講演情報
[22-P-A001-05]「口チャック」が開いてくれました
*星川 朔良、安達 真理 (山形県 介護老人保健施設ラ・フォーレ天童)
【はじめに】高齢者でも様々な理由により拒食に至ることがあります。拒食の要因として高齢者では拒食がBPSDの約6%に出現するといわれています。今回、当施設入所者で「口チャック」と宣言し、強い拒食、拒薬の意志を表しましたが、スタッフ間の連携および家族の積極的な関わりにより徐々に食事の再開に至った事例について報告します。
【事例紹介】Hさん、96歳、女性。報告の同意を得ました。
職歴:助産師として長年、指導的立場で病院勤務歴があり、元看護職としてのプライドが極めて高い方。
家族状況:長男(養子)の家族と2世帯。家族との関係は良好。
既往歴:急性胆嚢炎による胆嚢摘出。
診断:アルツハイマー病、高血圧症。
身体の状況:要介護1,レベルB1、IIIa、身長152cm、体重36.1kg、BMI 15.6、移動 車椅子、入浴 全介助、整容 全介助、排泄 全介助、HDS-R 16~23点。
【心理テスト】高齢者用EGOGRAM:CP8、NP8,A8,FC6,AC0。CP、NP、Aが高く、親の立場をとることが多い。ACが低く、ストレス耐性はありますが、他人からの世話は頼りたがらない性格傾向と推察されます。風景構成法(拒食前):全体的構成はまとまっていますが、アイテムが1列に描画されています(高石分類3、平面的部分的統合型)。川幅は広く描画されており精神的エネルギーは保たれています。川岸に多数の石が敷き詰めて描かれておりストレスや心的抵抗があると思われます。彩色されていない空白が多く川の下部も空白であり、認知レベルの低さと無意識の世界の空虚さがうかがえます。
【経過】拒食出現の2か月前ころから嚥下機能の低下と食事量の低下があり、体重減少傾向にありました。症状出現日を第1日として経過を示します。
第1日:突発的に「天から食うなーといわれた。口チャック」といって拒食、拒薬が始まりました。表情は硬く、全粥ミキサー食の夕食は胡麻豆腐とクリミール3口は摂取しましたが、水分、内服薬は「毒だ!毒だ!」と強い拒否があり受け付けない状態となりました。スタッフ間では、本人らしさを大切に、プライドを尊重する姿勢で連携したケアの継続と、家族からの援助も依頼することとしました。
第2日~第4日:その後も食べ物は少量を口にいれても飲みこまず、ペースト食に変更するも「チャック」といって拒食、拒薬が続きました。
第5日~第7日:尿量が減少し、脱水状態の進行が危ぶまれましたが、スタッフの声掛けと介助により水分数口、ヨーグルト数口摂取し、家族がジュース類を勧めたところ180cc、チーズ少量を食べ「安心してたべられました」とのこと。夕食時に水分100ccほど飲みましたが「チャック」と口を閉じました。その後も同じような状態が続きました。また、「ヤコビー線のところが痛い」と専門用語で訴え、専門職としてのプライドを感じました。
第8日~10日:表情が次第に和らぐようになりました。家族持参の飲み物の摂取を促すと「飲む、食う」と言うもののいざ摂取しようとすると閉口されたままでした。しかし、家族が持参されたおにぎりは数口食べることが出来ました。
第11日~13日:「おいしかった。梅酒飲みたい」などの発語もあり、食事量が次第に増加し服薬もするようになりました。時折食事介助に拒否があったり、ペースト食を見て「こんなもの食べられません。こんなどろどろしたもの…」と訴えることもありました。ペースト食から、全粥・細刻み食へ変更してみました。本人も満足気で笑顔が見られるようになってきました。また、家族が面会に来られ、本人の好むジュースやプリンを勧めると拒否なく摂取されました。
第14日~16日:ベッド上での食事介助から、居室にて車椅子に移乗し、サイドテーブルをセッティングして食事介助する事に拒否なく応じてくれるようになりました。その後、自力摂取される日も増え、日によっては、梅干しと共に主食のみ全量摂取されたり、前半は自力摂取し、後半は介助で本人が食べられる範囲で摂取される様になり、拒薬もなくなりました。不穏な様子もなく、以前のようなはつらつとした様子となり、トイレ誘導も可能となりました。
第17日~:以前のように会話の中でスタッフの名前が出てくるようになり、会話も続くようになりました。しかし、食事中ずっと咀嚼してばかりで水で流し込んで食べる事もあり、再度ペースト食へ変更したところ本人も拒否なく摂取され、自力で全量摂取される事が増えました。笑顔も増え、自力での起き上がりや車椅子移乗が出来る日が増えてきました。
【考察】拒食・拒薬はせん妄を契機として現れたと思われます。Hさんは元看護職としてのプライドが高い方であったので、スタッフ間で、Hさんのプライドを尊重することを大切に、共感と傾聴をもってケアに当たることを共有しました。また、家族の協力も得て無理に摂食を勧めることなく対応しました。風景構成法やEGOGRAMから得られた心理面の情報も参考としました。医師からは、経過中に輸液は実施しなかったが、東北大方式絶食療法に類似した経過となり、心理面の改善が得られた可能性もあるとの見解がありました。絶食療法は高齢者には適応はありませんが、絶食により軽度のケトーシスがもたらされ、回復食過程で心身の安定と自律神経系の回復が得られる強力な心理療法であります。
