講演情報
[22-O-L005-05]自己決定支援によりサービス利用の継続に至った一例
*加納 裕遵、菅原 竜二、小島 太郎 (千葉県 国際医療福祉大学成田老年医療福祉センター介護老人保健施設オルタンシア)
【はじめに】
介護老人保健施設(老健)は在宅復帰支援の施設として,身体機能や日常生活動作(ADL)の改善のみならず,退所後の生活継続を見据えた支援が求められる.特に独居高齢者においては,在宅生活を支える介護サービスの受容および選択が重要な課題となる.作業療法士には,対象者の価値観や生活背景を踏まえながら,多職種と連携し,地域生活への移行を支援する役割が期待されている.今回,在宅復帰を希望する一方で介護サービス利用に消極的であった超高齢者に対し,多職種連携での作業療法介入を通じて通所リハビリテーション利用に至った一例を経験したため報告する.なお,本報告に際し本人より書面にて同意を得ている.
【事例紹介】
A氏は97歳女性.介護認定は要介護1.既往歴は変形性脊椎症,腰椎圧迫骨折であった.入所前は独居で生活し,訪問介護を週2回利用していた.身体機能の低下により自宅内の移動が困難となり,家族の強い希望でX日に当施設へ入所となった.
【作業療法評価】
入所前より担当ケアマネジャーから生活歴やサービス利用状況,本人の性格特性に関する情報収集を行った.本人は「自分でできることは自分でしたい」と話しており,自立への思いが強い一方,他者による介助や介護サービスの利用には消極的であった.入所時のBarthel Index(BI)は75点,Mini-Mental State Examination(MMSE)は22点であった.歩行はシルバーカーを使用し,Timed Up and Go Test(TUG Test)は37.5秒,6分間歩行距離は180mであった.基本動作は見守りレベルであったが,トイレおよび入浴動作では一部介助を要した.また,介助場面では「触らないでほしい」と発言することがあり,支援受容に課題が認められた.日中は居室で過ごす時間が長く,活動性の低下も認められた.
【介入方法】
在宅復帰後の生活継続を見据え,身体機能およびADL能力の向上とサービス受容の促進を目的に介入した.作業療法では歩行練習やADL練習に加え,フロア体操への参加を促し,活動量の向上を図った.また,本人の自立への思いを尊重しながら,できる限り自身で遂行できる機会を確保した.
多職種連携として,介護士と本人への関わり方について検討した.ADLでは可能な限り身体接触による介助を避け,本人の対処行動を見守った.トイレや入浴での更衣では下衣が上がりきっておらず,不十分な様子が見られた.その際に最初は見守り,徐々に不十分な点について声かけをすることで本人の気づきを促すよう関わりを行った.さらに,作業療法介入を通じて本人の心境の変化を把握し,在宅生活継続のためのリハビリテーションの必要性を理解し始めた段階で,退所後の通所リハビリテーション利用について提案した.その後,相談員へ本人の特性や希望を共有し,利用頻度や利用時間帯について調整を行った.
【経過】
歩行補装具の調整および身体機能練習により移動能力は徐々に向上した.また,フロア体操への参加を継続する中で活動性の向上がみられ,日常生活動作への積極性が高まった.介護士との支援方法の共有により,自らセルフケアを遂行する機会が増加し,成功体験を積み重ねることができた.その結果,本人は自身の身体機能の変化を実感するとともに,「家で生活を続けるためにはリハビリが必要である」と話すようになった.当初は介護サービス利用に消極的であったが,徐々に退所後の継続的なリハビリテーションの必要性を受け入れる姿勢がみられた.
【結果】
X+79日の最終評価では,BIは75点から90点へ改善し,MMSEは22点から30点へ向上した.歩行能力はシルバーカー歩行から杖歩行へ改善し,TUG Testは19.4秒,6分間歩行距離は271mへ向上した.ADL能力の改善に伴いセルフケア動作の自立度も向上した.屋内であれば杖歩行,もしくは伝い歩きで自立となった.そして,本人は通所リハビリテーション利用の必要性を理解し,自宅退所後の利用に同意した.X+84日の退所後,独居生活を再開し,通所リハビリテーションを利用しながら在宅生活を継続することが可能となった.
【考察】
本事例では,身体機能やADL能力への介入に加え,本人の価値観を尊重した作業療法介入と多職種による一貫した支援がサービス受容の促進につながったと考えられる.A氏は入所当初,他者による介助や介護サービス利用に抵抗感を示していたが,介護士と支援方法を共有し,セルフケア機会を確保したことで成功体験を重ねることができた.これにより自己効力感が高まり,身体機能やADL能力の改善だけでなく,在宅生活継続のためのリハビリテーションの必要性を理解するに至ったと考えられる.また,入所前よりケアマネジャーから本人の生活背景や特性を把握し,介護士や相談員と共有したことで,一貫した支援体制を構築することができた.さらに,作業療法士が本人の心境の変化を捉えながら適切なタイミングでサービス利用を提案したことが,退所後の継続支援につながった可能性がある.
老健における作業療法士は,身体機能やADL能力の改善を図るだけでなく,対象者の価値観や生活背景を理解し,多職種と協働しながら地域生活を支える支援体制を構築する役割を担っている.本事例の介入より,作業療法士が在宅復帰後の生活を見据えてサービス利用を支援することが重要であると考える.
【結語】
本事例を通して,老健における作業療法士は身体機能やADL能力の改善を図るだけでなく,対象者の価値観や生活背景を理解し,多職種と協働しながら在宅生活を支える支援体制を構築する役割を担うことが示された.また,対象者の心境の変化を捉えたサービス利用支援は,在宅復帰後の生活継続を促進するうえで重要であることが示唆された.
