講演情報

[22-O-L006-06]筋炎による筋力低下例への立位介入と生活への波及効果

*堀川 剛、伊澤 仁美、高野 美佳、関根 恭裕 (栃木県 JCHOうつのみや病院附属介護老人保健施設)
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【はじめに】自己免疫性筋炎は免疫介在性の筋線維傷害により四肢近位筋を中心とした進行性の筋力低下をきたし,日常生活活動に著しい制限をもたらす。多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020年暫定版)はあらゆる病期において低強度から段階的に負荷を増やすリハビリテーションの安全性と有用性を推奨している。しかし、MMT1レベルの重度筋力低下例では随意的筋収縮を前提とする従来のレジスタンス運動の導入は困難であり、適切な運動様式の選択が課題となる。今回、自己免疫性筋炎により四肢近位筋に重度の筋力低下を呈し、ベッド上での生活が主体となっていた老健施設入所中の症例に対し、立位保持練習を中心とした介入により、離床時間の拡大を認めたので報告する。
【症例】70代女性。身長163cm、体重40.5kg。数年前から四肢近位筋の筋力低下を自覚していた。腰椎圧迫骨折を契機に精査され自己免疫性筋炎疑いとなったが確定診断には至らず、発症230日後に老健入所となった。入所時は筋力低下と全身耐久性低下が進行し、歩行不能・ベッド上生活中心であった。また病状進行に対する不安や易疲労感があり毎食の車椅子での離床など当施設日課への参加に消極的であった。
【理学療法評価】入所時、MMTは四肢近位筋を中心に1レベルの重度低下(腸腰筋・中殿筋・大腿四頭筋・ハムストリングス各 1)を認め、握力は右6.0kg・左0kg、起居動作は全介助、端位保持は数秒間可能であった。立ち上がり動作は協力動作あるが全介助レベル。平行棒内立位保持は、骨盤後傾・前方変位により股・膝関節を過伸展した靭帯性支持により一人介助(転倒予防)にて5分間可能であったが、下肢大筋群の筋収縮は乏しかった。骨盤後傾・前方変位での立位保持中の Borg Scaleは12、FIMは52点(運動項目17点)、食事はベッド上ギャッジアップにて摂取され、摂取量は5割程度であった。
【方法】多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020年暫定版)に準じ、FITT原則に基づいて週3回、Borg Scale 10~12、20分間の運動プログラムを立案した。立位は座位・臥位と比較して循環応答およびエネルギー消費を増大させるとともに、荷重刺激と姿勢制御活動を通じた神経活動の賦活が期待できる。そこで、座位での自動介助による徒手療法に加え、二人介助下での平行棒内立位保持とウエイトシフト練習を実施した。立位では著明な筋力低下から骨盤後傾・前方変位での代償により抗重力位を保持していたため、一人の介助者が過負荷とならない範囲でアライメントを修正し、重心移動を促した。また大腿四頭筋、ハムストリング、殿筋群を標的筋として収縮を確認しながら行った(5分×2セット)。もう一人は転倒予防を担った。目的は全身耐久性向上とし、毎食の車椅子離床を短期目標とした。
【結果】開始時(231病日)は立位アライメント修正下での標的筋の収縮は乏しくBorg Scale 16で5分間継続は困難であった。7日後(238病日)にはBorg Scale 12で5分間継続が可能となり、食後1時間の離床を自発的に希望する場面がみられた。14日後(245病日)には重心移動に伴う標的筋収縮が明瞭化し、毎朝食後1時間の離床が定着しテレビ視聴・書字活動が可能となった。食事摂取量は全量となり空腹感も出現した。 29日後(259病日)、握力は右7.7kg・左4.4kgへ増加し、体重は42.4kgへ改善した。休日にも昼食後2時間程度の離床が可能となった。
【考察】本症例は筋炎によるMMT1レベルの重度筋力低下を呈しており、随意的筋収縮を前提とする一般的なレジスタンス運動の導入は困難であった。そこで低負荷立位を基盤とし、骨盤後傾・前方変位での代償を修正しながら、重心移動を通じて標的筋の収縮を段階的に促す介入を選択した。握力は四肢・体幹を含む全身筋力と高い相関を示す包括的指標である。介入29日間での改善は筋肥大が生じるには不十分な期間であることから、運動単位の動員増加・発火頻度の増大・運動単位間の同期化を中心とした神経適応として解釈した。立位保持・重心移動により体幹・下肢の筋収縮が繰り返し促された結果、上位中枢からの運動指令の賦活が上肢を含む全身筋群へ波及し、握力向上に寄与したと考えられる。同時に、賦活された体幹・下肢筋の活動性が座位場面へも転移し、車椅子乗車時間の延長という形で生活場面に反映されたと考えた。さらに離床機会の増加は活動量の増大を介してエネルギー需要を高め、空腹感の出現・食事摂取量の増大・体重増加へと連鎖したと解釈した。自己免疫性筋炎は進行性の疾患であり、身体機能や耐久性を維持していく必要があるが、生活期では時間や人員数の制約から有効な介入には限界がある。少ない資源の中でどのように多職種で協働していくかが今後の課題である。