講演情報

[22-O-L010-05]入所者が安心安全に行える自主トレーニングの提案~ヘルシーステップマシンを用いて~

*榎 一誠 (福岡県 介護老人保健施設 菖蒲)
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【はじめに】
 介護老人保健施設は多職種によるチームアプローチにより、介護を必要とする高齢者の自立を支援する施設である。そのためには身体機能の維持改善や移動手段の再獲得は最重要課題であり、また3ヶ月間の短期集中リハビリテーション(以下:短期集中リハビリ)終了後の身体機能維持も療法士としての大きな課題である。当施設では、3ヵ月間の短期集中リハビリ終了後は週3回の個別リハビリを提供し身体機能の維持改善に努めており、その他、自主トレーニングを併せて実施される入所者も少なくない。しかし、過度な負荷量設定による自主トレーニング中の転倒転落等の事故リスクも十分に考えられ、入所者の安全面の配慮は必要不可欠である。今回、当施設で低負荷かつ安全に実施できるヘルシーステップマシン(座位にて半円形ボードに交互に荷重運動を行う運動機器)を導入、自主トレーニングとしての有用性を検証したため報告する。
【対象】
 短期集中リハビリ実施期間を終了し、週3回の個別リハビリ介入中の入所者9名(平均年齢:89.8±14歳、女性9名:筋骨格系疾患7名、脳血管疾患1名、筋骨格系疾患と脳血管疾患の合併1名)を対象とした。なお、認知症症状を有する方やトレーニングの理解が得られない、トレーニングの継続が難しい入所者等は対象から除外した。
【方法】
 今回、自主トレーニングとしてヘルシーステップマシンを1日15分、週5回、4週間にわたり実施、トレーニング導入前後の比較を行った。評価方法として、重心動揺計(aison社製 Gaitview)を用いて平衡機能能力と静止立位状態を評価、30秒間の静止立位における足圧中心の変動等を算出した。測定項目は、平衡機能検査(開眼,閉眼)では外周面積(㎟)、矩形面積(㎟)、実効値面積(㎟)、総軌跡長(㎜)、単位時間軌跡長(㎜/s)、ロンベルグ率を、静止立位検査(開眼立位)では表面積(㎠)、圧力(Kpa)、健側患側の荷重割合(%)を計測、算出した。
【結果】
 4週間にわたる自主トレーニングは転倒転落等の事故なく継続して実施する事ができた。平衡機能検査では各項目に数値の減少を認め、矩形面積及び実効値面積、単位時間軌跡長に有意な減少を認めた。ロンベルグ率では、初期評価にて2名が閉眼での30秒立位保持困難であったため対象7名で前後比較を実施、ロンベルグ率の低下を認めた。また、初期評価で閉眼立位保持困難であった2名は最終評価時では30秒間の閉眼立位保持が可能となった。静止立位検査では、足底部の荷重面積は減少し足底部圧力は増加、足趾及び中足骨部にかけての荷重量は減少し踵部荷重量は有意な増加を認めた。健側患側の荷重割合では患側への荷重量は増加し両足での荷重割合は左右均等に近づく結果となった。
【考察】
 本研究の結果、ヘルシーステップマシンを自主トレーニングとして実施する事で「静的バランス能力」の改善を認め、矩形面積及び実効値面積、単位時間軌跡長に有意な減少を認めた。静的バランスが改善した要因として、下肢伸展筋の賦活等により抗重力伸展力が増加した事が挙げられる。中村らは、「立位での膝屈伸運動では、膝屈曲角の増加に伴い姿勢外乱が大きくなる」と報告している。高齢者では加齢による抗重力伸展筋弱化等により屈曲アライメントを呈する傾向にあり、下肢伸展筋の賦活により身体重心が上後方へ移動した事で踵部荷重量が増加、それに伴い足圧中心も後方へ移動し支持基底面内での後方安定化が図れたと示唆される。また、半円形のステップマシンへの反復的な左右荷重運動によって股、膝、足関節は各関節での分節的な動きが再学習され、それにより身体自由度が増した事でわずかな揺れに対しても姿勢制御がしやすくなった要因であると示唆される。竹内らは、「左右方向の頭部重心の動揺は足圧中心動揺への貢献度が低く、体節重心は独立した動揺制御を受けている」と報告しており、今回のヘルシーステップマシンを用いた自主トレーニングを実施する事で下肢各関節における運動戦略が賦活され、バランス能力の活性化に寄与した要因の一部であると考えられる。
【展望と課題】
 今回、ヘルシーステップマシンを用いての自主トレーニングを行う事で、静的バランス能力の改善が検証された。トレーニング自体は低負荷で有酸素運動の要素が高く、座位でトレーニングを実施するため安全面にも十分配慮可能であると想定される。また、集団で行う事で他の入所者とのコミュニケーションの場になり入所者の前向きな様子も多々見受けられた。トレーニング自体は複雑ではなく準備や撤収等が容易であり、ある程度留意点を熟知できていれば療法士以外でも入所者の自主トレーニング環境の再現性は高いと想定される。今後も当施設での自主トレーニングの一つとして展開していきたいと考える。
 最後に、今回は短期集中リハビリを終了された入所者を対象としたため対象者がやや少なく、今後は本研究に加え追加研究等によりさらに詳細な優位性等を確認し、より良い運動療法を提供していきたいと考える。