講演情報

[22-O-J003-05]胃瘻でも食べる楽しみを諦めない~五感刺激の試み~

*廣岡 真己、荒川 朋恵 (奈良県 介護老人保健施設 大和田の里)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【背景】
この取り組みを始めたきっかけは、認知症チームケア推進加算算定において、栄養士として何かできることはないかと検討したことよりはじめた。胃瘻から栄養を摂っている方は、医療的ケアの必要性から、ルーティン化しやすく、機械的に栄養を体内に注入される。その事により、自己決定や生活の彩りを感じる機会が減少する傾向にある。特に、認知症の進行に伴い意思疎通が困難となった方は、人工的な栄養補給による生命維持が優先される一方で、「食」を通じた喜びや刺激を提供する機会が失われがちである。この取り組みを実施することによって、胃瘻から栄養を摂っている利用者でも、「食を楽しむ」事ができ、いろいろな反応が表出されるのではないかと考えた。
【目的】
胃瘻から栄養を摂っている方に対し、①食を楽しむ機会の創出:食を楽しむ機会を作り、生活に彩りを感じる機会を作る。②五感への刺激:視覚・嗅覚・味覚などの五感を刺激し、感情や記憶の喚起を促す。③コミュニケーションの促進:食を介した関わりにより、利用者の自発的な反応や対話を引き出す。④多職種連携への栄養士の参画:認知症チームケア推進加算において、栄養士が専門性を活かし介入することを目的とした。
【方法】
対象者の選定は、栄養摂取方法が胃瘻であり、体調が安定している入所者とした。実施前に医師の許可を得て、看護師と連携しながら安全に配慮して行った。実施頻度は、月1回とし、看護師とともに体調や覚醒状態を確認した。事前準備は、栄養士が、本人もしくは家族に、好きな食べ物や昔よく作った料理などの聞き取りを行い、使用する食材を選定した。
実施手順として、はじめに、視覚で色や形を認識するために、食品や料理を目で見てもらった。次に、触覚で、温かさ・硬さ・質感を感じるために、食品に手で触れたり、器を持ったり、唇に軽く触れた。続いて、嗅覚で、記憶や嗜好を引き出すために、食材の匂いを嗅いでもらった。最後に、味覚で風味を味わってもらうため、食品を液状にしスポンジブラシに含ませて、食品の特性により、味覚地図上に触れさせた。残った食品は、胃瘻からの注入として、安全に配慮しながら、味覚の記憶と結びつけた。実施時には、参加職員が、覚醒状態・表情・発声・反応などを観察し、観察表に記録した。
【結果】
聞き取りの結果では、A氏の好んで食べられていたものは、ブラックコーヒー、おまんじゅう、さつま芋、焼き芋、大学芋。身体のために、野菜を多く摂れる、野菜スープをよく作って飲んでいた。B氏の好んで食べられていたものは、甘いもの、あずきの和菓子。夏はあずきバーをよく食べていた。C氏の好きな食べ物は、あまいもの、肉。嗜好品では、日本酒、コーヒー、ほうじ茶、緑茶、紅茶が好き。子供が小さい頃は、パンや、ロールケーキ、おはぎ、クッキーをよく作った。
観察表の記録では、A氏は、どの時も比較的覚醒が良く、口元に反応を感じた。B氏は、覚醒状態にもよるが、その時により、他の反応にも差がでる状態だった。C氏は、覚醒状態が良くない時は、他の反応も乏しい状態だった。
【結論】
この取り組みによって、利用者の認知面や反応が常によくなったという客観的な効果はみられなかった。しかし、情緒面およびコミュニケーションの側面においては、顕著な成果がみられた。食材を目にしたり、お気に入りの風味を感じた瞬間に、普段は無表情であることが多い利用者がふっと柔らかな笑顔をみせる場面があったり、スタッフの問いかけに対して声を出してくれるなど自発的な反応の増加が観察された。
聞き取りを行った際、家族様から「ぜひ継続し介入してください」と言ってくださった言葉を励みに今後もこの取り組みを続けていきたい。
【展望】
介護の現場では、定量的な成果が重視されがちであるが、本取り組みを通じて得られた「笑顔」や「対話の増加」は、数値には表れないものの、当施設が目標としている「ご利用者様一人一人と向き合い、その人らしく過ごして頂くことで自立を支援します」を実現していると考える。食を通して、利用者の尊厳を尊重し、多職種がそれぞれの専門性を活かしながら関わることで五感や認知面への刺激を与えることができる。今後も、目の前の利用者の「今」に寄り添いたい。