講演情報
[22-O-D003-04]BPSDに対する介護職によるケアと薬物療法について
*今井 友和、柏渕 博 (栃木県 かみつが)
1.はじめに
当施設入所課ではBPSD(行動・心理症状 以後BPSD)の対応に苦慮している。BPSDは身体的要因・精神的要因・環境的要因をきっかけに起こる場合もある。BPSDの対応は介護職によるケアを基本とし、薬物療法は次の手段と考えられている。そこで当施設でBPSDが発生したケースを振り返り、介護職のケアのみで対応が可能なBPSD、介護職のケアの他に薬物療法が必要なBPSDについて考察したため報告する。
2.目的
当施設における認知症高齢者のBPSDに対し、介護職のケアのみで対応が可能なものと薬物療法の併用が必要なものを明らかにする。
3.期間
令和6年6月1日~令和8年5月30日
4.方法
1)BPSDが発生している4名のケアを振り返る。
2)BPSDに対してどの様な薬物療法が提供されたかを調査する。
3)発生時や介護職によるケア提供後のBPSDについてBPSD+25Qを使用し重症度を調査する。
重症度は1見守りの範囲、2対応したケアが可能で毎日ではない、3対応したケアが可能だが毎日ある、4対応に多大な困難が伴うが毎日ではない、5対応に多大な困難が伴い毎日継続する。以上の5段階で点数化する。
4)支援前後のADL状況を調査する。
5)介護職によるケアで対応が可能なBPSDか薬物療法も必要なBPSDか考察する
5. 対象者
BPSDが発生している入所者4名
6. 結果
1)A氏は夜間大声で叫び昼夜逆転になっていた。介護職の傾聴や日中の活動を促す等の介入でも症状の軽減は見られず薬物療法を併用した。BPSD+25Qが5点→3点と完全には軽減しなかった。その後も介護職によるケアと薬物療法では効果が出ずADLが低下した。
2)B氏は帰宅願望から転倒の危険性がある徘徊が発生していた。介護職による本人の居場所作り等の介入でBPSD+25Qが4点→0点と症状は改善した。ADL動作も低下することなく同様の生活を送ることが出来た。
3)C氏は男性職員を夫と誤認し、その後帰宅願望、転倒の危険性がある徘徊が見られ最終的には「夫が浮気している」と被害妄想が見られていた。介護職の傾聴や日中の活動を促す等では症状改善には至らなかったため薬物療法を併用した。BPSD+25Qが4点→2点と症状は完全に軽減しなかった。ADLも低下したため内服薬を減量した。
4) D氏は易怒性が強く他入所者や職員への暴言・暴力が見られていた。介護職による環境整備等で症状は少し軽減したが大きな改善には至らなかった。薬物療法を併用して提供することでBPSD+25Qが5点→2点と症状は軽減したがADLの低下も見られ内服薬を減量した。
7.考察
今回の取り組みから「環境調整や心理的受容によって、本人のニーズを満たすことが出来るBPSD」は介護職のケアで概ね対応が可能であることが示された。事例Bのように、帰宅願望や徘徊といった行動の背景には「家に帰りたい」「活動したい」という本人の表出可能なニーズが隠されている。これに対し、介護職が寄り添い、適切な声かけを行うことで、症状を完全に無くすことは出来ずともADLを維持したまま安全な生活を送ることが可能となった。つまり、本人の行動の「意味」を理解し、環境をあわせられるBPSDはケアの対象となる。
一方で「夜間の持続的な大声、夫の浮気といった被害妄想、易怒性による暴言・暴力など」は介護職のケアのみでの対応は困難であり、薬物療法の併用が必要であることが明らかになった。事例A(夜間の大声・昼夜逆転)、事例C(被害妄想)、事例Ⅾ(易怒性と暴言・暴力)については、介護職が傾聴や環境整備を尽くしても、十分な改善には至らなかった。これらの症状は、脳の器質的変化や精神医学的な不穏・興奮状態が影響していると考えられ、介護職の関わりという外部からの刺激だけでは、脳内の興奮を鎮めることに限界があったと考えられる。特に他利用者への精神的影響(事例A)や身体的危険(事例D)がある場合、集団生活の場である入所施設においては薬物療法の必要性が高いと言える。
本研究における最も重要な知見は、薬物療法を導入した事例(A・C・D)のすべてにおいて「BPSDは減少したが、結果的にADLの低下を招き薬物の減量を余儀なくされたという点である。これはBPSDを抑制するための薬剤が鎮静や意欲低下を引き起こし、結果としてADLの低下を招くという「薬物療法の限界とリスク」を示している。
以上のことから今後の介護実践において以下の2点が考えられる。1.介護職はBPSDを一括りにせず「ケアで対応可能な行動」か「医学的治療が必要な精神症状」なのかを初期段階で見極める視点を持つ必要がある。2.薬物療法は決してゴールではなく、症状の激しい「一時期」を乗り切るための手段であるべきだ。薬物療法導入後は看護師や医師と密に連携し、BPSDの減少度合いとADLの低下リスクを確認しながら、事例CやDの様に「症状が落ちついたら速やかに薬を減量・調整する」ことが求められる。その上で減量した分の不安や不穏を再び介護職のケアで補うという医療連携こそが、利用者のADLを維持しながらBPSDに対する唯一の方法であると確信する。
8.おわりに
本研究は4つの事例の分析から「環境調整や心理的受容によって、本人のニーズを満たすことが出来るBPSDは介護職のケアのみで対応が可能であることが示された。これからもBPSD発生時には状況を見極める対応して行きたいと考える。