介護老人保健施設(老健)は在宅復帰支援の施設として,身体機能や日常生活動作(ADL)の改善のみならず,退所後の生活継続を見据えた支援が求められる.特に独居高齢者においては,在宅生活を支える介護サービスの受容および選択が重要な課題となる.作業療法士には,対象者の価値観や生活背景を踏まえながら,多職種と連携し,地域生活への移行を支援する役割が期待されている.今回,在宅復帰を希望する一方で介護サービス利用に消極的であった超高齢者に対し,多職種連携での作業療法介入を通じて通所リハビリテーション利用に至った一例を経験したため報告する.なお,本報告に際し本人より書面にて同意を得ている.
【事例紹介】
A氏は97歳女性.介護認定は要介護1.既往歴は変形性脊椎症,腰椎圧迫骨折であった.入所前は独居で生活し,訪問介護を週2回利用していた.身体機能の低下により自宅内の移動が困難となり,家族の強い希望でX日に当施設へ入所となった.
【作業療法評価】
入所前より担当ケアマネジャーから生活歴やサービス利用状況,本人の性格特性に関する情報収集を行った.本人は「自分でできることは自分でしたい」と話しており,自立への思いが強い一方,他者による介助や介護サービスの利用には消極的であった.入所時のBarthel Index(BI)は75点,Mini-Mental State Examination(MMSE)は22点であった.歩行はシルバーカーを使用し,Timed Up and Go Test(TUG Test)は37.5秒,6分間歩行距離は180mであった.基本動作は見守りレベルであったが,トイレおよび入浴動作では一部介助を要した.また,介助場面では「触らないでほしい」と発言することがあり,支援受容に課題が認められた.日中は居室で過ごす時間が長く,活動性の低下も認められた.
【介入方法】
在宅復帰後の生活継続を見据え,身体機能およびADL能力の向上とサービス受容の促進を目的に介入した.作業療法では歩行練習やADL練習に加え,フロア体操への参加を促し,活動量の向上を図った.また,本人の自立への思いを尊重しながら,できる限り自身で遂行できる機会を確保した.
多職種連携として,介護士と本人への関わり方について検討した.ADLでは可能な限り身体接触による介助を避け,本人の対処行動を見守った.トイレや入浴での更衣では下衣が上がりきっておらず,不十分な様子が見られた.その際に最初は見守り,徐々に不十分な点について声かけをすることで本人の気づきを促すよう関わりを行った.さらに,作業療法介入を通じて本人の心境の変化を把握し,在宅生活継続のためのリハビリテーションの必要性を理解し始めた段階で,退所後の通所リハビリテーション利用について提案した.その後,相談員へ本人の特性や希望を共有し,利用頻度や利用時間帯について調整を行った.
【経過】
歩行補装具の調整および身体機能練習により移動能力は徐々に向上した.また,フロア体操への参加を継続する中で活動性の向上がみられ,日常生活動作への積極性が高まった.介護士との支援方法の共有により,自らセルフケアを遂行する機会が増加し,成功体験を積み重ねることができた.その結果,本人は自身の身体機能の変化を実感するとともに,「家で生活を続けるためにはリハビリが必要である」と話すようになった.当初は介護サービス利用に消極的であったが,徐々に退所後の継続的なリハビリテーションの必要性を受け入れる姿勢がみられた.
【結果】
X+79日の最終評価では,BIは75点から90点へ改善し,MMSEは22点から30点へ向上した.歩行能力はシルバーカー歩行から杖歩行へ改善し,TUG Testは19.4秒,6分間歩行距離は271mへ向上した.ADL能力の改善に伴いセルフケア動作の自立度も向上した.屋内であれば杖歩行,もしくは伝い歩きで自立となった.そして,本人は通所リハビリテーション利用の必要性を理解し,自宅退所後の利用に同意した.X+84日の退所後,独居生活を再開し,通所リハビリテーションを利用しながら在宅生活を継続することが可能となった.
【考察】
本事例では,身体機能やADL能力への介入に加え,本人の価値観を尊重した作業療法介入と多職種による一貫した支援がサービス受容の促進につながったと考えられる.A氏は入所当初,他者による介助や介護サービス利用に抵抗感を示していたが,介護士と支援方法を共有し,セルフケア機会を確保したことで成功体験を重ねることができた.これにより自己効力感が高まり,身体機能やADL能力の改善だけでなく,在宅生活継続のためのリハビリテーションの必要性を理解するに至ったと考えられる.また,入所前よりケアマネジャーから本人の生活背景や特性を把握し,介護士や相談員と共有したことで,一貫した支援体制を構築することができた.さらに,作業療法士が本人の心境の変化を捉えながら適切なタイミングでサービス利用を提案したことが,退所後の継続支援につながった可能性がある.
老健における作業療法士は,身体機能やADL能力の改善を図るだけでなく,対象者の価値観や生活背景を理解し,多職種と協働しながら地域生活を支える支援体制を構築する役割を担っている.本事例の介入より,作業療法士が在宅復帰後の生活を見据えてサービス利用を支援することが重要であると考える.
【結語】
本事例を通して,老健における作業療法士は身体機能やADL能力の改善を図るだけでなく,対象者の価値観や生活背景を理解し,多職種と協働しながら在宅生活を支える支援体制を構築する役割を担うことが示された.また,対象者の心境の変化を捉えたサービス利用支援は,在宅復帰後の生活継続を促進するうえで重要であることが示唆された.
