講演情報
[22-O-J003-06]歯科医師を起点とした多職種ミールラウンドの展開~アンケートからみる口腔・食事のケアへの意識変容~
*清野 早優花1、二田 明子1、原 豪志2 (神奈川県 1. 介護老人保健施設衣笠ろうけん、2. 衣笠あかり訪問歯科クリニック)
【背景・目的】
介護老人保健施設において、リハビリテーション、栄養、口腔を一体的に管理することは、利用者の自立支援と安全な生活を支える上で極めて重要である。当施設では約2年前より、多職種ミールラウンドに歯科医師が参画し、専門的な評価と助言を開始した。本研究の目的は、歯科医師の参画とミールラウンドの継続が、介護職員、看護師、管理栄養士、セラピスト、相談員、介護支援専門員といった各専門職の食事ケアに対する意識および具体的なケア内容に与えた影響や、職員の意識、利用者の状態にどのような変化をもたらしたかを2年間の前後比較調査によって明らかにすることである。
【方法】
ミールラウンド開始初期(2024年5月:回収31件)と、2年経過後(2026年6月:回収21件)の2回、全職員を対象にアンケート調査を実施した。両調査ともに各職種の構成比(介護職約61%、看護職約19%、リハ職約10%)はほぼ同等であり、特定の職種に偏らない施設全体の平準化された傾向を反映した集団として、前後比較による定量・定性分析を行った。また、利用者の客観的指標として同期間の所定疾患施設療養費(肺炎)の発生状況を追跡した。
【結果】
1. 食事姿勢や口腔機能への意識の推移:
2年間のミールラウンド継続により、各種食事ケア項目において「意識できている」との回答が全体的に増加した。中でも「口腔内環境への意識」は19.4%から42.9%(23.5ポイント増)、「ムセこみへの意識」は38.7%から57.1%(18.4ポイント増)への上昇を認めた。また、開始当初より高水準であった「食事姿勢への意識」(96.8%)を維持されていた一方、「ポジショニングへの意識」は「できている」「どちらかといえばできている」との回答が80.6%から90.5%に上昇がみられたものの、「ポジショニングの知識に不安がある」との回答が9.5%あった。
2. 現場でのケア内容と利用者の変化:
自由記載からは、歯科医師の助言に基づき、管理栄養士による食形態やトロミ選択、介護職による自助皿やスプーンの選定、セラピストによる足台やクッションを用いたポジショニング、リハビリプログラムへの反映、看護師による服薬調整の提案、ケアマネジャーによる支援の方向性への反映といった対応が報告された。食形態や環境調整による「最後まで自力摂取が可能となった事例」や「食べこぼしの減少」、嚥下機能の評価による「トロミ解除」等の成功体験が報告された。なお、期間中に誤嚥性肺炎による所定疾施設患療養費の算定はなかった。
3. 職員の食事ケアへの困りごとと意識変容:
開始時に61.3%を占めた食事ケアに対する職員の「困りごと」は、2年後には52.4%へと減少した。自由記述調査において、食事形態の確認、足台やクッションの設置、食具やトロミ濃度のチェックなどの手順増加や口腔ケアに時間がかかることに対し、「業務負担が増えた」とする意見が報告された。一方で、個別ケアにより「利用者が自力摂取できるようになり、介助から見守りへ移行したため結果的に負担が減った」「配慮することは多くなったが、結果としてご利用者のためになっている」との記述もみられた。また、「他職種同士でも積極的に意見交換が行えるようになった」「やる気が増えた」といったコメントが多数確認された。
【考察】
1. 食事姿勢や口腔機能への意識向上:
