講演情報

[22-O-L009-06]スタッフ2名で行う集団反復起立練習の実践報告

*吉川 尚樹、川島 康平、椎名 将史、藤瀬 恵美、久保木 智紗子、長谷川 類 (千葉県 介護老人保健施設シルバーケアセンター)
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【背景・目的】
介護老人保健施設(以下、老健)は、入所者の心身機能の維持・改善を担う施設である。老健の基本サービス費類型では、超強化型および在宅強化型で「充実したリハ」が要件とされる一方、加算型、基本型、その他型では同要件は設定されていない。令和5年2月時点で両類型は38.6%であり1)、入所後3か月以降の身体機能・日常生活動作(activities of daily living:ADL)維持は、施設の人員体制や運用上の工夫に左右されやすい。本報告では、スタッフ2名で実施する集団反復起立練習の方法と工夫を示し、入所3か月以降の活動量を補完する実践モデルとしての意義を検討する。
【実践プログラムの概要】
当施設は100床の超強化型老健である。本プログラムは、回復期リハビリテーション病棟で実施されている集団起立訓練2)を参考に、老健入所者向けに再構成した。対象は、最大3 METs程度の運動負荷で身体的リスクが高くなく、本人に参加意思があり、環境調整により起立・着座が可能な入所者とした。参加可否は、リハ職が身体状況、動作能力、認知機能、運動時リスクを確認して判断した(図参照)。
<プログラムの構成要素>
実施頻度:平日毎日1回
実施時間:約25分
運動内容:10秒に1回の起立・着座を反復
運動量:30回を1セットとし、最大5セット
調整方法:疲労感や体調に応じて回数、休憩、実施場所を調整
職員配置:リハ職1名、介護職1名
参加者数:日によって変動するが、当施設では1日平均25名程度(最大40名程度)
環境調整:座面高、上肢支持、滑り止め、重錘、実施場所を調整
【運用上の工夫】
スタッフ2名でも安全に継続できるよう、参加者の能力に応じた環境調整と職員間の役割分担を明確にした。リハ職は参加可否判断、負荷量調整、安全確認を担い、介護職は物品準備、誘導、司会進行を担った。座面台は高さの異なる3種類を色分けし、ホワイトボードで参加者ごとの実施場所や環境調整を共有した。物品管理リストを用い、準備から誘導、実施、片付けまでを定型化することで、特定の職員に依存せず日課として継続しやすい体制を整えた。
【実践による変化】
当施設入所者71名を対象に、集団反復起立練習の参加有無で2群に分け、入所時・3か月後・6か月後の身体機能評価指標であるShort Physical Performance Battery(SPPB)および日常生活動作の自立度評価であるFunctional Independence Measure(FIM)の変化を線形混合モデルで分析した。その結果、両指標で時間×群の交互作用を認めた(p<0.05)。参加群はSPPB推定平均値2.6→5.7→5.9、FIM推定平均値62.5→85.2→87.9と推移し、入所後3か月まで改善、その後6か月まで維持からわずかな改善を示した。不参加群はSPPB2.7→3.7→3.3、FIM59.6→65.3→65.3と推移し、3か月以降は横ばいから微減であった。過去6年間の実施中インシデントは2件で、いずれも車いすブレーキのかけ忘れに伴う転倒であり、運動負荷そのものに起因するインシデントは認めなかった。
【考察】
反復起立運動は、老健入所者を対象とした先行研究においても膝伸展筋力や立ち上がり・着座動作の向上が報告されており3)、日常生活に直結する下肢機能やADLの維持に結びつきやすい実践である。本プログラムでは参加群においてSPPB・FIMが維持・改善傾向を示し、入所3か月以降に不足しやすい活動量を補完する運動機会として意義があると考えられた。本プログラムは、個別リハビリテーションを代替するものではなく、日課として継続できる集団プログラムである。リハ職が参加判定とリスク管理を担い、介護職が準備・誘導・進行を担うことで、当施設では平均25名程度が参加する一定規模の入所者に活動機会を提供できている。これは、リハ専門職が他職種と協働して活動機会を支える支援のあり方とも合致する4)。また、集団実施により参加者同士の相互刺激が生まれ、施設内の日課として定着しやすい点も強みである。一方、起立・着座の反復は単調で、運動量は本人の意欲や疲労感に左右されやすい。入所初期から関心を示さない利用者では途中参加につながりにくく、今後は評価結果のフィードバックや声かけの工夫が課題である。
【結論】
当施設で実施している集団反復起立練習は、入所3か月以降の活動量を補完する実践として、リハ職1名・介護職1名のスタッフ2名体制でも継続可能であった。安全な参加基準、個別の環境調整、職種間の役割分担を明確にすることで、限られた提供資源の中でも、身体機能・ADL維持に寄与し得る運動機会を日課として確保できる可能性がある。
【引用文献】
1)厚生労働省老健局. 介護老人保健施設. 第221回介護給付費分科会資料2, 2023.
2)社会医療法人令和会熊本リハビリテーション病院. ハイブリッド・リハビリテーション 集団起立訓練.
3)藤井美次, 河口滉, 羽村景子, 他. 介護老人保健施設入所の高齢女性におけるスタンス幅の異なる反復起立運動の影響. 理学療法おかやま. 2020;1(1):6-10.
4)日本理学療法士協会, 日本作業療法士協会, 日本公衆衛生協会. 行政リハビリ専門職のための手引き. 2016.