講演情報

[22-O-L006-04]自宅の環境調整により在宅復帰を実現した一例

*鮏川 亜美、小島 太郎、白石 楓貴、鈴木 浩之、佐藤 慎 (千葉県 国際医療福祉大学成田老年医療福祉センター介護老人保健施設オルタンシア)
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【はじめに】
介護老人保健施設の重要な役割の一つに在宅復帰支援がある。しかし、高齢者では術後合併症や長期臥床の影響によって身体機能の改善が限定的となり、在宅復帰が困難となる症例も少なくない。そのような症例に対し、身体機能の改善を主目標として介入するのではなく、福祉用具の導入による生活環境の調整や介護サービスの活用を含めた包括的な支援が求められる。
今回、両側の人工股関節全置換術(THA)術後に両側の坐骨神経麻痺を発症、また、両側の股関節脱臼を2度発症し長期臥床を余儀なくされ、著しい身体機能の低下を認めた症例を担当した。リハビリテーション介入により身体機能の大幅な改善は得られなかったが、家屋調査により得られた情報から本人の生活環境に合わせたリハビリテーションプログラムを検討・実施し、自宅の環境調整および福祉用具、介護サービスの選定を行った結果、本人とご家族の希望である独居での在宅復帰を実現できたため報告する。
【症例紹介】
症例は70歳代女性である。X年に両側の形成不全性変形性股関節症の診断で、経過観察となっていた。当時、ADL、IADLともに自立していたが、股関節の疼痛増悪により徐々に歩行困難となる。日常生活に支障を来したため、同年Y月Z日に両側THAを施行。術翌日に両下肢の運動麻痺を認め、両側坐骨神経麻痺と診断され、下肢筋力の低下、感覚障害の影響で活動量が減少した。さらにY+1か月より両側の股関節脱臼を2度発症し、再脱臼防止のための床上安静期間が延長した。再脱臼防止のため、禁忌肢位が左右ともに股関節屈曲90°では内旋20°まで、屈曲45°では内旋10°、内転10°までといった厳しい制限が設けられた。
その結果、股関節の可動域制限が顕著となり、また、全身の筋力や持久力、移動能力が著しく低下したことで独居での在宅復帰が困難となった。急性期病院および回復期病院での治療・リハビリテーションを継続したが、当時の身体機能では在宅復帰が困難であると判断され、介護度は要介護4の判定となった。しかし、本人と家族より独居での在宅復帰への希望が強く聞かれたため、リハビリテーション継続目的でY+8か月に当施設へ入所の運びとなった。
【入所時評価】
入所時のADLは食事、整容、上衣更衣などは概ね自立していた。一方で、移動能力は著しく低下しており、歩行はピックアップウォーカーを用いて訓練レベル、施設内での移動は車椅子自走であった。下衣更衣では股関節の可動域制限により下肢挙上が困難であること、立位バランスが低下していること等が影響して介助を要していた。また、入浴動作についても浴槽の跨ぎ動作困難であり、機械浴にて入浴していた。
在宅復帰に向け、本人より自宅の環境について聴取した。自宅は平屋の戸建て住宅であり、玄関や室内に複数の高い段差があるとのことだった。また、浴室については床から浴槽までが高いとのことで、当時の身体機能では跨ぎ動作が困難であると判断された。本人の身体機能、聴取した生活環境を総合的に判断し、独居での生活を再開するには困難であると考えられた。
【介入経過】
入所当初は在宅復帰に向け、筋力増強訓練、歩行練習など身体機能の改善を目的としたプログラムを中心に実施した。しかし、長期臥床および神経障害の影響、また、介護老人保健施設という特性上、1回20分程度の短い介入時間では身体機能の著明な改善は認められなかった。
そこで介入方針を再検討し、身体機能向上を目的としたアプローチから、現有能力を最大限に引き出した状態で生活を成立させるためのアプローチへと変更した。まず、家屋状況を正確に把握するために本人、家族、当施設のケアマネージャー、理学療法士で家屋調査を実施し、自宅内外の動線、段差の有無や高さ、手すりの設置状況、トイレおよび浴室の環境等を詳細に確認した。その結果を元に、介入内容の再検討及び導入すべき福祉用具、介護サービスの選定を行った。
環境面では手すりや段差の設置、家具配置の調整を提案、移動手段として歩行器の選定を行った。下衣更衣に対して自助具の導入を検討し、自助具を用いた着脱訓練を実施した。また、環境調整により補うことができない部分に対しては必要な介護サービスの検討を行った。リハビリテーションでは、自宅内外の移動環境を想定した歩行練習や段差昇降練習を反復して実施し、実際の生活環境に近い条件での動作獲得を目指した。
本人に対しては、転倒、再脱臼予防に関する指導や説明を行い、自宅生活に必要な自己管理能力の向上にも取り組んだ。
【結果】
介入により身体機能は大幅な改善を認めなかった。しかし、自宅環境を想定した反復練習により、歩行器を使用した移動能力は向上し、在宅生活で必要となる安定した段差昇降動作を獲得した。また、福祉用具や自助具を活用することで、自立した生活動作を獲得できた。
さらに、家屋環境の調整によって本人の身体機能でも自宅内での動作が可能となり、本人、家族の希望である独居での在宅復帰を実現した。
【考察】
本症例では、術後合併症及び長期臥床の影響により低下した身体機能の著明な改善は得られなかった。しかし、在宅復帰を阻害する要因を身体機能のみに限定せず、生活環境や生活動作に着目した介入を行ったことが在宅復帰につながったと考える。
介護老人保健施設における在宅復帰支援では、機能回復のみならず、残存能力を最大限に活用できる環境を整備する視点が重要である。本症例では家屋調査による課題抽出を行い、抽出した課題に対する福祉用具の選定、生活場面を想定した動作練習を実施したことで、身体機能の限界を補完しながら生活能力の向上を図ることができた。
身体機能の改善が限定的な症例であっても、環境調整とその環境に沿ったリハビリテーションを実施することで在宅復帰の可能性を高められることが示唆された。