講演情報

[22-O-D001-03]BPSD軽減に向けた作業療法評価と多職種協働

*谷口 知之、露口 咲瑛、西野 香奈、上村 雅弘、高尾 耕平、小出 純子 (大阪府 大阪緑ヶ丘)
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【はじめに】
認知症の症状は、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害などの中核症状と、行動・心理症状であるBPSDに大別される。BPSDは、中核症状に加え、身体状態、心理状態、人的・物的環境、生活歴などが影響して出現するとされ、環境調整や関わり方の工夫により軽減が期待できる。 
今回、認知症に伴うBPSDとして、10分に1回程度の頻度でスタッフを呼び止め、不安や身体的不快、要望などを反復して訴える症例を経験した。これによりスタッフの対応負担が増加し、業務の中断が生じていた。本症例に対し、作業療法士が認知機能、生活歴、興味関心、作業遂行能力を評価し、認知症棟スタッフと協働して環境調整および活動提供を行った。その結果、早期に頻回な呼び止め・反復的な訴えが軽減したため、ここに報告する。
【症例紹介】 
症例は80歳代女性、要介護1。主疾患はアルツハイマー型認知症、慢性心不全である。既往歴として、40歳代に心臓弁膜症、60歳代に大腸癌、2型糖尿病、70歳代に僧帽弁置換術、心房細動、心房粗動、骨盤骨折がみられた。家族背景として、夫とは7年前に死別し、その後は独居で生活していた。生活歴として、結婚後は喫茶店や宝塚歌劇団のホールで勤務し、子育て後は専業主婦として過ごされていた。また、人付き合いを好み、過去には猫を飼育していたとの情報を得た。
80歳代に心不全増悪の診断で入院し、加療により心不全の状態は改善した。しかし、認知機能の低下により在宅復帰は困難と判断され、当施設へ入所となった。入所当初は一般棟で生活していたが、BPSDの増悪に伴い、認知症棟へ転棟となった。なお、当施設の認知症棟は30床であり、日中は1階デイルームで利用者が過ごす環境となっている。
【評価・課題分析】 
日中はデイルーム内の1人席で過ごしていた。1人席はスタッフが関わりやすい一方で、他者との交流が少なく、孤独感や不安感が高まりやすい環境であると考えられた。 
本症例は日中、「ちょっと」「早く」「トイレに連れていって」など、スタッフを呼び止め、不安や身体的不快、要望を反復して訴える様子が10分に1回程度みられた。その都度スタッフの対応が必要となり、対応負担の増加や業務の中断が生じていた。 
本症例の頻回な呼び止めや反復的な訴えは、認知症の中核症状である記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下を背景に、不安や混乱、孤独感、欲求表出の困難が重なって生じたBPSDであると考えた。なお、介入前の改訂長谷川式簡易知能評価スケールは8点、バーセルインデックスは5点であった。
【介入方法】 
まず、孤独感や不安感の軽減を目的に、日中の座席を1人席から4人席へ変更した。これは、本症例が発症前より人付き合いを好んでいたという生活歴を踏まえた環境調整であった。 
次に、不安の軽減と集中して取り組める活動の獲得を目的に、塗り絵活動を導入した。過去に猫を飼育していたこと、猫の絵に興味を示したことから、猫の塗り絵を提供した。当初は色鉛筆やクレヨンを使用したが、筆圧が弱く十分に着色できず、活動の継続が困難であった。そこで作業工程を分析し、弱い筆圧でも着色しやすいカラーペンへ道具を変更した。また、作業療法の時間に付き添いながら塗り絵を実施し、成功体験を得られるよう支援した。そして、徐々に作業療法の時間以外にも実施するように働きかけた。 
さらに、評価結果、介入の意図、関わり方の工夫を看護師・介護職と共有し、スタッフ間で対応を統一した。これらの介入を3週間実施し、介入前後の効果判定には、認知症の行動・心理症状質問票(以下、BPSD25Q)を用いた。
【結果】
介入前のBPSD25Qは、重症度合計18点、負担度合計18点であった。項目別では、「繰り返し質問」5点、「不安」5点であり、他の項目よりも高値を示していた。介入後のBPSD25Qは、重症度合計14点、負担度合計14点、「繰り返し質問」3点、「不安」3点となり、介入前と比べ改善がみられた。また、介入前は10分に1回程度みられていたスタッフへの呼び止めが、介入後には30~60分に1回程度へ減少した。塗り絵に集中して取り組む時間も増加し、穏やかに過ごす場面もみられるようになった。スタッフからも、対応負担や業務中断が軽減したとの意見が聞かれた。
【考察】 
今回、作業療法士として、認知機能やADLのみでなく、生活歴、興味関心、残存能力、作業遂行上の困難さを評価した。その結果、本症例の頻回な呼び止めや反復的な訴えは、単なる要求行動ではなく、記憶障害や見当識障害、理解・判断力の低下といった中核症状を背景に、不安、孤独感、身体的不快、欲求表出の困難が重なって生じたBPSDであると考えられた。この評価に基づき、孤独感や不安感の軽減を目的とした座席変更と、興味関心や残存能力を活かした塗り絵活動を実施した。さらに、筆圧の弱さに対して道具をカラーペンへ変更するなど、作業工程を分析し、本人が取り組みやすい方法を工夫した。これにより、安心して過ごせる環境と集中して取り組める活動が得られ、BPSDの軽減につながった可能性がある。
BPSDへの対応においては、言動を単に抑制するのではなく、その言動の背景を評価し、本人らしい活動を生活場面に組み込むことが重要である。本症例を通して、認知症棟における作業療法士の評価、環境調整、作業活動の工程分析、多職種への情報共有が、BPSDの軽減に寄与する可能性が示唆された。
【倫理的配慮】
症例およびご家族に対し、発表の趣旨と内容を口頭と書面で説明し、同意を得た。