講演情報
[22-O-L007-02]「生きる楽しみ」を取り戻す社会参加支援
*工藤 楓1、田中 孝子2、樗木 浩朗3 (福岡県 1. 介護老人保健施設 聖母の家、2. 社会医療法人 雪の聖母会 聖マリア病院、3. 介護老人保健施設 聖母の家)
はじめに
生活期では,退院後に歩行能力やADLの改善が外出や趣味活動に結びつかず,役割喪失や孤立を生じる利用者は少なくない.社会的フレイルは,閉じこもり,孤食,社会的交流の減少などを含み,身体的フレイルや心理的,認知的フレイルに先行して生じる可能性が示されている.今回,デイケア利用者に対して社会的フレイル予防の視点から作業療法を実施し,趣味活動を通して社会参加を再獲得した症例を経験したので考察を加えて報告する.
症例紹介
70代の男性.診断名は右皮質下出血による左片麻痺.バイク運転後に顔面の左右差を自覚し,友人から顔面麻痺を指摘され救急搬送となり入院,保存的加療となる.10病日目に回復期病院へ転院.発症から6ヶ月後自宅退院.後遺症の症候性てんかんに対して内服中.退院後も趣味のバイクを通じた友人とは良好な関係が続いていた.妻と次男の3人暮らしで妻は就労があるため,本症例の趣味活動や社会参加への継続的な支援は得にくかった.自宅はアパート2階で家屋改修は困難であった.
作業療法評価とプログラム
身体機能の評価は,Lt.br/.StageⅢ-Ⅱ-Ⅳ,関節拘縮や可動域制限はなし,TUGは20.8秒,左肩関節の疼痛と歩行耐久性,動作時バランスの低下を認めた.起居,移動動作は屋内1本杖自立レベル.ADLは入浴以外自立レベル.入浴はデイケアのみで行い,移動や洗体の一部に介助を要した.HDS-Rは30点であり,認知や記憶は良好であった.興味関心チェックシートからは,バイクに乗りたい,大会に行きたいという希望があった.今回,利用者の「したい生活行為」に焦点を当て課題を分析し,具体的なプランを段階的に立案するため,生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を用いた.MTDLPによる聞き取りから「友人とバイクの大会に出かけたい」という目標が挙がった.合意目標は,行きつけのカフェに足を運び友人へお礼を伝えること,趣味であったバイクの大会へ出かけることとした.発症後も友人との交流は続き,協力により外出の機会を得られることは強みであった.初期評価の自己評価は遂行度0/10,満足度2/10であった.Life-Space Assessment(以下,LSAシート)は9点で自宅内とデイケアの生活空間レベル1. 妨げている要因として①不使用による左肩関節痛,運動意欲の減少②歩行耐久性,バランス低下による屋外歩行時の転倒リスク③退院後の外出未経験による,心理的不安,再発への不安④不眠による活動性の低下が挙げられた.訓練は, 基礎体力の向上及び,歩行能力の向上,左肩関節痛の軽減を図った. 外出時の転倒への不安に対しては,不整地歩行や階段昇降,屋外環境での動作確認を行い,外出場面を想定した訓練を実施した.事前に不安に感じている危険箇所やリスクを確認し,安全な動作方法を本人,多職種と共有した.外出後は振り返りを行い,成功体験と課題を本人と整理し,次の目標を再設定した.自主訓練の定着を目指し定期的に指導を行った.
経過
デイケアの利用開始当初は,転倒リスク,介助負担への懸念,てんかん発作への不安から外出に消極的であった.その後,機能訓練と外出を想定した動作練習を継続し,当施設でのリハビリ開始から5カ月後に友人の付き添いのもと退院後初めての外出が可能となった.外出後には,「楽しかった」,「本当に行けると思っていなかった」,「またリハビリを頑張ろう」といった前向きな発言が増えた.13か月後には介助者の付き添いなしで屋外を歩行し友人と外出,目標のバイクの大会にも参加できた.15か月後には屋外の階段や傾斜のある芝生上を一人で移動できるようになり,外出先での行動範囲が拡大した.
