講演情報

[22-O-L005-01]転ばない生活が本当に幸せかWell-being

*原 一成 (神奈川県 介護老人保健施設リハリゾートわかたけ)
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【はじめに】
近年、WHOを中心にWell-beingの概念が注目されている。Well-beingとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態の中で、自らの人生に価値や満足を感じながら生活できる状態とされている。訪問リハビリテーションでは、転倒予防や身体機能、ADL能力の維持・改善に焦点が当たりやすい。一方、地域生活における活動や参加を支えるIADLへの直接的な介入は比較的少ない傾向にある。そのため、利用者にとって意味のある活動への参加支援がWell-beingに及ぼす影響について検討することは重要である。
本研究では、利用者と主介護者のIADL能力および介護負担に対する認識の差異を評価し、介入対象を選定した。選定した症例に対し、買い物活動への介入を通してWell-beingの変化を検討したため報告する。

【方法】
当事業所の訪問リハビリテーション利用者10名および主介護者10名を対象に、手段的日常生活活動尺度(Lawton IADL尺度)およびJ-ZBI-8を実施した。J-ZBI-8は主介護者に加え、利用者本人にも「介護者がどの程度介護負担を感じていると思うか」という観点で回答を求め、両者の認識の差異を比較した。IADL能力、介護負担に対する認識の差異に加え、活動機会や生活状況を総合的に評価し症例を選定した。
対象は脳出血後遺症を有する60歳代女性である。手段的日常生活活動尺度は本人1点、主介護者0点、J-ZBI-8は本人19点、主介護者28点であり、IADL能力および介護負担に対する認識の差異を認めた。また、主介護者のJ-ZBI-8得点は対象者の中でも高値を示していた。ADLはBarthel Index50点であり、発症後約10年間にわたり訪問リハビリテーションを継続利用していたことから、身体機能および生活状況の長期的な経過を把握できていた。
身体機能評価ではbr/unnstrom stage III-III-III、MMSE23点、TUG2分30秒であった。注意機能評価ではTMT-A7分55秒を要し、TMT-Bは理解困難により実施できなかった。身体機能面および注意機能面から転倒リスクは高い状態であった。対象者は受傷後約10年間、「夏ならアイス、冬ならおでんを買いに行きたい」と繰り返し希望を表出していた。一方で、買い物は主介護者が担っており、本人が商品を選択し購入する機会は失われていた。長期経過の中で生活範囲や役割が固定化している状況が認められたため、本人にとって意味のある活動であった買い物に着目した。
介入目標を「車椅子歩行でコンビニで買い物を行うこと」と設定し、実際の買い物場面において商品の選択、会計を本人主体で実施できるよう支援した。評価にはWHO-5を用い、介入前後で比較した。

【結果】
利用者本人と主介護者との間で、IADL能力および介護負担に対する認識の差異を認めた。
対象者は車椅子歩行でコンビニまで行き、自ら商品の選択および会計を行うことができた。また、自身の買い物に加え、夫への土産としてアメリカンドッグを購入した。
WHO-5は介入前9点から介入後18点へ改善した。TUGは2分30秒から1分57秒へ改善した。一方、MMSEは22点から20点、注意機能評価では TMT-A7分26秒を要し、TMT-Bは理解困難と著明な変化を認めなかった。
また、買い物後に「また行きたい」との発言はみられなかったが、次回訪問時には車椅子、帽子、財布を準備して待っている様子が確認された。さらに、デイサービス利用者に対して買い物経験を自ら話していた。

【考察】
本症例は身体機能面および注意機能面から転倒リスクが高く、転倒予防のみを重視するのであれば外出機会を制限する選択も考えられた。しかし、買い物は本人が約10年間希望していた意味のある活動であり、本人らしい生活を構成する重要な要素であった。
症例選定に際し、利用者本人と主介護者との間でIADL能力および介護負担に対する認識の差異を認めた。特に、本人が認識する介護負担よりも主介護者自身が感じる介護負担は大きく、長期間にわたり活動機会や役割が固定化した生活背景が影響していた可能性が考えられた。このような認識の差異を把握したことにより、本人にとって意味のある活動への介入が必要な症例として選定することができた。
今回、WHO-5の改善に加え、活動への期待を示唆する準備行動や他者への経験共有といった行動変化が認められた。また、TUGは改善した一方でMMSEやTMTに著明な変化は認めず、Well-beingの向上は身体機能や認知機能の改善のみでは説明できないと考えられた。
重要であったのは買い物という行為そのものではなく、「自分で選ぶ」「自分で購入する」という主体的な意思決定や役割遂行の機会を再獲得できた点である。また、夫へのアメリカンドッグ購入は、長期間支援を受ける立場であった対象者が自ら「与える側」の役割を選択した象徴的な行動であった。これは家族内での役割や自己の存在意義を再認識する契機となり、Well-beingを構成する主体性や役割遂行の実感につながった可能性が示唆された。さらに、車椅子や財布を準備して待っていた行動は活動への期待や自己効力感の高まりを示唆し、デイサービス利用者への報告は社会的交流の促進を示す行動変化であったと考えられた。

【結論】
訪問リハビリテーションにおいては、転倒予防などの安全性確保だけでなく、利用者と主介護者双方の認識を踏まえ、利用者にとって意味のある活動への参加を支援する視点が重要である。本症例では、買い物という意味のある活動への参加を実現したことで主体性や社会的交流を示唆する行動変化を認め、Well-beingの向上が示唆された。利用者の望む生活の実現を支援することは、Well-being向上につながる可能性がある。