講演情報

[22-P-L002-03]自力摂取を叶える~個別・生活リハビリを活用して~

*和泉 優里 (鳥取県 鳥取県済生会介護老人保健施設はまかぜ)
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【はじめに】
摂食・嚥下機能障害を有する高齢者にとって、自力摂取は食べる喜びや意欲の回復につながり、生活の質(QOL)向上につながる重要な営みである。自力摂取には嚥下機能のみでなく、姿勢保持、上肢機能、耐久性、環境調整などの要因が関与する。今回、アテローム血栓性脳梗塞後遺症により摂食・嚥下機能障害および構音障害を呈し、食事全介助で入所された利用者を担当した。「自分でご飯を食べたい」というご本人の希望のもと、座位姿勢の安定を軸とした個別リハビリおよび生活リハビリを実施した結果、入所から7週間で自力摂取が可能となった症例を報告する。
【症例紹介】
症例は、80代、女性、要介護4、アテローム血栓性脳梗塞、摂食・嚥下機能障害、構音障害を呈し、既往歴に血管性型認知症、両変形性膝関節症を有していた。
ご本人の希望は、「自分でご飯を食べたい」「もっとハキハキと喋りたい」であった。
退院時のST情報は、座位不安定のためリクライニング車椅子使用。自力摂取は食べこぼしや嚥下性疲労が著明で食事は全介助も摂取スピードに注意し姿勢が安定すれば、普通型車椅子での自力摂取は十分に見込めるとの申し送りであった。
入所時評価は、ブルンストロームステージ:上肢Ⅴ、下肢ⅠⅤ、手ⅤⅠ、長谷川式簡易知能評価スケール:11/30点、バーセルインデックス(以下、BI):0/100点(食事、移乗を含め全介助)。
入所時の姿勢は、リクライニング車椅子およびベッド上端座位ともに骨盤後傾位で体幹伸展を呈し、保持困難であった。食事場面では自ら身体を起こしスプーンに手を伸ばす様子がみられたが、姿勢崩れや食べこぼし、摂取スピード加速を認め、安全な自力摂取は困難であった。
【介入経過】
個別リハビリでは、座位安定性向上を目的に骨盤前傾に伴う体幹伸展運動の反復練習や重心移動練習を実施。また、上肢操作性向上を目的に食事場面での右上肢の支持環境を設定した。加えて、多職種と協働し、食事環境の共有や食前の口腔体操やレクリエーションなど離床を促進する生活リハビリを実施し活動量の向上を図った。
 入所1週目:リクライニング角度を90度、テーブルに右肘が置ける環境に整え、自力摂取を行った。前半は座位姿勢保たれ、食べこぼしの減少も認めたが、後半は骨盤後傾位で体幹伸展し、右側への傾きがみられ上肢操作性低下および嚥下性疲労による、むせを認めたため介助に切り替えた。
 入所2~4週目:ベッド上端座位保持が可能となり、起居動作や移乗練習、端座位での上肢リーチ動作練習を実施。起居動作はベッド柵使用して一部介助。プッシュアップでの離殿が可能となる。端座位安定性向上に伴い、普通型車椅子での離床機会を増加した。
 入所5週目:移乗が見守りレベルまで改善。移乗方法を多職種に共有し、生活場面に取り入れた。
 入所6週目:普通型車椅子の姿勢安定に伴い、おやつの自力摂取を開始した。全量、姿勢の崩れやむせなく摂取可能であった。昼食時も自力摂取を開始した。
 入所7週目:終日普通型車椅子に移行。3食とも自力摂取が可能となった。起居動作は自身で可能となり、BIは15点(食事、移乗)に向上した。
【考察】
本症例の自力摂取困難原因として、⑴座位姿勢の崩れによる右上肢操作性低下(食べこぼし)、⑵耐久性低下、嚥下・咀嚼機能低下(嚥下性疲労)が考えられた。
Paulら¹⁾は、骨盤前傾により腰椎伸展筋群および股関節屈曲筋群の活動が増加し、骨盤・体幹安定性に寄与すると述べている。本症例では、入所時、骨盤後傾位および体幹伸展により座位保持が困難であった。そこで、骨盤前傾・体幹中間位保持を目的とした骨盤・体幹運動や重心移動練習を反復して実施した。その結果、端座位保持時間の延長やプッシュアップによる離殿動作が可能となり、骨盤および体幹の安定性向上が認められた。これにより座位保持能力が改善したと考える。また、食事環境の調整により肩・肘関節の安定性が向上し、右上肢の操作性改善や食べこぼしの軽減につながったと考える。さらに生活リハビリを通して離床機会や活動量が増加したことで、耐久性が向上し、嚥下性疲労軽減につながった可能性がある。加えて、普通型車椅子での離床機会増加により、座位保持能力がさらに向上し、自力摂取獲得につながったと考える。
【おわりに】
本症例は、座位姿勢安定し、食事場面をはじめとした日常生活の活動量向上により自力摂取の獲得に至った。そのため、座位保持能力の改善と活動量向上の相乗効果を引き出すことが重要であると示唆された。引き続き、個別リハビリと生活リハビリを通して、利用者の能力を維持・改善を図っていきたい。
【参考書籍】
1)Paul Jackson Mansfield, Donald A. Neumann:エッセンシャル・キネシオロジー-機能的運動学の基礎と臨床(原書第2版)