講演情報
[22-O-L001-01]本人の希望を実現するために~身体拘束の脱却と在宅復帰に向けた取り組み~
*増田 裕仁 (長野県 円会センテナリアン)
【はじめに】
本症例は半年前から食思不振、体重減少のため入院。入院中、起立性低血圧による意識消失、せん妄等の症状が出現し身体拘束により廃用が進行。ADLの低下をきたし自宅復帰困難となる。老健入所後、本人の「歩きたい」という希望に応えるため、多職種連携により安全な生活環境づくりと積極的にリハビリ(以下リハ)を実施。その結果、見守り歩行が可能となり在宅復帰に繋げることができた一例を報告する。
【対象者】
80代男性
傷病名:パーキンソン病
家族構成:妻・次男妻(キーパーソン)
元々の生活:ADL自立 リンゴ農業を手伝っていた
〇入院中の経過
入院1ヶ月後、食思不振改善され退院予定となるが、起立性低血圧による意識消失が頻回にみられ退院延期。内服調整行うも改善無く安静指示となる。ベッド上生活に伴い、せん妄や易怒性、帰宅願望が出現。動き出し頻回で転倒あり体幹抑制、センサーマット対応。病院での治療は限界と判断され、介護保険を申請し退院。退院時ADLは食事ベッド上、排泄はオムツ内にて失禁促す対応。移動はリクライニング車椅子使用し、最大1時間離床可能であった。在宅介護が困難なため当施設へ入所。
【入所時評価】
・希望
本人-体力をつけたい、歩きたい
家族-体調に合わせて歩く機会があるといい
・身体機能
血圧-ベッド上G-upから段階的に評価 車椅子でも急激な低下無く離床可
筋力-四肢体幹MMT3~4
パーキンソン症状-固縮、歩行障害(小刻み、すくみ)
・ADL※[FIM]
起居移乗[5] 移動[1] 食事[6] 排泄[1](血圧管理のためベッド上対応)更衣整容[3] 入浴[1](機械浴)
【入所中の対応】
・抑制必須との情報だったが他職種と相談。老健として拘束なく過ごせる環境を検討していく事となる。
・ベッド環境は、見守りができるようにセンサーを設置しステーション近くの居室にて対応。
・医師より離床はリクライニング車椅子使用し姿勢変換時の血圧測定、症状確認行いながらリハ介入の指示あり。
【経過】
1週目
〇本人・生活の様子
・血圧低下、意識消失無く経過。
・新聞やテレビを見て穏やかに過ごす。
・昼夜ともに用事がある時はスタッフを呼ばれ危険行動なし。
〇リハ
・1~2人対応で症状に注意しながら立位、歩行訓練実施。独歩にて10m軽介助で歩行可。
・「歩けて嬉しい、ありがとう」と笑顔。
・HDS-R15点
2週目
〇本人・生活の様子
・血圧安定。医師上申にて姿勢変換時の血圧測定不要となり、積極的リハ介入の指示あり。
・「もっと歩きたい、トイレに行きたい」と訴えあり。介護職員と共に歩行及び排泄動作評価。
・移動は10m程の短距離から介助歩行導入、長距離は車椅子対応。
・排泄は尿便意あり動作軽介助。廊下トイレの使用開始。
・余暇時間は新聞の閲覧、計算プリントや軽作業をされて過ごす。
〇リハ
・独歩にて20m程軽介助で歩行可。
3週目
〇本人・生活の様子
・稀に目線が合わない、声掛けに返答ない等の反応低下みられたが、血圧低下や意識消失に至らず数秒で改善。
・「一人で歩きたい」と動き出しあり。歩く時は声をかけてもらうよう説明するが、表情険しく不満な様子。
・歩行機会を増やすために居室をトイレ近くに変更し、居室~トイレ間の介助歩行導入。
・ホール内歩行見守りに向けた生活場面の動作評価開始。
〇リハ
・独歩にて30m程見守りで可。稀に反応低下あり、その際はふらつきあり軽介助。
4~5週目
〇本人・生活の様子
・歩き出しの頻度増加。声掛けする度に「これじゃ家に帰っても何にもできない!」等の発言あり。
・動作評価の結果、反応低下時は眉間にしわが寄る、視線が合わない等の前兆があることを確認。
・見守り体制が整っているホール内は、反応低下の前兆を見極めた対応が可能なため、歩行を遠目見守りとした。
〇リハ
・独歩にて40m見守りで歩行可。
6~10週目
