講演情報
[22-O-J001-02]GLIM基準を用いた低栄養診断の試み
*北林 豊文、上田 耕臣 (和歌山県 医療法人恵友会 老人保健施設 恵友ライフケアーセンター)
【はじめに】介護老人保健施設入所者における低栄養は、ADL低下や入院、死亡リスクの上昇と関連しており、系統的な栄養評価と介入が求められている。一方、従来用いられてきたBMIや体重減少による低栄養のリスク評価では、サルコペニアを伴う高齢者の栄養障害を十分に捉えきれないという課題がある。2018年に世界各国の主要な臨床栄養学会が協働して策定したGLIM基準は、表現型基準と病因基準を組み合わせて低栄養を診断する国際基準として位置づけられ、高齢者施設を含むさまざまな療養現場での有用性が報告されている。しかし、介護老人保健施設におけるGLIM基準導入の実態や、導入による低栄養者抽出状況の変化に関する報告は少ない。【目的】介護老人保健施設入所者に対してGLIM基準による低栄養診断を実施し、低栄養の有病率および重症度別判定(中等度・重度)を明らかにするとともに、従来の低栄養のリスク評価の結果と比較することを目的とした。【対象と方法】対象は2026年5月時点で当施設に入所していた47名とし、ターミナル期入所者は除外した。内訳は男性10名、女性37名、平均年齢90.4±5.6歳、平均要介護度3.45であった。全員に対し、従来の低栄養のリスク評価とGLIM基準の両方により栄養評価を行った。従来のリスク評価では、BMI、体重減少率、食事摂取量、栄養補給法、褥瘡の5項目を用い、全てが低リスクに該当する場合を「低リスク」、高リスクに一つでも該当する場合を「高リスク」、それ以外を「中リスク」と判定した。GLIM基準は本来、既存の検証済みのスクリーニングツール(MUST:Malnutrition Universal Screening Tool、MNA-SF:Mini Nutritional Assessment-Short Formなど)によるスクリーニングでリスクありと判定された者に適用する二段階方式を基本とする。しかし、介護老人保健施設入所者は高齢かつ低栄養リスクが極めて高い集団であり、スクリーニングによる選別の意義は限定的と考えられたため、本研究では初期スクリーニングを行わず、入所者全員に直接GLIM基準を適用した。表現型基準として、意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少を評価した。体重減少は過去6カ月の体重変化から算出した。低BMIはアジア人に推奨されるカットオフを参考に、70歳未満はBMI 18.5未満、70歳以上はBMI 20.0未満と定義した。筋肉量は下腿周囲長を用いて評価し、日本人高齢者におけるカットオフ値である男性30cm未満、女性29cm未満を筋肉量減少ありと判定した。病因基準では、食事摂取量減少/消化吸収能低下に加え、疾病負荷/炎症について基礎疾患や炎症所見の有無を総合的に評価した。表現型基準と病因基準の双方で少なくとも1項目以上を満たした場合に低栄養と診断し、表現型基準に基づき中等度および重度に重症度判定を行った。【結果】対象47名のうち、従来のリスク評価で低栄養のおそれがある「中リスク」と判定された入所者は26名(55.3%)、低栄養状態である「高リスク」と判定された入所者は7名(14.9%)であった。これに対し、GLIM基準による低栄養診断では15名(31.9%)が低栄養と診断され、そのうち中等度低栄養は2名(4.2%)、重度低栄養は13名(27.7%)であった。従来のリスク評価およびGLIM基準の両方で低栄養と判定されたのは5名であった。この5名では、表現型基準として全員が低BMIおよび筋肉量減少の項目で基準を満たし、病因基準では食事摂取量減少/消化吸収能低下で4名、疾病負荷/炎症で1名が該当した。従来の低栄養のリスク評価のみで低栄養と判定された入所者は2名であった。いずれも長期入院治療後の入所例で、体重減少率とそれに伴う低BMIの項目で高リスクと判定されたが、GLIM基準では表現型基準として意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少はいずれも基準を満たしたものの、食事摂取量減少/消化吸収能低下もなく、疾病負荷/炎症も該当しないため病因基準を満たされず低栄養とは診断されなかった。一方、GLIM基準のみで低栄養と判定された入所者は10名であり、従来のリスク評価ではいずれも「中リスク」と判定されていた。これらの入所者では、病因基準では食事摂取量減少のみが4名、食事摂取量減少と疾病負荷/炎症の両方が3名、疾病負荷/炎症のみが3名で該当した。表現型基準では意図しない体重減少を満たした入所者はいなかったが、全員が低BMIおよび筋肉量減少を認めたことでGLIM基準での低栄養と診断された。つまり従来のリスク評価では見逃されやすい低BMI・筋肉量減少を伴う低栄養例が新たに抽出されており、低体格かつ筋肉量減少を呈するサルコペニア関連低栄養群を抽出できた可能性が示唆された。【まとめ】介護老人保健施設入所者におけるGLIM基準導入は、従来の低栄養のリスク評価では見逃されていたサルコペニア関連低栄養の抽出に有用であった。一方で、筋肉量評価に要する労力や炎症所見の判断基準など、施設現場での運用上の課題も認められた。今後は、GLIM基準により抽出された低栄養入所者に対する栄養介入の内容を充実させ、その効果検証を通じて低栄養改善につなげていく必要がある。
