十分配慮した。発表については施設長の承認を得ている。

【目的】
認知症専門病棟へ入所している利用者に対し、リハビリ職による1対1での下肢運動介入を実施し、身体機能維持に与える影響について検討することを目的とした。また、病棟職員の対象者理解や介助方法への影響についても検討した。

【方法】
対象は、2024年5月~2026年1月の期間に当施設認知症専門病棟を利用していた利用者のうち、継続的(1年間)に評価を実施できた5名(全員女性、AD:4名、VaD:1名、年齢92±8.94歳、Barthel Index:91.6±3.78、DBD:10.4±2.97、CDR:2.6±0.55)とした。介入はリハビリ職3名により実施し、対象者間で介入内容に差が生じないよう運動方法および実施環境を統一した。運動内容は、起立運動・座位での足踏み運動・足関節底背屈運動とし、約10分間を週3回、14時~15時30分の時間帯に実施した。運動は対象者の疲労感や集中力を考慮しながら実施し、必要時は休憩を挟みながら継続した。また、介入時には対象者の理解度や反応に応じて、反復的な声掛け、模倣動作を用いた視覚的掲示、動作テンポの調節などを行った。さらに、安全面への配慮として、座面の高さ調節や手すりを用いて実施した。評価項目は身体機能を簡便かつ継続的に評価可能な指標としてTimed up and Go Test(TUG)および握力を用いた。TUGは移動能力およびバランス能力、握力は全身的身体機能を反映する指標として選択し、3ヶ月ごとに測定した。また介入中の食事摂取量とBMIの推移、病棟内で得られた病棟職員からの意見についても記録した。

【結果】
分析対象において、TUGは介入前15.4±8.45秒、介入後15.4±3.84秒であり、大きな変化は認められなかった。握力(右/左)は、介入前7.5±3.54/7.5±4.1kg、介入後8.7±3.68/7.1±3.73kgで推移し、著明な低下は認めなかった。また食事摂取量は8割以上と安定しており、介入前後でのBMIも介入前21.1±2.8、介入後21.76±1.95と推移し大きな変化は見られなかった。また拒否的反応は少なく、継続的な介入実施が可能であった。さらに本取り組みを病棟職員から見える環境で実施したことで「自力での起立が可能である」「普段より活動性の高い様子がみられる」など、対象者の残存能力に対する気づきに関する意見が聞かれた。加えて、日常場面における介助量や関わり方の見直しに関する意見が聞かれた。また、リハビリ職が病棟内でリハビリを実施する時間が増加したことで、病棟内見守りの一助となり、病棟職員の安心感に繋がる様子もみられた。さらに病棟職員から「起立動作が低下し介助量が増大している利用者について介入の検討をしてほしい」等の相談が寄せられ始め病棟職員が対象者の身体機能に着目する機会の増加がみられた。

【考察】
今回、TUGおよび握力の著明な低下を認めなかったことから、1対1での下肢運動介入が身体機能維持に寄与した可能性が示唆された。認知症高齢者では、認知機能低下により運動理解や継続が困難となりやすいが、本取り組みでは個別対応により対象者の反応に応じた声掛けや動作提示を行うことができ、継続的な運動実施に繋がったと考えられる。また低負荷かつ反復的な運動内容としたことで、身体的・精神的負担の軽減に繋がり、拒否の少ない介入を継続できた可能性が考えられた。継続した下肢運動が実施できたことにより身体機能維持だけでなく日中の活動機会の確保や生活リズムの安全に繋がった可能性が考えられた。食事摂取量やBMIにも大きな低下を認めなかったことから運動介入は栄養状態を含めた生活機能の維持にも寄与した可能性が示唆された。さらに、対象者の理解度に応じて視覚的提示や運動テンポ調節を行ったことも運動参加を促進した一因と考えられる。加えて、病棟内で実施したことにより病棟職員が対象者の残存能力を再認識する機会となり、介助方法や関わり方の見直しに繋がった可能性が示唆された。対象者が「できる能力」を病棟職員と共有できたことで、過介助予防や活動性向上への意識づけにも繋がったと考えられる。またリハビリ職が病棟内で継続的に関わることで多職種間の情報共有が促進され、病棟全体で対象者を支援する意識が向上したこことで、利用者の身体機能低下に関する相談が寄せられるなど早期に変化を共有できる体制づくりにも寄与した可能性がある。

【今後の課題】
今回の報告では対象者数が少なく対照群を設けていないため、介入効果を十分に検証するには限界がある。また、評価項目が身体機能中心であり、ADLや認知機能、精神面への影響については十分に検討できていない。今後は対象者数を増やすとともに、対照群を設定した比較検討や、ADL・認知機能・行動心理症状(BPSD)など多面的な評価を行い、認知症高齢者に対する病棟内運動介入の有効性についてもさらに検討していく必要がある。