講演情報
[22-O-L004-03]短腸症候群を有する超高齢者への活動・参加支援終末期まで希望に寄り添った訪問リハビリの一例
*前田 康介、黒岩 祐太 (香川県 三豊総合病院企業団介護老人保健施設わたつみ苑)
背景
地域包括ケアシステムの構築が進められる中,高齢化に伴い住み慣れた地域や自宅で療養する高齢者が増加しており,本人の意思や希望に沿った在宅療養を支えるためには,医師・看護師・介護職・リハビリ専門職等が連携した継続的な支援が重要となっている.訪問リハビリテーション(以下訪問リハビリ)は身体機能の維持・改善のみならず,利用者が望む活動や社会参加を支援する役割が求められている.今回,短腸症候群を有する超高齢利用者に対し,多職種連携のもと活動・参加支援を行った事例を経験したため報告する.
事例紹介
90歳代男性,要介護5.妻と二人暮らしで敷地内に長男家族あり.幼少期の右股関節疾患に起因する左股関節の可動域制限・下肢短縮による脚長差があり,歩行障害も認めていた.屋内は杖歩行で屋外や長距離の移動は車椅子での生活であった.身体障害者2級も取得していた.若い時は地域の行事や自治会長を務めるなど精力的に地域貢献を行っていた.また,自宅の庭で植物栽培・鑑賞を趣味としていた.
X-3ヶ月に上腸間膜動脈閉塞症にて救急搬送され,小腸の大部分と上行結腸に壊死が認め,緊急切除を行った.小腸はトライツ靱帯から約30cmまでと回腸60cmのみの温存となり,短腸症候群となった.その2日後に2回目の手術にて温存となった部位にも色調不良があったため,追加での切除と空腸にて人工肛門を造設した.経口摂取困難のため中心静脈栄養管理となり,自己での排尿も困難となりバルーンカテーテル留置となった.X-1ヶ月に自宅退院となり,退院にあたり,経口摂取が困難で中心静脈栄養のみの管理となることから,予後不良である旨が医師より説明された.
介入内容・経過
「屋内を自分で移動したい」との希望でX月より訪問リハビリ開始.介入当初の車椅子移乗動作は軽度から中等度介助レベル,歩行動作は歩行器にて介助下で30m程度可能な状態であった.関節可動域訓練,下肢筋力訓練,車椅子移乗・駆動,歩行器歩行訓練等を,体力消耗や感染リスクを考慮し強度調整しながら実施した.本人や家族から「桜を見たい」「祭りに参加したい」との希望が聞かれ,身体機能維持に加え活動・参加支援を目標とした.
情報共有には多職種連携ツールMedicalCare STATION(以下MCS)を活用し,医師・訪問看護師・介護支援専門員等と状態や処置・支援内容を共有,緊急時は訪問看護ステーションと直接連絡した.
訪問開始直後,移乗動作時や車椅子での移動時におけるバルーンカテーテルやストーマ袋,点滴ルートの管理方法を家族に指導し,自宅近隣の公園で家族とともに花見を実現できた.花見後,ご家族や利用者本人の表情も明るく喜びの声が聞かれた.以降も窓越しに庭の植物を眺めることを楽しみにリハビリを継続された.中心静脈栄養刺入部の感染によりX+2ヶ月・5ヶ月の2度にわたりに入退院を繰り返し身体機能は徐々に低下し,歩行困難となっていった.しかし,本人の意欲と家族の援助,継続したリハビリにより車椅子への移乗を継続することができた.その結果,終末期に近づいていく中でも家族・訪問看護師の協力のもとX+7ヶ月には車椅子で地域の祭りに参加でき,近所の人との再会や孫の帰省と合わせて大変喜ばれた.その後,身体機能はさらに低下し,バイタル急変時の電話連絡やMCSを使用した多職種での情報共有が頻回に行われるようになった.X+9ヶ月に再度感染で入院,退院後は車椅子移乗も困難となる場面が増え,身体機能の低下や活気・活動性の低下が進行し,終末期が近いことが多職種間で共有された.X+11ヶ月,心不全により入院し永眠された.
