講演情報

[23-P-F001-02]パステルシャイン®アートとの出会い~認知症高齢者の意欲向上と自己表現~

*長 亜紀子 (栃木県 介護老人保健施設 さくら野)
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【はじめに】
近年、認知症高齢者の増加に伴い、認知機能の維持や生活の質(QOL)の向上を目的とした非薬物療法への関心が高まっている。当施設においても、認知症予防や活動意欲の向上につながる取り組みを思案してきた。
そのような折、認知症予防やシンガポールでの癌患者様との出会いをきっかけにパステルシャインアート®の普及活動している講師と出会い、当法人内で体験会を開催した。パステルシャイン®アートとはパステルを削り、粉上にして描く手法で、誰でも簡単にグラデーションや明るい光を表現できるアートとして人気を得ている。指先を使って色を広げながら描くため、絵の経験に関係なく誰でも取り組みやすく、作品を完成させる達成感や満足度につながり脳を活性化するといった効果が期待されている。又、認知症予防のためのレクリエーション活動として自己表現の機会を得られる特徴がある。
今回、当施設では季節をテーマとしたパステルシャイン®アートを利用者様対象に導入し、利用者の活動意欲や交流への影響を検証した。又、一部の利用者については色彩選択とその理由を継続的に記録し、作品を通して見られた自己表現や心理的変化について考察したので報告する。
【目的】
認知症予防および認知機能の維持を目的としてパステルシャイン®アートを実施する。これらによる意欲向上や交流促進への影響を検証するとともに、利用者が選択する色彩とその理由から自己表現や心理的変化について考察する。
【対象】通常14:00~15:00のレクリエーションの時間、パステルシャイン®アート活動に参加した約15名。また、色彩選択の変化については、継続的観察が可能であるアルツハイマー型認知症の利用者3名。要介護度は要介護1~3で、利用回数が週1~3回。
【方法】
レクリエーションの時間を活用して2か月に1回実施し、季節感のある作品作成を行った。活動後には感想の聞き取りやアンケートを実施した。また、アルツハイマー型認知症ご利用者3名を対象に毎回同じ時間帯でパステルシャイン®アートを実施し、利用者にまず自由にパステルを3色選んでもらい、パステルを削りコットンで円を描いてもらった。活動後、「なぜその色を選んだのか」「今の気分はどうか」について聞き取りを行い記録した。またその色彩の変化と発言内容を経時的に比較した。
【結果】
活動開始当初は、「絵は苦手だから描けない」「うまく出来ない」など消極的な発言がみられた。しかし、回数を重ねるにつれ笑顔や会話が増加した。
作品制作中には利用者同士で相談しながら、助け合いや見せ合うなど交流が活発になった。「きれいな色だね」「上手に描けてるね」など自然な会話が生まれ、普段交流の少ない利用者同士のコミュニケーションの機会となった。アンケートでは、「またやりたい」「次は花を描きたい」「次回も楽しみ」など継続を希望する声が多く聞かれた。
ボランティアとして参加した高校生からは、「最初は何をしたらよいか分からなかったが、一緒に作品を作ることで自然に会話ができた」「利用者の笑顔を見ることができて嬉しかった」といった感想が聞かれた。
また、職員からは「作品を通して利用者の新たな一面を知ることができた」という意見が聞かれた。同じ色を選んでも出来上がった作品は異なっており「同じものにはならない」「おもしろい」などといった職員間での楽しいコミュニケーションのきっかけにもなった。
なお、認知症高齢者を対象とした色彩選択と発言内容の変化については現在も継続して記録・分析を行っており、その結果については発表当日に報告とする。
【考察】
パステルシャイン®アートを通して、利用者の活動意欲や他者との交流機会の増加が認められた。パステルシャイン®アートは絵の技術に左右されず誰でも作品を完成させることができるため成功体験や達成感につながりやすく、自信や意欲向上につながったと考えられる。また、季節をテーマとした作品制作は過去の記憶や経験を想起する機会となり、利用者同士や職員との会話を促進する効果があった。認知症高齢者にとって他者との交流は社会的孤立の予防や生活意欲の維持に重要であり、パステルシャイン®アートは他者との関わりを深める機会となったと考えられる。さらに、「なぜその色を選んだのか」を尋ねることで利用者自身の思いや経験を語る機会が生まれ、本人理解を深めることにもつながった。パステルシャイン®アートは単なる創作活動ではなく、利用者の内面を知る為のコミュニケーションツールとしても有効である可能性があると考えられた。
色彩選択に着目した観察では、同一利用者であっても毎回異なる色を選択しており、その時々の感情や記憶、価値観が作品に反映されていることがうかがえた。認知症高齢者は言葉による表現が難しくなる場合があるが、色を選ぶ行為や作品制作を通して自己表現を行うことができていた。
また、パステルシャイン®アートでは円を描く工程を取り入れており、繰り返し円を描くことで気持ちが落ち着き、活動に集中しやすくなるとされている。さらに、使用する色を自ら選択するため、その時々の気分や感情、記憶、価値観が作品に反映されることが期待される。
以上により、パステルシャイン®アートは認知症高齢者の活動意欲や交流促進に加え、自己表現や心理的変化を引き出す支援として有効である可能性があると考えられた。パステルシャイン®アートは利用者同士だけでなく、職員やボランティアとの交流を促進する役割もあることで自然なコミュニケーションが生まれ、世代間交流のきっかけにもなった。また、職員にとっても利用者の思いや価値観を知る機会となり、利用者一人ひとりの特性を深く理解することにつながったと考える。