講演情報
[23-P-JH-02]個別性のある排便支援を目指して~排便日誌から見えてきたもの~
*前野 愛花、廣田 菜音 (福井県 福井勝山総合病院附属介護老人保健施設)
【はじめに】
高齢者は加齢に伴う腸蠕動運動の低下に加え、活動量、水分摂取量、食事摂取量、基礎疾患、内服の作用・副作用などの影響を受けやすく、自然排便の維持が困難である。福井勝井山総合病院附属介護老人保健施設(以下:当施設)では入所者を対象に、排便コントロールの手段として便秘3日目以上で下剤や座薬を使用している。しかし、下剤や座薬を使用するルーティン化された排便管理では、個々の排便リズムや身体状況に応じた支援が十分でないと考えられる。そこで、座薬や下剤に過度に依存しない排便コントロールをするために、令和6年8月より利用者の排便頻度の集計(以下:排便日誌とする)を開始した。排便状況の把握を行うとともに、多職種で連携して入所者の生活状況や身体状況に応じた支援を行った結果を報告する。
【目的】
排便日誌を用いて入所者の排便リズムを把握し、個別的な排便支援を実施することで、便秘解消、苦痛軽減、QOLの向上につなげる。
【方法】
1)排便日誌を活用して排便状況を記録し、把握する。
2)便秘傾向のある入所者の排便支援計画を作成し、評価する。
本研究の報告にあたり、利用者とその家族の権利と個人情報の保護に十分配慮し、研究倫理に基づいて実施した。
【事例】
事例1.A氏90代女性。要介護度4。認知症日常生活自立度Ⅲb、日常生活自立度B2。逆流性食道炎の既往あり。座位保持は可能であるが、立位困難のため終日おむつ着用している。3日以上排便がないと嘔吐することが多く、おむつ内に排便があるとその不快感から弄便が見られた。嘔吐、弄便を減らすために、排便リズムを整えることを目標に支援を開始した。支援内容として、毎日昼に下剤を内服し、便秘3日目に座薬を使用。座位姿勢がとれることから、座薬使用後は車いすに移乗し座位を保持することで重力による排便を促した。便意を確認後、便座に座り排便姿勢をとれるよう介助した。その結果、ベッド上でパット交換を行っていた支援前と比べ、支援後は便秘3日目に座薬を使用して排便があり、便座に座ることで排便量も増え、支援前に見られていた嘔吐や弄便がなくなった。
事例2.B氏90代女性。要介護度3。認知症生活自立度Ⅳ、日常生活自立度A2。アテローム血栓性脳梗塞の後遺症で、言語障害、認知症あり。円背はあるが独歩可能。水分摂取量が少なく、食事以外の摂取量は1日200mlの時もあった。終日リハビリパンツにパットを着用し、定時にトイレ誘導していた。排便日誌では、便秘4日目以上を繰り返しており、便秘3日目以上で下剤や座薬を使用。座薬の挿入は羞恥心から拒否が強く、挿入後も床をずり這いする様子があった。また、自分でトイレに行く時もあるため排便の有無を確認する事が難しく、加えて、便意をうまく伝えられない事で介助のタイミングが掴めない事が課題として挙げられた。そこで、多職種(看護師・管理栄養士・理学療法士・介護福祉士)カンファレンスで情報を共有し、水分摂取を促し排便リズムを整える事を目標に挙げた。支援内容として、水分摂取量の把握をするために、管理栄養士から食事の水分量や体重換算からの1日の必要最低限の水分量を確認した。又、容器や本人の好む飲み物へ変更し、定期的に飲水を促した。その結果、食事以外を除く水分摂取量が支援前は1日200~500mlであったが、支援後は1日400~1000mlまでに増加した。それに伴い、支援前は便秘3~4日目以上を繰り返していたが、支援後、3日目以内での排便が増えたため、座薬を使用する頻度が減少した。次に、排便のタイミングを掴む手掛かりを見つけるため、排便時の様子を記録するよう職員間で統一した事で、排便時の行動として、ズボンをたくし上げる、ケアに対して拒否がある、落ち着きなくフロア内を移動する等がサインとして表れていることが分かった。サイン表出時、職員がパット確認や交換を行う事で、確実に排便のタイミングを捉えることが出来た。
【考察】
今回、排便日誌を活用し排便リズムを可視化することで、入所者ごとに異なる便秘要因に着目し、排便姿勢の確保、水分摂取量の増加という個別支援を実施することが出来た。「記録を取りながら、アプローチを重ねていくと自然に問題点が見え今までのやり方を変えていくことに繋がるのです」₁₎と神山は述べている。排便姿勢を整えることで、排便を促しやすい環境を作り出すことができ、嘔吐や弄便といった症状の改善が見られ、入所者のQOL向上に繋がったと考えられる。又、水分摂取量の増加により排便間隔の改善し、個別に応じた支援の有効性が示唆された。入所者の多様なサインを統合しながら判断する為には、各職種の専門性を活かし協働することが重要であると再認識した。
【まとめ】
排便日誌を活用することで排便状況を把握し、個別的支援を行うことができた。今回の結果から高齢者の便秘に対してはルーティン化された排便管理ではなく、入所者ごとの便秘要因をアセスメントし、多職種連携の中で個別性のある支援に繋げる必要があると分かった。今後も排便日誌を活用した個別的排便支援を実施し、便秘解消、苦痛軽減、QOLの向上にむけ、職員全体で取り組んでいきたい。
【参考文献】
1)石井洋一:「便を見る力」,株式会社イースト・プレス,p124‐180,(2024).