当施設入所課ではBPSD(行動・心理症状 以後BPSD)の対応に苦慮している。BPSDは身体的要因・精神的要因・環境的要因をきっかけに起こる場合もある。BPSDの対応は介護職によるケアを基本とし、薬物療法は次の手段と考えられている。そこで当施設でBPSDが発生したケースを振り返り、介護職のケアのみで対応が可能なBPSD、介護職のケアの他に薬物療法が必要なBPSDについて考察したため報告する。
2.目的
当施設における認知症高齢者のBPSDに対し、介護職のケアのみで対応が可能なものと薬物療法の併用が必要なものを明らかにする。
3.期間
令和6年6月1日~令和8年5月30日
4.方法
1)BPSDが発生している4名のケアを振り返る。
2)BPSDに対してどの様な薬物療法が提供されたかを調査する。
3)発生時や介護職によるケア提供後のBPSDについてBPSD+25Qを使用し重症度を調査する。
重症度は1見守りの範囲、2対応したケアが可能で毎日ではない、3対応したケアが可能だが毎日ある、4対応に多大な困難が伴うが毎日ではない、5対応に多大な困難が伴い毎日継続する。以上の5段階で点数化する。
4)支援前後のADL状況を調査する。
5)介護職によるケアで対応が可能なBPSDか薬物療法も必要なBPSDか考察する
5. 対象者
BPSDが発生している入所者4名
6. 結果
1)A氏は夜間大声で叫び昼夜逆転になっていた。介護職の傾聴や日中の活動を促す等の介入でも症状の軽減は見られず薬物療法を併用した。BPSD+25Qが5点→3点と完全には軽減しなかった。その後も介護職によるケアと薬物療法では効果が出ずADLが低下した。
2)B氏は帰宅願望から転倒の危険性がある徘徊が発生していた。介護職による本人の居場所作り等の介入でBPSD+25Qが4点→0点と症状は改善した。ADL動作も低下することなく同様の生活を送ることが出来た。
3)C氏は男性職員を夫と誤認し、その後帰宅願望、転倒の危険性がある徘徊が見られ最終的には「夫が浮気している」と被害妄想が見られていた。介護職の傾聴や日中の活動を促す等では症状改善には至らなかったため薬物療法を併用した。BPSD+25Qが4点→2点と症状は完全に軽減しなかった。ADLも低下したため内服薬を減量した。
4) D氏は易怒性が強く他入所者や職員への暴言・暴力が見られていた。介護職による環境整備等で症状は少し軽減したが大きな改善には至らなかった。薬物療法を併用して提供することでBPSD+25Qが5点→2点と症状は軽減したがADLの低下も見られ内服薬を減量した。
7.考察
今回の取り組みから「環境調整や心理的受容によって、本人のニーズを満たすことが出来るBPSD」は介護職のケアで概ね対応が可能であることが示された。事例Bのように、帰宅願望や徘徊といった行動の背景には「家に帰りたい」「活動したい」という本人の表出可能なニーズが隠されている。これに対し、介護職が寄り添い、適切な声かけを行うことで、症状を完全に無くすことは出来ずともADLを維持したまま安全な生活を送ることが可能となった。つまり、本人の行動の「意味」を理解し、環境をあわせられるBPSDはケアの対象となる。
一方で「夜間の持続的な大声、夫の浮気といった被害妄想、易怒性による暴言・暴力など」は介護職のケアのみでの対応は困難であり、薬物療法の併用が必要であることが明らかになった。事例A(夜間の大声・昼夜逆転)、事例C(被害妄想)、事例Ⅾ(易怒性と暴言・暴力)については、介護職が傾聴や環境整備を尽くしても、十分な改善には至らなかった。これらの症状は、脳の器質的変化や精神医学的な不穏・興奮状態が影響していると考えられ、介護職の関わりという外部からの刺激だけでは、脳内の興奮を鎮めることに限界があったと考えられる。特に他利用者への精神的影響(事例A)や身体的危険(事例D)がある場合、集団生活の場である入所施設においては薬物療法の必要性が高いと言える。
本研究における最も重要な知見は、薬物療法を導入した事例(A・C・D)のすべてにおいて「BPSDは減少したが、結果的にADLの低下を招き薬物の減量を余儀なくされたという点である。これはBPSDを抑制するための薬剤が鎮静や意欲低下を引き起こし、結果としてADLの低下を招くという「薬物療法の限界とリスク」を示している。
以上のことから今後の介護実践において以下の2点が考えられる。1.介護職はBPSDを一括りにせず「ケアで対応可能な行動」か「医学的治療が必要な精神症状」なのかを初期段階で見極める視点を持つ必要がある。2.薬物療法は決してゴールではなく、症状の激しい「一時期」を乗り切るための手段であるべきだ。薬物療法導入後は看護師や医師と密に連携し、BPSDの減少度合いとADLの低下リスクを確認しながら、事例CやDの様に「症状が落ちついたら速やかに薬を減量・調整する」ことが求められる。その上で減量した分の不安や不穏を再び介護職のケアで補うという医療連携こそが、利用者のADLを維持しながらBPSDに対する唯一の方法であると確信する。
8.おわりに
本研究は4つの事例の分析から「環境調整や心理的受容によって、本人のニーズを満たすことが出来るBPSDは介護職のケアのみで対応が可能であることが示された。これからもBPSD発生時には状況を見極める対応して行きたいと考える。