2年間のミールラウンド継続により、口腔内環境やムセこみへの意識向上が認められた。これは、歯科医師の定期的かつ専門的な評価・共有が繰り返されたことで、従来から関心の高かった食事姿勢に加え、口腔機能が嚥下や全身状態へ与える影響について、現場職員の理解と認識が施設全体で平準化されたためと考えられる。また、食事姿勢への高い意識を背景に、ポジショニングへの意識が90.5%へ上昇した一方で、依然として9.5%の職員が知識に不安を感じている事実は、現場の「形式的な実施」から「根拠に基づいた実践」への移行における課題を浮き彫りにしている。これらの課題解決には、ポジショニングの知識・技術を現場で即座に共有できる仕組みが不可欠である。それらを実現するために、理学療法士を中心としたセラピストによる、現場での実践を直接支える仕組みづくりの必要性が示唆された。
2. 現場でのケア内容と利用者の変化:
自由記述における食形態・トロミ選択、食事環境の調整、リハビリプログラムへの反映、服薬調整の提案、支援の方向性への反映は、歯科医師の評価を起点として、各職種の業務が具体化し、専門知識が現場で発揮されたことが推察される。この役割の明確化と個別対応の継続により、自力摂取の維持やトロミ解除といった利用者の状態改善、および期間中の誤嚥性肺炎による所定疾患施設療養費の算定数ゼロに寄与したと考えられる。
3. 職員の食事ケアへの困りごとと意識変容:
手順の増加により一時的な業務負担感を認めるものの、食事環境の調整による介入成果(利用者の自力摂取向上)が介助量の軽減(見守りへの移行)という実質的な負担緩和をもたらしたと推察される。多職種連携の円滑化や誤嚥リスク低減に伴い、職員の心理的負担を軽減し、モチベーション向上に繋がったことが示唆された。
【結論】
歯科医師のアドバイスを軸とした多職種ミールラウンドの継続は、介護職員、看護師、管理栄養士、セラピスト、相談員、介護支援専門員の専門性を現場のケアに統合させ、利用者の自立支援と職員の意識変容を両立させる上で、極めて有用なアプローチである。今後は、職員の「意識の向上」を「根拠に基づき現場で発揮できる実践力」へ繋げるとともに、リハビリ職において理学療法士・作業療法士それぞれの専門性をさらに深化・発揮させ、ケアの個別最適化を進める仕組みづくりが課題である。
介護老人保健施設において、リハビリテーション、栄養、口腔を一体的に管理することは、利用者の自立支援と安全な生活を支える上で極めて重要である。当施設では約2年前より、多職種ミールラウンドに歯科医師が参画し、専門的な評価と助言を開始した。本研究の目的は、歯科医師の参画とミールラウンドの継続が、介護職員、看護師、管理栄養士、セラピスト、相談員、介護支援専門員といった各専門職の食事ケアに対する意識および具体的なケア内容に与えた影響や、職員の意識、利用者の状態にどのような変化をもたらしたかを2年間の前後比較調査によって明らかにすることである。
【方法】
ミールラウンド開始初期(2024年5月:回収31件)と、2年経過後(2026年6月:回収21件)の2回、全職員を対象にアンケート調査を実施した。両調査ともに各職種の構成比(介護職約61%、看護職約19%、リハ職約10%)はほぼ同等であり、特定の職種に偏らない施設全体の平準化された傾向を反映した集団として、前後比較による定量・定性分析を行った。また、利用者の客観的指標として同期間の所定疾患施設療養費(肺炎)の発生状況を追跡した。
【結果】
1. 食事姿勢や口腔機能への意識の推移:
2年間のミールラウンド継続により、各種食事ケア項目において「意識できている」との回答が全体的に増加した。中でも「口腔内環境への意識」は19.4%から42.9%(23.5ポイント増)、「ムセこみへの意識」は38.7%から57.1%(18.4ポイント増)への上昇を認めた。また、開始当初より高水準であった「食事姿勢への意識」(96.8%)を維持されていた一方、「ポジショニングへの意識」は「できている」「どちらかといえばできている」との回答が80.6%から90.5%に上昇がみられたものの、「ポジショニングの知識に不安がある」との回答が9.5%あった。