考察
本事例は,残存小腸が極めて短く,中心静脈栄養・人工肛門・尿道留置カテーテルによる医療的管理を要する超高齢者に,終末期に至るまで訪問リハビリが介入した事例である.短腸症候群を有する高齢者は吸収障害により低栄養や易感染性を呈しやすく,本事例でも感染による入退院を繰り返しながら身体機能が進行性に低下した.訪問リハビリは心身機能の維持・改善とともに,利用者が望む活動・社会参加の支援が求められており,本事例でも身体機能維持に加え「桜を見たい」「祭りに参加したい」という利用者本人の希望を目標に据え,活動・参加支援を行うことができた.
訪問リハビリにおける活動・参加支援に関する報告では,利用者の趣味や経験を引き出しながら実現可能な方法を共に模索し,段階的な目標設定で動機づけを行うことの重要性が示されている.本事例においても,花見の実現にあたり,移乗動作や医療機器類の管理方法を家族に指導し,外出に伴うリスクを最小化したうえで希望の実現を図った.この過程は,身体機能の維持・改善のみを目的とするのではなく,利用者が望む生活の継続を支えるという終末期リハビリテーションの本質的な役割を反映していると考えられる.
多職種連携ではMCSを活用したが,先行研究ではICTツールは正確な情報共有が可能な一方,能動的に確認する必要があるため緊急時対応には限界があるとされる.本事例でも急変時は電話連絡,平時はMCSという使い分けがなされ,この知見と合致した.医療的管理が複雑な事例ほど状態変化の予測が難しく,迅速な対応を要する場面が多いことから,リアルタイム性の高いICTツールと電話連絡を状況に応じて併用することの有用性が示唆された.
本事例のように医療的管理が複雑かつ生命予後が限られた利用者において,身体機能の低下が避けられない中でも,多職種が利用者の希望を共有し継続的に連携することで,在宅における活動・参加支援が可能となることが示唆された.今後は,同様の医療依存度の高い高齢者に対する訪問リハビリの役割について,事例の蓄積による検討が必要であると考える.
倫理的配慮
なお,本報告はご家族の同意を得て実施した.
地域包括ケアシステムの構築が進められる中,高齢化に伴い住み慣れた地域や自宅で療養する高齢者が増加しており,本人の意思や希望に沿った在宅療養を支えるためには,医師・看護師・介護職・リハビリ専門職等が連携した継続的な支援が重要となっている.訪問リハビリテーション(以下訪問リハビリ)は身体機能の維持・改善のみならず,利用者が望む活動や社会参加を支援する役割が求められている.今回,短腸症候群を有する超高齢利用者に対し,多職種連携のもと活動・参加支援を行った事例を経験したため報告する.
事例紹介
90歳代男性,要介護5.妻と二人暮らしで敷地内に長男家族あり.幼少期の右股関節疾患に起因する左股関節の可動域制限・下肢短縮による脚長差があり,歩行障害も認めていた.屋内は杖歩行で屋外や長距離の移動は車椅子での生活であった.身体障害者2級も取得していた.若い時は地域の行事や自治会長を務めるなど精力的に地域貢献を行っていた.また,自宅の庭で植物栽培・鑑賞を趣味としていた.
X-3ヶ月に上腸間膜動脈閉塞症にて救急搬送され,小腸の大部分と上行結腸に壊死が認め,緊急切除を行った.小腸はトライツ靱帯から約30cmまでと回腸60cmのみの温存となり,短腸症候群となった.その2日後に2回目の手術にて温存となった部位にも色調不良があったため,追加での切除と空腸にて人工肛門を造設した.経口摂取困難のため中心静脈栄養管理となり,自己での排尿も困難となりバルーンカテーテル留置となった.X-1ヶ月に自宅退院となり,退院にあたり,経口摂取が困難で中心静脈栄養のみの管理となることから,予後不良である旨が医師より説明された.
