講演情報

[22-O-D001-01]薬を味方に ケアをもっと豊かに

*大塚 直樹、櫻澤 淳子、松田 真一、大矢 雄太 (東京都 清らかの里)
PDFダウンロードPDFダウンロード
「はじめに」
高齢者人口の増加に伴い、認知症高齢者は増加している。当施設利用者においても認知症を有する方が多く、不穏や危険行動への対応が重要な課題となっている。当施設の認知症と日常生活自立度がⅡ以上の入居者は現在90%~98%を占めている。今回の症例は、帰宅願望・妄想・昜怒性等の行動・心理症状(BPSD)が出現し転倒や事故のリスクが増大、他利用者とのトラブルに繋がる可能性が高かった症例である。BPSDへの対応には、本人の不安や思いに寄り添った非薬物的介入が重要とされているが今回薬物療法の調整によりBPCDの軽減がみられ、より適切なケアの提供や他利用者との交流、リハビリ参加の促進につながった。今回の関わりの中で、看護師による継続アセスメントと医師による薬物療法の調整。更に精神科受診により専門的な薬剤の調整。また多職種とのカンファレンスを通し情報共有を行い、低床ベッドの使用や床へのクッションマットを取り入れるなど、安全に配慮した環境調整を行ったことで安全に入所生活を送れるようになった。そのことから不穏状態の軽減と安全な生活環境の維持につながった為、その経過と取り組みについて報告する。
「事例紹介」
A氏80代女性 
取り組み期間:2025.8.15~現在
病名:アルツハイマー型認知症
要介護3  転倒・転落スコア38点 危険度Ⅲ
寝たきり度B1 認知度Ⅲa
車椅子に座面センサーを使用し対応
ベッド周囲床にクッションマットを使用、低床ベッドの活用
ベッド周りの伝い歩きは可能であるが、ふらつきが著明
不穏、帰宅願望が強い時は車椅子から立ち上がりと歩行があるため常時スタッフが1人付き添い対応
「取り組み」
多職種連携のもと不穏状態の軽減と転倒予防を目的として介入を実施した。利用者と関わっていく中で朝食後、夕食前に不穏・帰宅願望が強く出現する傾向を把握した。その為、15時にクエチアピンの処方、夜間の不眠に対しデエビゴが開始となり調整を行った。しかし、帰宅願望はなくなったが、過鎮静となり食事摂取量の低下やリハビリでも積極的な訓練が難しい状況になった。主治医より、専門的な調整が必要と判断され精神科を受診。睡眠状態や不穏出現時間帯の観察結果を他職種で共有し、精神科医へ情報提供をおこなった。受診の結果レキサルティが追加となった。睡眠状態や覚醒時間は眠りスキャンを活用、不穏等の症状の観察やADLの状態等、多職種カンファレンスを定期に行いながら、不穏状態の軽減と安全な生活環境の確保を目指した。
「結果」
今回の取り組みでは帰宅願望は消失し、物品投擲や車椅子からの頻回な立ち上がり、易怒性などのBPSDが軽減した。また、穏やかになった事で他利用者との交流やリハビリで積極的な訓練を行えるようになった。
「考察」
多職種による継続的なアセスメントと情報共有を行うことで、不穏や帰宅願望が朝食後や夕食前に出現しやすいことを把握することでき、内服時間の調整を行うことができた。また、帰宅願望や易怒性の背景には不安や焦燥感が影響していた可能性が考えられ症状出現の要因を多角的に評価し、多職種で情報共有を行ったことが、適切な薬剤調整や環境調整につながったと考える。さらに精神科受診による専門的評価のもとクエチアピン、デエビゴによる治療に加えレキサルティが追加されBPSDの軽減を認めたが、薬剤調整中には傾眠傾向も認められた。今後もBPSDの改善と副作用による転倒リスクとのバランスを考慮して薬剤効果と副作用の評価を継続するのと同時に非薬物的介入も組み合わせながら、多職種による認知症ケアを継続する為にも、認知症チームケア推進加算の取り組みを進めていく必要があると考える。認知症利用者のBPSDに対しては、施設内において介護職・看護職のみで抱え込むのではなく、症状に応じて精神科医師などの専門職と連携することが重要である。本事例では、薬物療法の調整によりBPSDが軽減したことで、他利用者との交流やリハビリへの参加が可能となり、より安定した、その人らしい施設生活を送る事が出来た。また、スタッフも危険行動への対応に追われるだけでなく、利用者の思いや生活歴に寄り添った関わりを実践できるようになった。薬物療法を味方に適切に活用することは、症状の緩和のみならず、利用者一人ひとりに応じたより豊かな認知症ケアの実践につながると考える。