【引用参考文献】
(1)神山剛一:「排泄ケアナビ」,(2008),https://www.carenavi.jp/ja/jissen/ben_care/control/control07_1.html
高齢者は加齢に伴う腸蠕動運動の低下に加え、活動量、水分摂取量、食事摂取量、基礎疾患、内服の作用・副作用などの影響を受けやすく、自然排便の維持が困難である。福井勝井山総合病院附属介護老人保健施設(以下:当施設)では入所者を対象に、排便コントロールの手段として便秘3日目以上で下剤や座薬を使用している。しかし、下剤や座薬を使用するルーティン化された排便管理では、個々の排便リズムや身体状況に応じた支援が十分でないと考えられる。そこで、座薬や下剤に過度に依存しない排便コントロールをするために、令和6年8月より利用者の排便頻度の集計(以下:排便日誌とする)を開始した。排便状況の把握を行うとともに、多職種で連携して入所者の生活状況や身体状況に応じた支援を行った結果を報告する。
【目的】
排便日誌を用いて入所者の排便リズムを把握し、個別的な排便支援を実施することで、便秘解消、苦痛軽減、QOLの向上につなげる。
【方法】
1)排便日誌を活用して排便状況を記録し、把握する。
2)便秘傾向のある入所者の排便支援計画を作成し、評価する。
本研究の報告にあたり、利用者とその家族の権利と個人情報の保護に十分配慮し、研究倫理に基づいて実施した。
【事例】
事例1.A氏90代女性。要介護度4。認知症日常生活自立度Ⅲb、日常生活自立度B2。逆流性食道炎の既往あり。座位保持は可能であるが、立位困難のため終日おむつ着用している。3日以上排便がないと嘔吐することが多く、おむつ内に排便があるとその不快感から弄便が見られた。嘔吐、弄便を減らすために、排便リズムを整えることを目標に支援を開始した。支援内容として、毎日昼に下剤を内服し、便秘3日目に座薬を使用。座位姿勢がとれることから、座薬使用後は車いすに移乗し座位を保持することで重力による排便を促した。便意を確認後、便座に座り排便姿勢をとれるよう介助した。その結果、ベッド上でパット交換を行っていた支援前と比べ、支援後は便秘3日目に座薬を使用して排便があり、便座に座ることで排便量も増え、支援前に見られていた嘔吐や弄便がなくなった。
事例2.B氏90代女性。要介護度3。認知症生活自立度Ⅳ、日常生活自立度A2。アテローム血栓性脳梗塞の後遺症で、言語障害、認知症あり。円背はあるが独歩可能。水分摂取量が少なく、食事以外の摂取量は1日200mlの時もあった。終日リハビリパンツにパットを着用し、定時にトイレ誘導していた。排便日誌では、便秘4日目以上を繰り返しており、便秘3日目以上で下剤や座薬を使用。座薬の挿入は羞恥心から拒否が強く、挿入後も床をずり這いする様子があった。また、自分でトイレに行く時もあるため排便の有無を確認する事が難しく、加えて、便意をうまく伝えられない事で介助のタイミングが掴めない事が課題として挙げられた。そこで、多職種(看護師・管理栄養士・理学療法士・介護福祉士)カンファレンスで情報を共有し、水分摂取を促し排便リズムを整える事を目標に挙げた。支援内容として、水分摂取量の把握をするために、管理栄養士から食事の水分量や体重換算からの1日の必要最低限の水分量を確認した。又、容器や本人の好む飲み物へ変更し、定期的に飲水を促した。その結果、食事以外を除く水分摂取量が支援前は1日200~500mlであったが、支援後は1日400~1000mlまでに増加した。それに伴い、支援前は便秘3~4日目以上を繰り返していたが、支援後、3日目以内での排便が増えたため、座薬を使用する頻度が減少した。次に、排便のタイミングを掴む手掛かりを見つけるため、排便時の様子を記録するよう職員間で統一した事で、排便時の行動として、ズボンをたくし上げる、ケアに対して拒否がある、落ち着きなくフロア内を移動する等がサインとして表れていることが分かった。サイン表出時、職員がパット確認や交換を行う事で、確実に排便のタイミングを捉えることが出来た。
【考察】
今回、排便日誌を活用し排便リズムを可視化することで、入所者ごとに異なる便秘要因に着目し、排便姿勢の確保、水分摂取量の増加という個別支援を実施することが出来た。「記録を取りながら、アプローチを重ねていくと自然に問題点が見え今までのやり方を変えていくことに繋がるのです」₁₎と神山は述べている。排便姿勢を整えることで、排便を促しやすい環境を作り出すことができ、嘔吐や弄便といった症状の改善が見られ、入所者のQOL向上に繋がったと考えられる。又、水分摂取量の増加により排便間隔の改善し、個別に応じた支援の有効性が示唆された。入所者の多様なサインを統合しながら判断する為には、各職種の専門性を活かし協働することが重要であると再認識した。
【まとめ】
排便日誌を活用することで排便状況を把握し、個別的支援を行うことができた。今回の結果から高齢者の便秘に対してはルーティン化された排便管理ではなく、入所者ごとの便秘要因をアセスメントし、多職種連携の中で個別性のある支援に繋げる必要があると分かった。今後も排便日誌を活用した個別的排便支援を実施し、便秘解消、苦痛軽減、QOLの向上にむけ、職員全体で取り組んでいきたい。
【参考文献】
1)石井洋一:「便を見る力」,株式会社イースト・プレス,p124‐180,(2024).
【引用参考文献】
(1)神山剛一:「排泄ケアナビ」,(2008),https://www.carenavi.jp/ja/jissen/ben_care/control/control07_1.html