結果
最終評価では,自己評価の遂行度は10/10,満足度は10/10となった.LSAは9点から25.5点へ向上し, 自宅内に限られた生活空間レベル1から友人と杖で町外へ外出できる生活空間レベル5まで改善を認め,定期的な外出が可能となった.自宅周辺の活動範囲の面では点数の向上は少なかった.生活空間には制限が残る範囲であったが,臨床的には10点以上の改善があり,症例の生活に意味のある変化が生じたと考えられた.また,目標達成後は活動への自信が高まり,外出に対する不安が軽減し,不眠の改善もみられた.自己効力感の向上や不眠軽減により日中の活動性も上がり,リハビリへの意欲や次の目標に対する意欲も向上した.
考察
Banduraは自己効力感を,目標達成に必要な行動を計画し実行する能力への信念と定義している.また,Levackらは,リハビリテーションにおける目標設定が自己効力感に影響を及ぼすと報告している.本症例では,MTDLPや興味関心チェックシートを用いて本人の価値ある作業を明確化し,具体的で共有可能な目標へ落とし込んだことが重要であった.機能訓練に加え,外出環境を想定した練習,友人とのつながりを活かした外出機会,外出前後のリスク確認と振り返りにより,達成経験が得られた.目標設定から達成するまでの一連の過程が本症例の,自己効力感の向上に繋がった.その結果,活動意欲や満足度が向上し,行動範囲の拡大,心理的不安の軽減,不眠の改善が得られたと考えられる.社会的フレイル予防の観点では,退院後早期から社会的役割や人とのつながりに着目し,利用者中心の目標を生活で実現できるよう支援することが重要である.
まとめ
生きる楽しみを再獲得するには,身体機能の向上だけでなく,社会参加,役割,趣味活動,心理面を含めた包括的支援が必要であることが示唆された.基本チェックリスト等の活用に加え,セラピストによる丁寧な聞き取りを行い目標設定し達成することで,社会的フレイルの早期発見と予防に繋がると考える.生活期では,多職種と連携し,包括的な支援体制のもとで継続的に関わることができる.今回はリハビリスタッフのみの働きかけではなく,多職種との情報共有や協力を得て目標を達成することができた.今後も包括支援体制を活かし,利用者が望む生活行為の実現を通して,生活満足度の向上と社会的・身体的フレイル双方の予防につなげるリハビリを展開したい.
生活期では,退院後に歩行能力やADLの改善が外出や趣味活動に結びつかず,役割喪失や孤立を生じる利用者は少なくない.社会的フレイルは,閉じこもり,孤食,社会的交流の減少などを含み,身体的フレイルや心理的,認知的フレイルに先行して生じる可能性が示されている.今回,デイケア利用者に対して社会的フレイル予防の視点から作業療法を実施し,趣味活動を通して社会参加を再獲得した症例を経験したので考察を加えて報告する.
症例紹介
70代の男性.診断名は右皮質下出血による左片麻痺.バイク運転後に顔面の左右差を自覚し,友人から顔面麻痺を指摘され救急搬送となり入院,保存的加療となる.10病日目に回復期病院へ転院.発症から6ヶ月後自宅退院.後遺症の症候性てんかんに対して内服中.退院後も趣味のバイクを通じた友人とは良好な関係が続いていた.妻と次男の3人暮らしで妻は就労があるため,本症例の趣味活動や社会参加への継続的な支援は得にくかった.自宅はアパート2階で家屋改修は困難であった.