〇本人・生活の様子
・ホール外も一人で歩かれようとする。反応低下時に職員が駆け寄り体を支える等対応が困難なため、ホール内に留めるよう説明するが協力得られず。
・帰宅願望あり、精神的に落ち着きがない状態が続く。新聞等提供しても拒否あり。
・施設内カンファ実施。ADL向上、歩行見守りとなっており、本人の精神状態も考慮しサービス調整しての在宅生活が考案される。入所生活が続きストレスを感じている事や、現在のADL、歩行状態を家族へ説明。現状であれば在宅介護可能と了承が得られ、退所方向となる。
〇リハ
・机上評価は協力得られず。歩行訓練中心に介入。
11週目~12週目
〇本人・生活の様子
・家族から本人へ退所について説明され、徐々に落ち着かれる。
・再び軽作業や計算プリント等に取り組んでいただける。
【退所時評価】※変化点のみ
・ADL
移動[1→5](独歩にて最大45m可) 排泄[1→6] 整容[3→6] 入浴[1→3](個浴)
【考察・まとめ】
本症例は老健入所後、ベッド上生活からの脱却を目指し、拘束を用いない環境設定と入念な血圧管理の下で積極的な離床を促した。これにより、本人の「歩きたい」という希望に繋がる介助歩行の早期導入が可能となった。又、歩行状態や反応低下時の前兆を多職種間で共有する事でADLが向上し、最終的には見守り歩行での自宅復帰を達成する事ができた。拘束を是としない老健だからこそ安易に抑制せず、多職種が連携して、リスク管理と安全な環境設定を徹底した事が、自宅退所へ繋がった最大の要因であると考える。
一方、ベッド上生活から脱し歩行可能となったにも関わらず、精神的に落ち着かない状態もみられた。今までの発言の節々から、本人は退所後の生活までイメージして「もっと歩きたい」と訴えられていたのではないかと考えられる。歩行が獲得できた時点で目標は達成されたと思い込んでしまったが、本人は歩けるようになった先を見据えており、その思いをくみ取りきれなかった。今後は、本症例で得られた経験を活かし、本人の真のニーズに寄り添い、より質の高いケアが提供できるよう努めていきたい。
本症例は半年前から食思不振、体重減少のため入院。入院中、起立性低血圧による意識消失、せん妄等の症状が出現し身体拘束により廃用が進行。ADLの低下をきたし自宅復帰困難となる。老健入所後、本人の「歩きたい」という希望に応えるため、多職種連携により安全な生活環境づくりと積極的にリハビリ(以下リハ)を実施。その結果、見守り歩行が可能となり在宅復帰に繋げることができた一例を報告する。
【対象者】
80代男性
傷病名:パーキンソン病
家族構成:妻・次男妻(キーパーソン)
元々の生活:ADL自立 リンゴ農業を手伝っていた
〇入院中の経過
入院1ヶ月後、食思不振改善され退院予定となるが、起立性低血圧による意識消失が頻回にみられ退院延期。内服調整行うも改善無く安静指示となる。ベッド上生活に伴い、せん妄や易怒性、帰宅願望が出現。動き出し頻回で転倒あり体幹抑制、センサーマット対応。病院での治療は限界と判断され、介護保険を申請し退院。退院時ADLは食事ベッド上、排泄はオムツ内にて失禁促す対応。移動はリクライニング車椅子使用し、最大1時間離床可能であった。在宅介護が困難なため当施設へ入所。
【入所時評価】
・希望
本人-体力をつけたい、歩きたい
家族-体調に合わせて歩く機会があるといい
・身体機能
血圧-ベッド上G-upから段階的に評価 車椅子でも急激な低下無く離床可
筋力-四肢体幹MMT3~4
パーキンソン症状-固縮、歩行障害(小刻み、すくみ)
・ADL※[FIM]
起居移乗[5] 移動[1] 食事[6] 排泄[1](血圧管理のためベッド上対応)更衣整容[3] 入浴[1](機械浴)
【入所中の対応】
・抑制必須との情報だったが他職種と相談。老健として拘束なく過ごせる環境を検討していく事となる。
・ベッド環境は、見守りができるようにセンサーを設置しステーション近くの居室にて対応。
