講演情報

[22-O-D002-04]認知症高齢者の中途覚醒に対するケアの工夫~非薬物療法を優先した取り組み~

*山本 雅子 (千葉県 介護老人保健施設 まくはりの郷)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【はじめに】当施設では、認知症高齢者の様々なBPSD(行動・心理症状)に対し、職員が限られたマンパワーの中で安心感をもたらす関わりや、専門的なケアの実践へ懸命に取り組んでいる。しかし、不穏対応への不安や夜間の転倒に対する恐怖心が強いことから、ケアによる対応よりもまず薬剤療法(向精神薬や睡眠薬)の調整が最優先され、非薬物療法による関わりが後回しになりやすい現状がある。また、施設生活の長期化に伴い、一度開始された薬剤の減量や中止のタイミングを見極めることが難しく、服薬が長期継続されやすいことも課題であった。このように薬剤療法に依存した状態が続くことで、翌朝への持ち越し効果による日中の傾眠傾向を引き起こし、睡眠覚醒リズムの変調を招く原因となる。さらに、過剰な服薬から本人の自発的な動きを奪う「ドラッグロック(薬物拘束)」の状態を招くと、ADL低下や転倒・転落のリスクを高める要因にもなる。ケアの行き詰まりから不本意な身体拘束へとつながらないよう、職員が安心して実践できる安全な「ケアの工夫」を確立し、不適切な薬物抑制を防ぐことを目指して本取り組みを行う。
【目的】夜間不眠や易怒性のある認知症高齢者に対し、中途覚醒時の対応手順を統一した「ケアの工夫」の導入により、ドラッグロックや転倒の予防を図り、穏やかな日常生活を維持することを目的とする。
【方法】対象はアルツハイマー型認知症と脳梗塞後遺症(不全麻痺なし)があり、易怒性と不眠、中途覚醒に対して向精神薬と睡眠薬を常用しているA氏(80代・男性)。入所期間の長期化に伴い、中途覚醒した際に頓用睡眠薬を服用すると、翌朝の離床困難や日中の傾眠傾向が増加していた。そのため、頓用薬を服用せずに入眠できるケアを検討し、職員間で以下の対応を共通の心がけとした。
1.短期記憶障害や見当識障害などの症状への配慮に基づき、訪室時の第一印象で安心感をもたらす「コミュニケーション方法の統一」
2.尿意による覚醒の可能性をアセスメントした「排せつ行動へのアプローチ」
3.生理的な喉の渇きによる不快感を和らげ、心身の落ち着きから再入眠を促す「水分の提供」
これらを実践した上で10~15分程度様子をみることとした。ただし、薬剤による対応を強制的に遠ざけるものではない。ご本人のつらさを和らげるための服薬も大切な選択肢である。そのため、前出の1~3の関わりを行っても落ち着かない様子が続き、非薬物療法での対応が難しい場合において、必要に応じて頓用薬の服用を検討・実施している。なお、本取り組みにあたり、対象者および家族へ説明し同意を得るとともに、個人情報の匿名化を行い、施設長の承認のもと当施設の倫理的配慮に則り実施した。
【結果】現在、本アプローチを開始しており、夜間睡眠状況、頓用薬使用回数、日中の傾眠傾向および転倒・転落の発生状況について継続的に評価している。発表当日は導入後の経過を報告する予定である。
【考察】認知症高齢者の中途覚醒に対して薬剤使用を優先するのではなく、まず覚醒要因をアセスメントし、安心感をもたらすケアを標準化することは、本人の尊厳を守りながらドラッグロックの予防につながると考える。また、職員間で対応方法を統一することは、夜勤帯における対応への不安軽減やケアの質の均一化に寄与し、薬剤に頼りすぎない認知症ケアの実践につながると考える。発表当日は導入後の結果を踏まえ、本取り組みの有効性と今後の課題について報告する。