講演情報

[22-O-L002-06]転倒リスク評価に必要な新たな視点

*大平 敬子、増田 裕里、錦織 亨太、中田 亜珠沙 (大阪府 ウエルハウス協和)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【はじめに】
転倒は高齢者のADL低下や要介護度の重度化につながる重要な問題であり、通所リハビリテーション(以下、通所リハ)においても転倒予防は重要な課題である。転倒リスク評価にはTimed Up and Go Test(TUG)や片脚立位時間などの身体機能評価が広く用いられているが、通所リハ利用者は身体機能が低下している場合が多く、既存の評価指標のみで転倒リスクを十分に判別できない可能性がある。本研究では、通所リハ利用者における転倒と心身機能との関連を検討し、既存の転倒リスク評価が抱える課題について考察した。
【方法】
対象は、当施設通所リハ利用者のうち、研究参加に同意し独歩で移動可能であった37名(平均年齢81.8±7.9歳)とした。過去6か月以内の転倒歴により転倒群21名と非転倒群16名に分類した。評価項目は、5回立ち上がりテスト、TUG、5m歩行テスト、片脚立位時間、Mini-Mental State Examination(MMSE)合計点および各カテゴリー得点とした。群間比較にはマン・ホイットニーのU検定を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】
転倒群と非転倒群との比較では、5回立ち上がりテスト、TUG、5m歩行テスト、片脚立位時間、MMSE合計点およびMMSE各カテゴリーのすべてにおいて有意差は認められなかった(p>0.05)。また、各項目で基準範囲内の値を示す者を両群で少数認めたものの、その割合に群間差はなく、多くの対象者が基準値から逸脱していた。MMSE各カテゴリーでは、「注意・計算」において転倒群が非転倒群よりやや低値を示す傾向がみられた。
【考察】
本研究における身体機能評価では、5回立ち上がりテストを下肢筋力、片脚立位を静的バランス能力、5m歩行テストとTUGを移動能力および動的バランス能力を評価する指標として用いた。TUGは科学的介護情報システム(LIFE)においても用いられる評価項目であり、5回立ち上がりテストや片脚立位テストも高齢者の転倒リスク評価として広く用いられている。安延1)は、単一の評価のみで転倒リスクを判断することは困難であり、複数の評価を組み合わせて総合的に判断することの重要性を指摘している。しかし本研究では、身体機能評価項目のいずれにおいても転倒群と非転倒群の間に有意差は認められなかった。また、各項目で基準範囲内の値を示す者を両群で少数認めたものの、その割合に群間差はなく、多くの対象者が基準値から逸脱していた。これらはいずれも転倒リスクの高まりを示す所見であり、対象者全体として既に転倒リスクが高い集団であることが示唆された。そのため、従来の身体機能評価のみでは転倒の有無を十分に弁別できなかったものと考えられる。
一方で、本研究では身体機能以外の要因にも着目する必要性が示唆された。Uemura2)らは、転倒リスクの高い高齢者では障害物跨ぎ課題における予測的姿勢調整時間が有意に延長することを報告している。本研究では予測的姿勢調整を直接評価していないものの、従来の身体機能評価のみでは転倒の有無を十分に説明できなかったことから、予測的姿勢調整を含めた評価方法についても検討する必要があると考えられる。
また、当施設の通所リハ利用者は平均年齢81.8歳と高く、評価方法によっては疲労により評価途中でパフォーマンスが低下する例もみられる。さらに、短時間型サービスの利用や入浴介助との併用により評価時間が限られる場合も少なくない。そのため、転倒リスク評価には精度だけでなく、短時間で実施可能かつ利用者負担の少ない評価方法を検討する必要がある。
認知機能については、MMSE合計点および各カテゴリーに有意差は認められなかった。しかし、カテゴリー別の平均点では「注意・計算」において転倒群が非転倒群よりやや低値を示す傾向がみられた。村田3)らは、在宅障害高齢者において、下肢機能のみならず注意機能の低下が転倒に関連することを報告している。本研究結果から注意機能と転倒との関連を明確に示すことはできなかったが、注意機能が転倒に関与している可能性は否定できず、今後はより詳細な注意機能評価を併用して検討する必要がある。
【まとめ】
本研究では、通所リハ利用者において転倒群と非転倒群間で心身機能に有意差は認められなかった。対象者全体が既に高い転倒リスクを有していた可能性があり、従来の心身機能評価のみでは転倒の有無を十分に弁別できなかった。今後は、注意機能や予測的姿勢調整機能を含めた多面的な評価の有用性について検討し、現場の制約下でも実施可能な、短時間かつ低負担の評価体系を構築することが課題である。
【引用文献】
1)安延由紀子:転倒予防を目的としたバランス評価の文献的考察.日本転倒予防学会誌,7(3):13-18,2021.
2)Uemura K, et al. Older adults at high risk of falling need more time for anticipatory postural adjustment in obstacle negotiation. J Gerontol A Biol Sci, 66(8): 904–909, 2011.
3)村田伸,津田彰,稲谷ふみ枝,他:在宅障害高齢者の転倒に影響を及ぼす身体的及び認知的要因.理学療法学,32(2):88-95,2005.