・医師より離床はリクライニング車椅子使用し姿勢変換時の血圧測定、症状確認行いながらリハ介入の指示あり。
【経過】
1週目
〇本人・生活の様子
・血圧低下、意識消失無く経過。
・新聞やテレビを見て穏やかに過ごす。
・昼夜ともに用事がある時はスタッフを呼ばれ危険行動なし。
〇リハ
・1~2人対応で症状に注意しながら立位、歩行訓練実施。独歩にて10m軽介助で歩行可。
・「歩けて嬉しい、ありがとう」と笑顔。
・HDS-R15点
2週目
〇本人・生活の様子
・血圧安定。医師上申にて姿勢変換時の血圧測定不要となり、積極的リハ介入の指示あり。
・「もっと歩きたい、トイレに行きたい」と訴えあり。介護職員と共に歩行及び排泄動作評価。
・移動は10m程の短距離から介助歩行導入、長距離は車椅子対応。
・排泄は尿便意あり動作軽介助。廊下トイレの使用開始。
・余暇時間は新聞の閲覧、計算プリントや軽作業をされて過ごす。
〇リハ
・独歩にて20m程軽介助で歩行可。
3週目
〇本人・生活の様子
・稀に目線が合わない、声掛けに返答ない等の反応低下みられたが、血圧低下や意識消失に至らず数秒で改善。
・「一人で歩きたい」と動き出しあり。歩く時は声をかけてもらうよう説明するが、表情険しく不満な様子。
・歩行機会を増やすために居室をトイレ近くに変更し、居室~トイレ間の介助歩行導入。
・ホール内歩行見守りに向けた生活場面の動作評価開始。
〇リハ
・独歩にて30m程見守りで可。稀に反応低下あり、その際はふらつきあり軽介助。
4~5週目
〇本人・生活の様子
・歩き出しの頻度増加。声掛けする度に「これじゃ家に帰っても何にもできない!」等の発言あり。
・動作評価の結果、反応低下時は眉間にしわが寄る、視線が合わない等の前兆があることを確認。
・見守り体制が整っているホール内は、反応低下の前兆を見極めた対応が可能なため、歩行を遠目見守りとした。
〇リハ
・独歩にて40m見守りで歩行可。
6~10週目
〇本人・生活の様子
・ホール外も一人で歩かれようとする。反応低下時に職員が駆け寄り体を支える等対応が困難なため、ホール内に留めるよう説明するが協力得られず。
・帰宅願望あり、精神的に落ち着きがない状態が続く。新聞等提供しても拒否あり。
・施設内カンファ実施。ADL向上、歩行見守りとなっており、本人の精神状態も考慮しサービス調整しての在宅生活が考案される。入所生活が続きストレスを感じている事や、現在のADL、歩行状態を家族へ説明。現状であれば在宅介護可能と了承が得られ、退所方向となる。
〇リハ
・机上評価は協力得られず。歩行訓練中心に介入。
11週目~12週目
〇本人・生活の様子
・家族から本人へ退所について説明され、徐々に落ち着かれる。
・再び軽作業や計算プリント等に取り組んでいただける。
【退所時評価】※変化点のみ
・ADL
移動[1→5](独歩にて最大45m可) 排泄[1→6] 整容[3→6] 入浴[1→3](個浴)
【考察・まとめ】
本症例は老健入所後、ベッド上生活からの脱却を目指し、拘束を用いない環境設定と入念な血圧管理の下で積極的な離床を促した。これにより、本人の「歩きたい」という希望に繋がる介助歩行の早期導入が可能となった。又、歩行状態や反応低下時の前兆を多職種間で共有する事でADLが向上し、最終的には見守り歩行での自宅復帰を達成する事ができた。拘束を是としない老健だからこそ安易に抑制せず、多職種が連携して、リスク管理と安全な環境設定を徹底した事が、自宅退所へ繋がった最大の要因であると考える。
一方、ベッド上生活から脱し歩行可能となったにも関わらず、精神的に落ち着かない状態もみられた。今までの発言の節々から、本人は退所後の生活までイメージして「もっと歩きたい」と訴えられていたのではないかと考えられる。歩行が獲得できた時点で目標は達成されたと思い込んでしまったが、本人は歩けるようになった先を見据えており、その思いをくみ取りきれなかった。今後は、本症例で得られた経験を活かし、本人の真のニーズに寄り添い、より質の高いケアが提供できるよう努めていきたい。
