講演情報

[22-O-L005-02]高齢者の歩行障害に対する足趾把持トレーニングの意義足趾把持力強化がもたらす歩行バランス機能とADL向上

*根井 陽太、星野 篤宏、橋本 佳彦、谷口 裕子、川村 博司、本間 達也 (福島県 1. 医療法人 生愛会 附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンター)
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【緒言】2025年大会で虚弱高齢者の足趾把持力と運動機能・ADLに相関があることを報告した。足趾把持力強化がリハビリテーション(リハ)の効果を高め、歩行機能・ADL向上に貢献することが期待される。
【目的】足趾把持トレーニング(足趾トレ)が歩行障害者の運動機能・ADL向上に結びつくことを検証する。
【対象と方法】当老健の通所または入所リハ利用者で足趾把持力測定が可能であった64症例(65~102歳、男性21例、女性43例、通所51例、入所13例)を対象(被検者)とし、2025年4月~26年1月に足趾把持力、運動機能[歩行バランス機能:TUG(Timed Up and Go)]、ADL[R4動作スケール]を評価後、3~12か月リハを実施し、26年4月にリハの効果を検証した。その後足趾トレを付加したリハを開始し、足趾筋力測定器を用いて起坐位で足趾把持動作10~15回/セットを2~3セット/日、1~5日/週を8週間行った。64症例を歩行障害の程度により自立歩行:A群38例、歩行補助具歩行:B群19例、車椅子自操:C群7例の3群に分け、以下の1~4を検討した。1.前回の報告で足趾把持力と相関を認めた運動機能はB群の下肢筋力[足関節背屈筋力:MMT-足]、B群の足関節可動域[ROM-足]、B群の[TUG]、ADLではC群の[R4排泄と入浴動作スケール]であり、これを踏まえ、通常リハの前後(25年4月~26年1月と26年4月)と足趾トレを加えたリハの前後(26年4月と6月)で足趾把持力と運動機能[TUG]、ADL[R4動作スケール]を比較し、足趾トレの効果を評価した。なお、26年4月と6月には[MMT]、[ROM]、[FIM(機能的自立度評価法)]、 [入所被検者の在宅療養への移行率]も評価した。2.足趾トレにより足趾把持力が向上した症例(有効群)の運動機能とADLを通常リハ前後と足趾トレ前後で分析した。3.足趾把持力が不変または低下した症例(無効群)に対して、効果を妨げる要因について a)年齢、b)基礎疾患、c)認知症重症度、d)身体障害の重症度、e)足趾変形の有無・程度、f)その他の因子を分析した。 統計学的検討にはt検定を用い、p<0.05を有意差ありとした。
【結果】1.全症例の足趾把持力は通常リハ実施後4.9±4.1から4.7±3.2kgに低下し、TUGも19.7±10.0から22.8±12.6秒に悪化した。ただし、いずれも有意差を認めなかった。足趾把持力とTUGが向上した症例は4例(6.3%)に留まった。足趾トレ付加後、足趾把持力は5.2±3.9kg(p<0.01)、TUGは21.2±12.8秒(p<0.01)に改善し、また群別でもA、B両群で有意に向上した。なお、C群は足趾把持力測定困難者が多く、有意差検定が困難であった。2.足趾トレ付加後に足趾把持力が向上した有効群は全64症例中42例(66%)、A群38例中27例(71%)、B群19例中11例(58%)、C群7例中4例(57%)であった。有効群全例の足趾把持力は足趾トレ前後で4.8±3.5kgから6.1±4.3kgに復活し(p<0.01)、群別でもA群5.5±3.6から7.2±4.6kg、B群3.7±3.4から4.6±3.3kgと向上した(p<0.01)。有効群全例のTUG は22.3±12.9から19.5±11.6秒(p<0.01)に向上し、他の運動機能もROM-股を除いて有意な改善を認めた。群別でもA 、B両群ともTUG、MMT-股・膝・足、ROM-膝、A群のROM-足、B群のROM-股が有意に向上した。有効群42例中35例(83%)で運動機能とADLが改善した。ADLでは、R4で差を見出せなかったが、有効群全例のFIMは105.7±13.4から106.7±13.3点に有意に改善した(p:0.040)。 数値上僅かな向上に留まったが、全症例の59%、有効群の90%で満足度が向上し、入所リハ症例の84%で在宅療養への移行が可能となった。3.無効群の分析から、95歳以上、がん・パーキンソン病・脊柱管狭窄症・重症認知症などの進行性疾患、帯状疱疹後神経痛による疼痛コントロール不良、重度の外反母趾等で足趾トレ効果が認められなかった。
【考察】歩行障害は連鎖的に他の生活動作の障害をもたらし、意欲、活動性を減退させ、QOL低下や寿命の短縮に繋がるので、歩行障害に対するリハは重要である。通常リハのみで期待した効果が得られない場合に足趾トレを付加することで運動機能が回復し、ADL改善とQOL向上に結びつくことが示された。A、B両群では有効性が認められたが、有意差を検証できなかったC群にも有効であった症例があり、症例数が増えれば、C群でも検証されるものと思われた。またこれまで足趾把持力とFRT(Functional Reach Test)やBBS(Berg Balance Scale)などの動的・静的両バランス機能との相関を検証した報告はあるが、TUGのような日常生活動作を反映する動的な歩行バランス機能を検討した報告はなく、今回、足趾把持力の向上が歩行バランス機能の改善に繋がることを示したことには意義がある。足趾筋力測定器は足趾把持力をモニターしながら、同時に足趾トレができる利点があり、また前回報告した通り最適な測定体位が起坐位であるため車椅子使用者にも実施可能で、検者、被検者とも負担が軽く、足趾トレを介護士、看護師が行うこともできる。リハの効率化とスタッフの負担軽減にも貢献できる。一方で足趾トレに不利な要素も同定できた。がんやパーキンソン病のような徐々に病状が進行する疾患、重度の認知症で意欲や理解力に乏しい場合には困難であった。また効果が得られなかった症例として帯状疱疹後神経痛の疼痛コントロール不良症例や外反母趾による足趾変形が高度な症例も経験した。今回は足趾トレ期間を8週間に設定したが、この期間を延長することでさらなる運動機能の向上とADLの改善を図ることが期待される。今後、今回の症例に対する足趾トレを継続し、その成果を追跡することとした。
【結語】高齢歩行障害者に対する足趾把持力の強化は、運動機能、特に歩行バランス機能、そしてADLの向上に有効であり、転倒予防に結びつく可能性が示唆される。適応に配慮する必要はあるが、今後、積極的に取り組むべきリハの手段の一つである。