講演情報

[22-O-J002-02]老健における経口移行加算の実践経管栄養利用者23名の検討

*岩水 章彦、井澤 育美、吉田 有希 (鳥取県 介護老人保健施設 仁風荘)
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【目的】
介護老人保健施設(以下、老健)では、経管栄養利用者に対する経口摂取への移行支援が重要な役割の一つである。しかし、重度要介護者や認知症高齢者が多く、経口移行加算の算定に至る症例は限られる。当施設では、多職種による継続的な評価と再評価を行い、経口移行支援に取り組んできた。本研究では、経口摂取を検討した症例を後方視的に調査し、経口移行加算につながった要因と老健における経口移行支援の意義について検討した。
【方法】
対象は令和X年4月から令和X+1年3月までに当施設へ新規入所した経管栄養利用者23名(胃ろう19名、経鼻経管栄養4名、平均要介護度4.65)とした。このうち経口摂取の可能性を検討した10名を対象に、疾患背景、経管栄養導入理由、認知機能、身体機能、**嚥下造影検査(以下、VF)**所見、経過等について診療録より後方視的に調査した。
当施設は100床の老健であり、認知症専門棟40床、従来型16床、ユニット型44床を有する。医師、言語聴覚士、管理栄養士、歯科衛生士等による経口維持・移行加算会議を月1回実施し、毎週ミールラウンドを行った。経口摂取の検討にあたっては、嚥下機能のみならず、意識状態、呼吸状態、認知機能、食事への意欲、本人・家族の希望を含めて総合的に評価した。また、経口移行加算を算定した5名の家族を対象に、経口摂取再開に対する意識についてアンケートを実施した。
【倫理的配慮】
本研究の目的および個人情報保護について家族に口頭・文章で説明し、同意を得た。
【結果】
23名のうち経口摂取を検討した症例は10名(43.5%)であった。このうち5名(21.7%)に経口移行加算を算定し、3名が完全経口移行、2名が部分経口移行となった。また、1名は一時的な胃ろう使用後、約2週間で完全経口摂取へ移行したため経口移行加算の対象とはならなかった。
完全経口移行した3例のうち、1例は誤嚥性肺炎を繰り返し胃ろう造設後、一度経口摂取を断念したが、精神状態および口腔内環境の改善後に再挑戦し成功した。1例は誤嚥性肺炎を繰り返し、急性期病院で経口摂取困難と判断され胃ろう造設となった重度認知症例であり、VFによる評価と摂取後の吸引、自己喀出の促しを継続した結果、約4か月半で3食経口摂取へ移行した。もう1例はくも膜下出血後の水頭症に対するシャント術後、覚醒状態の改善に伴い約3週間で常食による3食経口摂取へ移行した。
部分経口移行の2例はいずれも精神疾患やうつ症状を有しており、嚥下機能は比較的保たれていたが、摂取意欲の低下により経管栄養の併用を要した。
経口移行加算算定に至らなかった4例では、アルツハイマー病およびパーキンソン病の進行、誤嚥と嘔吐による転院、心因性要因による摂食困難、認知機能低下に伴う食思不良等が主な要因であった。
経口移行加算を算定した5名の家族へのアンケートでは、「可能であれば口から食べてほしい」と希望していた家族が多く、経口摂取再開後は全員が「とても良かった」と回答した。また、「会話が増えた」「安心して任せられた」などの意見が聞かれた。
【考察】
経口摂取を検討した10名のうち5名に経口移行加算を算定し、さらに1名は短期間で完全経口摂取へ移行した。経口移行が可能となった症例には、誤嚥性肺炎既往例や重度認知症例も含まれていた。一方、移行困難例では認知症やパーキンソン病の進行、心因性要因、食事への意欲低下などが大きく影響していた。
今回の結果から、経口移行の成否は嚥下機能のみでは説明できず、覚醒状態、認知機能、精神状態、食事への意欲など摂食行動全体を評価する必要があると考えられた。また、一度経口摂取を断念した後に再挑戦して成功した症例や、急性期病院で経口摂取困難と判断された後に経口移行した症例を経験したことから、老健における継続的な観察と再評価の重要性が示された。
さらに、経口移行加算を算定した5名の家族へのアンケートでは、全員が経口摂取再開を肯定的に評価していた。経口移行支援は利用者本人のQOL向上のみならず、家族の安心感や満足感にも寄与する可能性が示唆された。
【結論】
経口移行支援においては、嚥下機能のみならず、認知機能や精神状態、食事への意欲、本人・家族の希望を含めた包括的評価が重要である。適切な対象者の選定と、多職種による継続的な評価・再評価を行うことで、経口移行加算につながる可能性があることが示唆された。