介入内容・経過
「屋内を自分で移動したい」との希望でX月より訪問リハビリ開始.介入当初の車椅子移乗動作は軽度から中等度介助レベル,歩行動作は歩行器にて介助下で30m程度可能な状態であった.関節可動域訓練,下肢筋力訓練,車椅子移乗・駆動,歩行器歩行訓練等を,体力消耗や感染リスクを考慮し強度調整しながら実施した.本人や家族から「桜を見たい」「祭りに参加したい」との希望が聞かれ,身体機能維持に加え活動・参加支援を目標とした.
情報共有には多職種連携ツールMedicalCare STATION(以下MCS)を活用し,医師・訪問看護師・介護支援専門員等と状態や処置・支援内容を共有,緊急時は訪問看護ステーションと直接連絡した.
訪問開始直後,移乗動作時や車椅子での移動時におけるバルーンカテーテルやストーマ袋,点滴ルートの管理方法を家族に指導し,自宅近隣の公園で家族とともに花見を実現できた.花見後,ご家族や利用者本人の表情も明るく喜びの声が聞かれた.以降も窓越しに庭の植物を眺めることを楽しみにリハビリを継続された.中心静脈栄養刺入部の感染によりX+2ヶ月・5ヶ月の2度にわたりに入退院を繰り返し身体機能は徐々に低下し,歩行困難となっていった.しかし,本人の意欲と家族の援助,継続したリハビリにより車椅子への移乗を継続することができた.その結果,終末期に近づいていく中でも家族・訪問看護師の協力のもとX+7ヶ月には車椅子で地域の祭りに参加でき,近所の人との再会や孫の帰省と合わせて大変喜ばれた.その後,身体機能はさらに低下し,バイタル急変時の電話連絡やMCSを使用した多職種での情報共有が頻回に行われるようになった.X+9ヶ月に再度感染で入院,退院後は車椅子移乗も困難となる場面が増え,身体機能の低下や活気・活動性の低下が進行し,終末期が近いことが多職種間で共有された.X+11ヶ月,心不全により入院し永眠された.
考察
本事例は,残存小腸が極めて短く,中心静脈栄養・人工肛門・尿道留置カテーテルによる医療的管理を要する超高齢者に,終末期に至るまで訪問リハビリが介入した事例である.短腸症候群を有する高齢者は吸収障害により低栄養や易感染性を呈しやすく,本事例でも感染による入退院を繰り返しながら身体機能が進行性に低下した.訪問リハビリは心身機能の維持・改善とともに,利用者が望む活動・社会参加の支援が求められており,本事例でも身体機能維持に加え「桜を見たい」「祭りに参加したい」という利用者本人の希望を目標に据え,活動・参加支援を行うことができた.
訪問リハビリにおける活動・参加支援に関する報告では,利用者の趣味や経験を引き出しながら実現可能な方法を共に模索し,段階的な目標設定で動機づけを行うことの重要性が示されている.本事例においても,花見の実現にあたり,移乗動作や医療機器類の管理方法を家族に指導し,外出に伴うリスクを最小化したうえで希望の実現を図った.この過程は,身体機能の維持・改善のみを目的とするのではなく,利用者が望む生活の継続を支えるという終末期リハビリテーションの本質的な役割を反映していると考えられる.
多職種連携ではMCSを活用したが,先行研究ではICTツールは正確な情報共有が可能な一方,能動的に確認する必要があるため緊急時対応には限界があるとされる.本事例でも急変時は電話連絡,平時はMCSという使い分けがなされ,この知見と合致した.医療的管理が複雑な事例ほど状態変化の予測が難しく,迅速な対応を要する場面が多いことから,リアルタイム性の高いICTツールと電話連絡を状況に応じて併用することの有用性が示唆された.
本事例のように医療的管理が複雑かつ生命予後が限られた利用者において,身体機能の低下が避けられない中でも,多職種が利用者の希望を共有し継続的に連携することで,在宅における活動・参加支援が可能となることが示唆された.今後は,同様の医療依存度の高い高齢者に対する訪問リハビリの役割について,事例の蓄積による検討が必要であると考える.
倫理的配慮
なお,本報告はご家族の同意を得て実施した.
