講演情報

[22-O-D003-01]不穏になる時間帯に着目した認知症高齢者へのケア24時間生活変化シートを用いた1事例

*日中 有美 (広島県 介護老人保健施設三滝ひまわり)
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【はじめに】
認知症高齢者のBPSDは、本人の生活の質の低下だけでなく、介護負担の増大や施設環境にも大きな影響を及ぼす。そのためBPSDへの対応においては、症状そのものへの対処だけでなく、本人の生活歴や価値観、置かれている環境を理解し、その背景要因を把握することが重要とされている。
当施設においても、大声による繰り返しの訴えや不穏行動がみられる利用者への対応に苦慮していた。そこで今回、センター方式24時間生活変化シートを用いて生活状況やBPSD出現パターンを分析するとともに、ナラティブシートを活用して本人理解を深めた。得られた情報を基に定時介入を実施した結果、BPSDの軽減が認められたため報告する。

【事例紹介】
対象はA氏、80代女性。診断名はアルツハイマー型認知症、要介護4、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅳ、障害高齢者の日常生活自立度B2、HDS-R3点であった。当施設入所前から薬による調整は困難と精神科から言われており、薬剤は眠剤を使用していたが、この調査中には変更はなかった。
自身の思いや不安を適切に伝えることが難しく、「先生」「帰りたい」「死にたい」などと大声で繰り返し訴える様子がみられた。その声に反応して周囲の利用者が怒鳴ったり強い口調で注意したりすることもあり、さらに興奮が強まる悪循環が生じていた。ナラティブシートからわかったことは、「貴金属小売店を経営していた。人と話すことが好きで、仕事を生きがいとしており、また古物や食器の収集、手芸を趣味としていた。デパートによく出かけ、甘いものを好んでいた。」ということだった。

【方法】
第1段階:実態把握
24時間生活変化シートを用いて、不穏の出現時間、持続時間、発言内容、状況をチームで記録した。併せてナラティブシートによる生活歴の収集と、BPSD+Qによる状態評価を実施した。
記録を分析した結果、不穏は10時・16時の食事前後および長時間座位時に集中していた。
第2段階:定時介入
分析結果に基づき定時対応表を作成した。毎日10時・16時に、不穏の有無にかかわらず職員が積極的に関わる取り組みを開始した。
介入内容は、水分補給、トイレ誘導、テレビの視聴、傾聴、おやつの提供、体へのオイラックス塗布の6項目とし、その都度対応内容と結果を記録した。また、長時間座位を避けるため、毎日食後30分の臥床時間を設けた。

【結果】
介入前の日中の不穏出現は1日平均2回(最大6回)であった。発言内容は「先生」「帰りたい」「死にたい」に加え、「痒い」「寒い」「寂しい」がみられた。不穏の持続時間は1~1.5時間に及ぶこともあった。
介入1か月後には、不穏出現は1日平均1回(最少0回、最大2回)に減少した。また、不穏の主な出現時間は10時・16時から11時頃へ移行した。興奮の程度は軽減し、穏やかな表情や笑顔が増加した。
介入2か月後には、他利用者と4人席で過ごすことが可能となった。
BPSD+Qスコアは介入前:48点、介入1か月後:37点であった。

【考察】
認知症の漸進的ストレス閾値(PLST)概念モデルでは、認知症の人は、病気の進行に伴ってストレス耐性が低下しており、BPSDはその限界を超えた時に起こる適応反応であると考えられている。A氏の不穏は、空腹や長時間同じ姿勢で過ごすことによる身体的不快感、周囲との関わりの少なさなどが積み重なり、心身の余裕が少なくなった時に強く出現していた可能性が考えられた。自身の不快や不安を言語化できず、大声で「先生」「帰りたい」などの数語でしか表現できなくなっていたと思われる。
不穏が起こりやすい時間帯に不穏のあるなしにかかわらず職員が関わり、水分補給やトイレ誘導、テレビを視聴していただく、傾聴など身体的あるいは精神的な対応を行ったことで、不快感や不安が軽減し、時には不穏の予防につながった場合もあったと考えられた。
不穏時だけでなく穏やかな時から継続して関わりを持ったことは、職員に対する安心感や信頼関係の形成につながり、ストレスに耐性が上昇することで笑顔や穏やかに過ごす時間の増加につながった可能性がある。
また、不穏の出現時間が10時・16時から11時頃へ移行したことから、定時介入によって行動パターンそのものに変化が生じた可能性も示唆された。
パーソナルセンタードケアの考えを参考にしてナラティブシートの生活歴からは、A氏は人と関わることを大切にしていたことがうかがえ、「先生」「帰りたい」などの訴えの背景には、人とつながりたい気持ちや不安を誰かに受け止めてほしいという思いも含まれていた可能性が考えられた。
身体の不快やそれに伴う不安をできるだけ取り除き、さらに生活歴や本人の思いを理解し、それに応じた関わりを行うことの重要性を再認識した。

【結論】
24時間生活変化シートを用いて不穏が出現しやすい時間帯や状況を分析し、チームで統一した身体的、精神的な関わりを行ったことで、A氏の不穏の軽減と穏やかに過ごせる時間の増加につながった。
認知症のBPSDに対しては、行動の背景にある身体的不快や心理的要因、生活歴を理解し、個別性に応じた関わりを継続することが重要であると考えられた。