【まとめ】拒食、拒薬は生命維持に影響が大きい。今回、「口チャック」と宣言し拒食、拒薬を続けた事例を経験しました。本人らしさとプライドを大切にしたケアの継続と、家族からの援助により回復が得られました。心理テストのEGOGRAMおよび風景構成法は心理面の把握に参考となりました。
【事例紹介】Hさん、96歳、女性。報告の同意を得ました。
職歴:助産師として長年、指導的立場で病院勤務歴があり、元看護職としてのプライドが極めて高い方。
家族状況:長男(養子)の家族と2世帯。家族との関係は良好。
既往歴:急性胆嚢炎による胆嚢摘出。
診断:アルツハイマー病、高血圧症。
身体の状況:要介護1,レベルB1、IIIa、身長152cm、体重36.1kg、BMI 15.6、移動 車椅子、入浴 全介助、整容 全介助、排泄 全介助、HDS-R 16~23点。
【心理テスト】高齢者用EGOGRAM:CP8、NP8,A8,FC6,AC0。CP、NP、Aが高く、親の立場をとることが多い。ACが低く、ストレス耐性はありますが、他人からの世話は頼りたがらない性格傾向と推察されます。風景構成法(拒食前):全体的構成はまとまっていますが、アイテムが1列に描画されています(高石分類3、平面的部分的統合型)。川幅は広く描画されており精神的エネルギーは保たれています。川岸に多数の石が敷き詰めて描かれておりストレスや心的抵抗があると思われます。彩色されていない空白が多く川の下部も空白であり、認知レベルの低さと無意識の世界の空虚さがうかがえます。
【経過】拒食出現の2か月前ころから嚥下機能の低下と食事量の低下があり、体重減少傾向にありました。症状出現日を第1日として経過を示します。
第1日:突発的に「天から食うなーといわれた。口チャック」といって拒食、拒薬が始まりました。表情は硬く、全粥ミキサー食の夕食は胡麻豆腐とクリミール3口は摂取しましたが、水分、内服薬は「毒だ!毒だ!」と強い拒否があり受け付けない状態となりました。スタッフ間では、本人らしさを大切に、プライドを尊重する姿勢で連携したケアの継続と、家族からの援助も依頼することとしました。
第2日~第4日:その後も食べ物は少量を口にいれても飲みこまず、ペースト食に変更するも「チャック」といって拒食、拒薬が続きました。
第5日~第7日:尿量が減少し、脱水状態の進行が危ぶまれましたが、スタッフの声掛けと介助により水分数口、ヨーグルト数口摂取し、家族がジュース類を勧めたところ180cc、チーズ少量を食べ「安心してたべられました」とのこと。夕食時に水分100ccほど飲みましたが「チャック」と口を閉じました。その後も同じような状態が続きました。また、「ヤコビー線のところが痛い」と専門用語で訴え、専門職としてのプライドを感じました。
第8日~10日:表情が次第に和らぐようになりました。家族持参の飲み物の摂取を促すと「飲む、食う」と言うもののいざ摂取しようとすると閉口されたままでした。しかし、家族が持参されたおにぎりは数口食べることが出来ました。
第11日~13日:「おいしかった。梅酒飲みたい」などの発語もあり、食事量が次第に増加し服薬もするようになりました。時折食事介助に拒否があったり、ペースト食を見て「こんなもの食べられません。こんなどろどろしたもの…」と訴えることもありました。ペースト食から、全粥・細刻み食へ変更してみました。本人も満足気で笑顔が見られるようになってきました。また、家族が面会に来られ、本人の好むジュースやプリンを勧めると拒否なく摂取されました。
第14日~16日:ベッド上での食事介助から、居室にて車椅子に移乗し、サイドテーブルをセッティングして食事介助する事に拒否なく応じてくれるようになりました。その後、自力摂取される日も増え、日によっては、梅干しと共に主食のみ全量摂取されたり、前半は自力摂取し、後半は介助で本人が食べられる範囲で摂取される様になり、拒薬もなくなりました。不穏な様子もなく、以前のようなはつらつとした様子となり、トイレ誘導も可能となりました。
第17日~:以前のように会話の中でスタッフの名前が出てくるようになり、会話も続くようになりました。しかし、食事中ずっと咀嚼してばかりで水で流し込んで食べる事もあり、再度ペースト食へ変更したところ本人も拒否なく摂取され、自力で全量摂取される事が増えました。笑顔も増え、自力での起き上がりや車椅子移乗が出来る日が増えてきました。
【考察】拒食・拒薬はせん妄を契機として現れたと思われます。Hさんは元看護職としてのプライドが高い方であったので、スタッフ間で、Hさんのプライドを尊重することを大切に、共感と傾聴をもってケアに当たることを共有しました。また、家族の協力も得て無理に摂食を勧めることなく対応しました。風景構成法やEGOGRAMから得られた心理面の情報も参考としました。医師からは、経過中に輸液は実施しなかったが、東北大方式絶食療法に類似した経過となり、心理面の改善が得られた可能性もあるとの見解がありました。絶食療法は高齢者には適応はありませんが、絶食により軽度のケトーシスがもたらされ、回復食過程で心身の安定と自律神経系の回復が得られる強力な心理療法であります。
【まとめ】拒食、拒薬は生命維持に影響が大きい。今回、「口チャック」と宣言し拒食、拒薬を続けた事例を経験しました。本人らしさとプライドを大切にしたケアの継続と、家族からの援助により回復が得られました。心理テストのEGOGRAMおよび風景構成法は心理面の把握に参考となりました。
