講演情報

[22-O-L007-03]記銘力低下を伴うパーキンソン病症例の床上動作介入

*橋口 大和、小島 太郎、加納 裕遵、菅原 竜二 (千葉県 国際医療福祉大学成田老年医療福祉センター介護老人保健施設オルタンシア)
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【はじめに】
床上生活を継続する高齢者にとって、床からの立ち上がりは、生活様式の維持に直結する重要な動作である。パーキンソン病では、無動、姿勢反射障害により、立ち上がり後の姿勢が不安定となることがある。今回、記銘力の低下を呈するパーキンソン病症例に対し、本人が希望する敷布団での生活継続を目標として、床からの立ち上がり方法の再構築と視覚的手がかりを用いた反復練習を実施した。訓練場面で動作の安定性と主観的満足度に変化を認めたため、その経過と動作学習の支援工夫について報告する。
【症例紹介】
80歳代男性、要介護1。妻と2人暮らし。X-5年に手の震えが出現し受診し、パーキンソン病、Hoehn & Yahr重症度分類IIIと診断された。日常生活動作は概ね自立していたが、転倒が増加したため通所リハビリテーションの利用を開始した(利用開始日をXとする)。利用頻度は週2回の半日であり、個別リハビリテーションは1回20分で実施した。X+2週後のリハビリテーション会議において、「敷布団から立ち上がるときにふらつく」「ベッドは使いたくない」「ここで立ち方を学びたい」との希望が聞かれた。自宅では敷布団を使用しており、本人は現在の生活様式を継続する意向が強かった。
【初期評価】
握力は左右とも29kgであり、独歩可能であった。Timed Up and Go testは9秒、6分間歩行距離は433mであった。MMSE-Jは23/30点で、新たに説明された内容や人名の想起に困難を認めた。評価時、説明の理解と動作の模倣は可能であったが、時間を置くと手順の保持が困難となる特徴を認めた。FIMは運動項目80/91点、認知項目28/35点であった。床からの立ち上がりは、四つ這い位から両膝を伸展して殿部を挙上し、上肢を足部方向へ移動させた後に上体を起こす高這い型であった。体幹伸展時に重心が後方へ移動し、ふらつきを認めた。一方、四つ這い位、片膝立ち位および立位の保持は可能であり、動作変更に必要な筋力や可動域は保たれていると判断した。また、立ち上がり動作に対する主観的満足度は10点満点中4点であった。自宅環境は、敷布団からベッドへの変更や手すり設置により隣室への通路を塞ぐ可能性があり、押し入れを使用しにくくする形となるため、環境面での調整は困難であった。
【介入方法】
本人の生活上の希望を尊重し、ベッドへの変更や手すり設置を前提とした環境調整ではなく、現在の生活様式の中で実行可能な動作方法の獲得を優先した。四つ這い位から片膝立ち位を経由し、前方の下肢へ段階的に重心を移して立ち上がる方法へ再構築した。また、記銘力の低下に対しては、口頭指示だけに依存せず、各動作の写真による視覚的手がかりと、同じ手順による反復練習を用いた。
【介入経過】
X+3週目から、作業療法士が片膝立ちを経由する方法を提示し、模倣による練習を開始した。介入中は実施可能であったが、次回の通所リハビリテーション利用時には手順を想起できず、再度の説明を要した。一方、提示する情報が多いと手順が曖昧となる場面がみられたため、作業療法士が実際に動作している場面を撮影し、仰臥位から立ち上がりまでを「仰向けから始める」「横向きに起きる」「四つ這いになる」「片膝立ち」「背中を伸ばす」の5段階へ分け、それぞれの工程を写真で示した。さらに、各写真に単語レベルの短い説明を加え、立ち上がりの流れを視覚的に確認できる写真資料を作成した。写真を見ながら練習することで、口頭での説明の場合と比較して動作が円滑になり、手順の想起も容易となった。しかし、X+5週目でも四つ這いからの動作で、片膝立ちになる前に背中を伸ばすなどの手順の混乱がみられたため5場面から「四つ這い」「片膝立ち」「背中を伸ばす」の3場面へ整理した。介入時には同じ手順を反復し、動作が停滞した際に写真を提示し、口頭での説明を加えた。また、手順を3場面へ整理したことで、確認すべき動作が明確となり、練習中の迷いも少なくなった。
【結果】
X+8週目、訓練場面では視覚資料や口頭指示を用いずに、片膝立ちを経由して床から立ち上がることが可能となった。高這い型で認めた上体を起こした際の大きな後方ふらつきは軽減した。本人からは「前より立ちやすい」との発言が聞かれ、立ち上がり動作に対する主観的満足度は4点から6点へ向上し、動作開始までの停滞も減少した。
【考察】
本症例では、パーキンソン病に伴う後方重心と、従来用いていた高這い型の動作特性である、上体を起こした際の後方への重心移動が不安定性に関与していたと考える。片膝立ちを経由する方法では、前方の下肢を支点として重心を段階的に前方・上方へ移動できるため、上体を起こした際の重心の変化が少なくなり、後方ふらつきの軽減につながった可能性がある。また、新しい手順の記憶が困難であっても、動作の写真と簡潔な言葉を組み合わせ、提示する情報量を調整しながら同じ手順を反復したことで、視覚情報を利用した動作想起が促されたと考える。記銘力の低下を認める症例では、口頭での説明を繰り返すだけでなく、本人が理解しやすい情報提示方法を選択し、成功した手順を一貫して反復することが、動作学習を支援する上で重要である。さらに、環境調整を一律に優先するのではなく、「敷布団で生活したい」という本人の価値観を介入目標の基点としたことが、練習への参加と満足度の向上に寄与したと考える。
【結語】
記銘力の低下を呈するパーキンソン病症例に対し、本人の生活希望に沿って床からの立ち上がり方法を再構築し、写真による視覚的手がかりと反復練習を行った。その結果、訓練場面で片膝立ちを経由した立ち上がりが可能となり、立位直後の後方ふらつきと主観的満足度に改善を認めた。動作方法の選択に加え、本人の認知機能に応じて情報量と提示方法を調整することの重要性が示唆された。