講演情報

[22-O-D003-03]日中の活動量の増加と、BPSDの関係性について

*中川 京也、大門 美貴 (栃木県 介護老人保健施設見龍堂メディケアユニッツ)
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【はじめに】
当施設では認知症専門棟を有しており、BPSD症状を呈している利用者も少なくない。BPSDは昼夜逆転や不穏行動により介護負担や転倒リスクの増加、また暴言暴力などによって他の利用者への影響も考えられる。日常的支援においてBPSDの改善に有効な方法を検討した研究は限定的で、今回は日常生活場面での歩行機会増加がBPSD改善に有効であるかを検討した症例を報告する。
【方法】
施設内の日常生活場面で車椅子使用の利用者を対象とし、排泄や入浴場面の移動手段をリハビリスタッフ、介護士の介助での歩行とした。実施期間は1カ月として介護士には口頭と文面で利用者ごとの介助方法を伝達して実施。開始時、2週間経過時、終了時でBPSD25Q1)を実施して比較。また、評価者間誤差を排除するため、全ての評価を対象者に対して同一介護士により実施した。
【対象者】
(1)A様 
70代女性 レビー小体型認知症 ADL自立度:B2 認知症自立度:IIIa
HDS-R:6点 BI:35点 X-2ヶ月入所
生活歴:入所前は短期入所を利用し在宅生活を送っていたが、誤嚥性肺炎で入院。退院後当施設入所。在宅時の移動手段:独歩付き添い
(2)B様 
90代女性 アルツハイマー型認知症 ADL自立度:B1 認知症自立度:IIIa
HDS-R:13点 BI:50点 X-5ヶ月入所 
生活歴:入所前は短期入所を利用し在宅生活を送っていたが、腰椎圧迫骨折により入院。退院後当施設入所。在宅時の移動手段:独歩自立
(3)C様 
80代女性 レビー小体型認知症 ADL自立度:B2 認知症自立度:IIIb
HDS-R:1点 BI:40点 X-12ヶ月入所  
生活歴:在宅生活中に転倒し、左大腿骨転子部骨折受傷。退院後当施設入所。在宅時の移動手段:独歩自立
【結果】 
全対象者において、介入期間中の拒否は認められず、継続して実施可能であった。
BPSD25Qの合計点数を開始時、開始2週間後、終了時で比較した。その結果、重症度・負担度ともに改善した対象者は1名、悪化した対象者は2名であった。
A様は、重症度が12点→11点→8点となり、負担度も10点→11点→8点へと最終的に改善が認められた。
B様は、重症度が17点→13点→23点、負担度が19点→14点→19点と、重症度および負担度ともに一時的な改善を認めたが、終了時には増悪した。
C様では、重症度が3点→6点→7点へ、負担度も3点→6点→7点へと推移し、いずれも悪化がみられた。また、最終評価時の総得点は他の対象者と比べると低値を示しているが、開始時には出現していなかった症状項目において加点が認められた。
【考察】
BPSD25Qの結果、全利用者において一様な改善はみられなかったものの、一部利用者では改善を示した。
A様の場合は重症度、負担度ともに改善を示した。このような結果になった理由として、入所前の活動リズムに近い形で生活できたことが要因と考える。鈴木ら2)によると安心を獲得することで自身の自律性や日常生活を取り戻すことが可能と示唆されている。Aさんは入所の1か月前までは在宅生活において車椅子の使用は認められておらず、今回の歩行機会の増加が在宅生活に近い活動リズムとなったことで本人の中で安心が得られBPSDの改善に繋がった可能性があると考えられる。
B様は2週間経過時までは改善傾向だったが最終評価時には悪化を示した。この結果は2週間経過まではAさんと同じように在宅生活に近い形で生活できていたことが改善の要因と考える。しかし、実施期間中に在宅復帰が決まり、外的刺激が入ったことで対象者自身の帰宅欲求が強くなってしまったことが最終評価時の点数悪化に繋がったと考えられる。
C様の場合は重症度、負担度ともに悪化した結果となった。このような結果になった理由として、施設内の車椅子中心の生活に慣れてしまっていたことが原因と考える。フィリッパ・ラリー3)によると、行動の習慣化には個人差があり、その行動の特質によっても変わるが18日~254日かかり平均で66日とされている。また石丸4)によると重度認知症患者に対しては身体的に高い活動性を持って日中過ごすケアはあまり重要ではなく、身体活動の量だけではなく、その活動のタイミングやリズムを検討する必要があるとされている。このことからもC様は入院、入所期間が一年以上で車椅子使用の生活が習慣化されていたところに、今回過度な活動量の増加が加わったことで、点数の悪化に繋がってしまったと考えられる。2週間経過時点で重症度および介護負担度の点数増加が認められていたことから、この時点で歩行距離や実施頻度を調整し、運動負荷を軽減していれば、その後の点数悪化を抑制し、改善につながった可能性が考えられた。
【まとめ】
今回の症例を通して、歩行機会の増加がBPSDの改善に必ずしも直結するわけではないことが示唆された。一方で、対象者の生活背景やこれまでの習慣に応じて歩行機会を増やすことは、BPSDの改善につながる可能性があると考えられた。今回の検討は症例数が少なく、観察期間も限定的であったため、今後は対象者数の拡大や調査期間の延長、また生活背景や重症度等による比較分析を行うことで、より明確な傾向の把握や新たな知見の獲得につながると考える。
【参考文献】
1)内藤典子、藤生大我、滝口優子、他:BPSDの新規評価尺度:認知症困りごと質問表BPSD+Qの開発と信頼性・妥当性の検討.認知症ケア研究誌2:133-145,2018
2)鈴木千枝、谷垣靜子:認知症の人にとっての生活における安心の概念分析.日本在宅ケア学会誌:Vol.23,No.2 73
3)Phillippa Lally,Cornelia H.M.van Jaarsveld,Henry W.W.Potts,Jane Wardle:How are habits formed:Modeling habit formation in the real world.Europian Journal of Social Phychorogy/Volume40,lssue6/pp.998-1009
4)石丸大貴:重度認知症における身体活動量と休息活動リズム。