作業療法評価とプログラム
身体機能の評価は,Lt.br/.StageⅢ-Ⅱ-Ⅳ,関節拘縮や可動域制限はなし,TUGは20.8秒,左肩関節の疼痛と歩行耐久性,動作時バランスの低下を認めた.起居,移動動作は屋内1本杖自立レベル.ADLは入浴以外自立レベル.入浴はデイケアのみで行い,移動や洗体の一部に介助を要した.HDS-Rは30点であり,認知や記憶は良好であった.興味関心チェックシートからは,バイクに乗りたい,大会に行きたいという希望があった.今回,利用者の「したい生活行為」に焦点を当て課題を分析し,具体的なプランを段階的に立案するため,生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を用いた.MTDLPによる聞き取りから「友人とバイクの大会に出かけたい」という目標が挙がった.合意目標は,行きつけのカフェに足を運び友人へお礼を伝えること,趣味であったバイクの大会へ出かけることとした.発症後も友人との交流は続き,協力により外出の機会を得られることは強みであった.初期評価の自己評価は遂行度0/10,満足度2/10であった.Life-Space Assessment(以下,LSAシート)は9点で自宅内とデイケアの生活空間レベル1. 妨げている要因として①不使用による左肩関節痛,運動意欲の減少②歩行耐久性,バランス低下による屋外歩行時の転倒リスク③退院後の外出未経験による,心理的不安,再発への不安④不眠による活動性の低下が挙げられた.訓練は, 基礎体力の向上及び,歩行能力の向上,左肩関節痛の軽減を図った. 外出時の転倒への不安に対しては,不整地歩行や階段昇降,屋外環境での動作確認を行い,外出場面を想定した訓練を実施した.事前に不安に感じている危険箇所やリスクを確認し,安全な動作方法を本人,多職種と共有した.外出後は振り返りを行い,成功体験と課題を本人と整理し,次の目標を再設定した.自主訓練の定着を目指し定期的に指導を行った.
経過
デイケアの利用開始当初は,転倒リスク,介助負担への懸念,てんかん発作への不安から外出に消極的であった.その後,機能訓練と外出を想定した動作練習を継続し,当施設でのリハビリ開始から5カ月後に友人の付き添いのもと退院後初めての外出が可能となった.外出後には,「楽しかった」,「本当に行けると思っていなかった」,「またリハビリを頑張ろう」といった前向きな発言が増えた.13か月後には介助者の付き添いなしで屋外を歩行し友人と外出,目標のバイクの大会にも参加できた.15か月後には屋外の階段や傾斜のある芝生上を一人で移動できるようになり,外出先での行動範囲が拡大した.
結果
最終評価では,自己評価の遂行度は10/10,満足度は10/10となった.LSAは9点から25.5点へ向上し, 自宅内に限られた生活空間レベル1から友人と杖で町外へ外出できる生活空間レベル5まで改善を認め,定期的な外出が可能となった.自宅周辺の活動範囲の面では点数の向上は少なかった.生活空間には制限が残る範囲であったが,臨床的には10点以上の改善があり,症例の生活に意味のある変化が生じたと考えられた.また,目標達成後は活動への自信が高まり,外出に対する不安が軽減し,不眠の改善もみられた.自己効力感の向上や不眠軽減により日中の活動性も上がり,リハビリへの意欲や次の目標に対する意欲も向上した.
考察
Banduraは自己効力感を,目標達成に必要な行動を計画し実行する能力への信念と定義している.また,Levackらは,リハビリテーションにおける目標設定が自己効力感に影響を及ぼすと報告している.本症例では,MTDLPや興味関心チェックシートを用いて本人の価値ある作業を明確化し,具体的で共有可能な目標へ落とし込んだことが重要であった.機能訓練に加え,外出環境を想定した練習,友人とのつながりを活かした外出機会,外出前後のリスク確認と振り返りにより,達成経験が得られた.目標設定から達成するまでの一連の過程が本症例の,自己効力感の向上に繋がった.その結果,活動意欲や満足度が向上し,行動範囲の拡大,心理的不安の軽減,不眠の改善が得られたと考えられる.社会的フレイル予防の観点では,退院後早期から社会的役割や人とのつながりに着目し,利用者中心の目標を生活で実現できるよう支援することが重要である.
まとめ
生きる楽しみを再獲得するには,身体機能の向上だけでなく,社会参加,役割,趣味活動,心理面を含めた包括的支援が必要であることが示唆された.基本チェックリスト等の活用に加え,セラピストによる丁寧な聞き取りを行い目標設定し達成することで,社会的フレイルの早期発見と予防に繋がると考える.生活期では,多職種と連携し,包括的な支援体制のもとで継続的に関わることができる.今回はリハビリスタッフのみの働きかけではなく,多職種との情報共有や協力を得て目標を達成することができた.今後も包括支援体制を活かし,利用者が望む生活行為の実現を通して,生活満足度の向上と社会的・身体的フレイル双方の予防につなげるリハビリを展開したい.
