講演情報

[22-O-L006-02]慢性頸髄不全損傷者への起立動作の再学習~HAL腰タイプ自立支援用を活用した症例~

*田村 昌樹1、伊勢 眞樹2 (岡山県 1. 介護老人保健施設福寿荘、2. 医療法人誠和会倉敷紀念病院リハビリテーション部)
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【はじめに】
 脊髄損傷(以下,SCI)では,長期間にわたり形成された代償的な運動パターンが固定化し,起立などの生活関連動作における動作効率性低下や疲労感増大を生じることがある.特に生活期では,残存機能を用いた代償動作が生活内で反復されることで不適応可塑性として非効率的な代償運動パターンが定着している可能性が指摘されている1).一方で,近年ではSCI患者においても,反復運動および適切な感覚入力により運動依存性可塑性を介した神経回路再編成や運動再学習が生じる事が報告されている2).
 HAL腰タイプ自立支援用(以下,腰HAL)は脳・神経系と身体との間でおこるインタラクティブなバイオフィードバックによりエラーレスループが正しい運動の学習を促進することでリハビリテーション治療(以下,リハ)の効果を徒手的リハと比較して飛躍的に高めうることが期待できる3)としている.
 これまで慢性不全SCI患者に対して,医療用HAL下肢タイプを用いた先行研究4)は散見されるが,腰HALを用いた起立等の生活関連動作の再学習に着目した研究は少ない.
 本研究では,慢性不全SCI患者に対して腰HALを用いた起立動作の反復的な運動学習を実施し,神経再学習および長期に定着した代償運動パターンの変容について検討した.また,それらの変化が下肢・体幹機能,そして生活関連動作や疲労感など主観的評価に与える影響について検討した.
【対象】
 対象は当施設入所中の70歳代前半の男性.20歳代前半の時に高所から転落,第6頸椎不全損傷を受傷した.現在のFunctional Independence Measure(以下,FIM)は108点(Motor-FIM 74点,Cognitive-FIM 34点).HDS-Rは30点であった.両足関節可動域は背屈15°.両下肢の表在および深部感覚軽度鈍麻.起立や移乗,車椅子駆動など,日常生活上で両上肢使用過多による過負荷の影響で慢性的な両肩痛あり.移動は車椅子自走レベルで,両手4点杖歩行および平行棒歩行は連続30m程度可能であるが,安全面から日常生活内での実用性は低い状態であった.既往に突発性難聴,続発性副腎皮質機能低下症,甲状腺機能低下症を有していた.また,個別リハとは別に自主練習として両手4点杖歩行および平行棒歩行を計1000歩/日,起立運動を100回/日,ほぼ毎日実施していた.
【方法】
 腰HALを使用し①上体起こし:10回×2セット②立ち上がり:10回×8セットを週2回,計4週間実施した.運動項目はneuro HAL-FITより選定した.腰HAL非実施日のリハでは下肢のストレッチ,スクワットなどの運動プログラムを継続して実施した.さらに腰HAL使用時の動画撮影を行い,起立動作を中心とした動作分析をした.また, 撮影した動画やHALモニターで生体電位信号などの身体情報を可視化しながらフィードバックした.
 評価項目は握力,Hand-Held Dynamometer(以下,HHD),大腿・下腿周径,腹囲,Borg Scale(以下,BS),Numerical Rating Scale(以下,NRS),Functional Reach Test(以下,FRT)とした.またBerg Balance Scale(以下,BBS)内の「立ち上がり」,「座位保持」,「着座」,「閉眼立位」,「閉脚立位保持」,「床から拾い上げ」の項目を採用した.主観的評価として,生活関連動作のしやすさ,疲労感,腰HAL使用感,日常生活における変化を聴取した.
【結果】
 握力,HHD,大腿・下腿周径,BS,NRS,FRT,BBSの「閉脚立位保持」,「床から拾い上げ」の項目で改善を認めた.特にHHD(Rt/Lt)は3.8kgf/6.0kgfから4.9kgf/5.9kgf,大腿周径(Rt/Lt)は45.0cm/44.5cmから46.0cm/45.0cm,下腿周径(Rt/Lt)は35.0cm/35.0cmから36.0cm/35.5cmの増加を認めた.FRTは37.0cmから43.0cmの改善を認めた.肩部NRSが6/10点から4/10点の改善を認めた.また,BSは起立動作において11点(楽である)から9点(かなり楽である)の点数の改善を認めた.主観的評価としては, 「手の力みが減り立ち上がりやすくなった.」,「両足でしっかり立てられるようになった感覚がある.」,「以前よりも疲れにくくなった.」との発言が聴取された.動画による動作分析では,起立時の体幹前屈運動が平均30°から38°に動作角度の拡大を認めた.
【考察】
 起立動作時の体幹前屈角度の拡大による前方重心移動の円滑化や慢性的な肩痛の軽減による動作時の努力性低下,動作効率の改善を認めた.また,HHDや大腿・下腿周径の増加を認めた事は下肢筋力活動量の増加および筋出力の向上の可能性を示唆している.HALモニターの生体電位信号波形の視覚的フィードバックに加え,随意運動に伴うモーター駆動を介した固有感覚フィードバックが,運動-感覚統合が促進し,より正常に近い運動出力獲得に寄与した可能性がある5).
 生活関連動作については,「手の力みが減り立ち上がりやすくなった.」などの運動感覚に関する主観的改善が多く聴取された.これは腰HALを使用し,運動意図・運動出力・感覚フィードバックの統合が高頻度に反復されたことで,活動依存可塑性を介した神経再学習および効率的な運動パターン獲得が促進された可能性が考えられた6).本症例は受傷後長期間を経たSCI患者であったが,このような変化が認められたことから腰HALを使用したリハは,慢性期においても神経および運動の再学習を促進し,動作の質的改善に寄与した可能性が示唆された7).