2. 現場でのケア内容と利用者の変化:
自由記載からは、歯科医師の助言に基づき、管理栄養士による食形態やトロミ選択、介護職による自助皿やスプーンの選定、セラピストによる足台やクッションを用いたポジショニング、リハビリプログラムへの反映、看護師による服薬調整の提案、ケアマネジャーによる支援の方向性への反映といった対応が報告された。食形態や環境調整による「最後まで自力摂取が可能となった事例」や「食べこぼしの減少」、嚥下機能の評価による「トロミ解除」等の成功体験が報告された。なお、期間中に誤嚥性肺炎による所定疾施設患療養費の算定はなかった。
3. 職員の食事ケアへの困りごとと意識変容:
開始時に61.3%を占めた食事ケアに対する職員の「困りごと」は、2年後には52.4%へと減少した。自由記述調査において、食事形態の確認、足台やクッションの設置、食具やトロミ濃度のチェックなどの手順増加や口腔ケアに時間がかかることに対し、「業務負担が増えた」とする意見が報告された。一方で、個別ケアにより「利用者が自力摂取できるようになり、介助から見守りへ移行したため結果的に負担が減った」「配慮することは多くなったが、結果としてご利用者のためになっている」との記述もみられた。また、「他職種同士でも積極的に意見交換が行えるようになった」「やる気が増えた」といったコメントが多数確認された。
【考察】
1. 食事姿勢や口腔機能への意識向上:
2年間のミールラウンド継続により、口腔内環境やムセこみへの意識向上が認められた。これは、歯科医師の定期的かつ専門的な評価・共有が繰り返されたことで、従来から関心の高かった食事姿勢に加え、口腔機能が嚥下や全身状態へ与える影響について、現場職員の理解と認識が施設全体で平準化されたためと考えられる。また、食事姿勢への高い意識を背景に、ポジショニングへの意識が90.5%へ上昇した一方で、依然として9.5%の職員が知識に不安を感じている事実は、現場の「形式的な実施」から「根拠に基づいた実践」への移行における課題を浮き彫りにしている。これらの課題解決には、ポジショニングの知識・技術を現場で即座に共有できる仕組みが不可欠である。それらを実現するために、理学療法士を中心としたセラピストによる、現場での実践を直接支える仕組みづくりの必要性が示唆された。
2. 現場でのケア内容と利用者の変化:
自由記述における食形態・トロミ選択、食事環境の調整、リハビリプログラムへの反映、服薬調整の提案、支援の方向性への反映は、歯科医師の評価を起点として、各職種の業務が具体化し、専門知識が現場で発揮されたことが推察される。この役割の明確化と個別対応の継続により、自力摂取の維持やトロミ解除といった利用者の状態改善、および期間中の誤嚥性肺炎による所定疾患施設療養費の算定数ゼロに寄与したと考えられる。
3. 職員の食事ケアへの困りごとと意識変容:
手順の増加により一時的な業務負担感を認めるものの、食事環境の調整による介入成果(利用者の自力摂取向上)が介助量の軽減(見守りへの移行)という実質的な負担緩和をもたらしたと推察される。多職種連携の円滑化や誤嚥リスク低減に伴い、職員の心理的負担を軽減し、モチベーション向上に繋がったことが示唆された。
【結論】
歯科医師のアドバイスを軸とした多職種ミールラウンドの継続は、介護職員、看護師、管理栄養士、セラピスト、相談員、介護支援専門員の専門性を現場のケアに統合させ、利用者の自立支援と職員の意識変容を両立させる上で、極めて有用なアプローチである。今後は、職員の「意識の向上」を「根拠に基づき現場で発揮できる実践力」へ繋げるとともに、リハビリ職において理学療法士・作業療法士それぞれの専門性をさらに深化・発揮させ、ケアの個別最適化を進める仕組みづくりが課題である。
