講演情報
[22-O-L006-01]入所者に対する不安定板を用いたバランス訓練の実践重心移動能力および立ち上がり能力の変化
*萩原 健太 (兵庫県 尼崎老人保健施設ブルーベリー)
【はじめに】高齢者における転倒は骨折や活動量低下を招き、ADLやQOLの低下につながる重要な問題です。バランス能力の低下は転倒の危険因子の一つとされており、その改善を目的とした介入が求められています。竹島らは、バランス運動が重心移動能力や姿勢制御能力の向上に有効であり、転倒予防に寄与すると報告しています。不安定板を用いた訓練は、不安定な支持面上で姿勢を保持しながら運動を行うことで、姿勢制御能力や重心移動能力の向上が期待されます。しかし、介護老人保健施設入所者を対象とした報告は多くありません。そこで今回、不安定板を用いたバランス訓練を実施し、その効果について検討しました。【目的】介護老人保健施設入所者に対し、不安定板を用いたバランス訓練を実施し、バランス能力および移動能力への影響を検討することを目的としました。【対象】当施設入所者7名を対象としました。対象者の移動能力は施設内独歩から車椅子主体まで幅広く、立位保持が可能で訓練参加に支障のない方を対象としました。【方法】〈評価方法〉介入前後にTimed Up and Go Test(TUG)、Functional Reach Test(FRT)、Five Times Sit-to-Stand Test(5回立ち上がりテスト)を実施しました。対象者の身体機能や安全面に配慮し、各評価は個々の能力に応じた条件で実施しました。また、介入前後は同一条件で評価を行いました。〈介入方法〉介入期間は3週間とし、週2回、計6回実施しました。訓練時間は1回20分程度としました。訓練内容は、不安定板上での踵上げ運動10回3セット、つま先上げ運動10回3セット、前方リーチ運動10回および側方リーチ運動左右各10回としました。安全面に配慮し、対象者の能力に応じて壁への手掌接地、手すり把持、または支持物なしの条件で実施しました。【結果】FRTでは7名全員に改善が認められました。5回立ち上がりテストにおいても7名全員に時間短縮が認められました。TUGは方向転換を含む歩行評価であるため、安全に実施可能と判断した5名に対して実施しました。その結果、5名中4名で改善、1名で軽度の低下が認められました。【考察】本報告では、対象者の身体機能や安全性に応じて評価条件を個別に設定したため、対象者間での単純比較には限界がある。そのため、本研究では各対象者の介入前後の変化に着目して効果を検討した。 今回の訓練では、不安定板上で前方および側方へのリーチ運動を反復して実施した。不安定板上では支持面が揺れるため、身体動揺に応じて足関節・膝関節・股関節周囲筋が協調的に活動し、姿勢制御を行う必要がある。磯らは、不安定な支持面での運動が姿勢制御能力の向上に有効であると報告しており、本研究でも同様に、繰り返される姿勢調整が姿勢制御能力の改善を促した可能性が示唆される。秋月らは不安定板を用いたバランストレーニングにより課題遂行能力が向上し、その効果が24時間後も保持されることを示している。これは運動学習の関与を示すものであり、今回の訓練においても、踵上げ・つま先上げ、前方および側方リーチといった反復課題を通じて、効率的な重心移動や姿勢制御の方法が学習され、バランス能力向上につながったと考えられる。また、立ち上がり動作には下肢筋力だけでなく、前方への重心移動と姿勢制御能力が求められる。不安定板上での訓練により姿勢制御能力が向上し、立ち上がり時の重心移動がより効率的になったことで、動作時間の短縮につながり、5回立ち上がりテストでも全対象者で改善が認められたと考えられる。一方、TUGの改善は限定的であった。TUGは立ち上がり、歩行、方向転換など複数の要素を含む複合課題であり、今回の介入が主に静的・準動的バランス能力の向上に焦点を当てていたことから、歩行や方向転換といった動的要素に十分な変化が生じなかった可能性がある。本研究は対象者数が少なく、対照群を設けていない点に加え、評価条件が対象者ごとに異なるという制約がある。そのため、介入効果の一般化には限界がある。今後は、対象者数の拡大、評価条件の統一、対照群の設定など、研究デザインの改善が必要であると考える。【結論】介護老人保健施設入所者に対する不安定板を用いたバランス訓練により、FRTおよび5回立ち上がりテストに改善が認められました。不安定板上でのリーチ運動や下肢機能訓練は、重心移動能力および姿勢制御能力の向上に寄与し、運動学習を促進する可能性が示唆されました。【参考文献】1)竹島伸生 編著:転倒予防のためのバランス運動の理論と実際.医歯薬出版,2009.2)磯あすか:バランス機器.PTジャーナル,53(2):157-163,2019.3)秋月千典,山口和人,矢吹惇,他:不安定板を用いたバランストレーニングの運動学習効果.神戸国際大学リハビリテーション研究,12:3-9,2021.
