講演情報

[22-P-L003-02]認知症カフェの作品制作への間接参加の取り組み介護老人保健施設入所者によるロバアート作成を通して

*関 優樹1、阿部 美咲1、山口 絵美1、本間 共生1 (栃木県 1. 介護老人保健施設マロニエ苑、2. 国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【背景】
 認知症高齢者の増加に伴い、認知症になっても住み慣れた地域で安心して暮らし続けることのできる地域づくりが求められている。その実現に向けては、本人や家族への支援だけでなく、地域住民や専門職が認知症について理解し、ともに支え合う地域共生社会の構築が重要である。認知症カフェは、認知症の人や家族、地域住民、医療・介護・福祉専門職など、誰もが自由に参加できる交流の場として全国で展開されている。認知症カフェには、交流や相談、情報提供だけでなく、認知症の人が社会とのつながりや役割を維持し、地域住民との相互理解を深める機能が期待されている。また、認知症の有無に関わらず、多様な人々が自然に集い、互いを尊重しながら交流することで、地域共生社会の実現に寄与する場としての役割を担っている。
 大学オレンジカフェは、認知症の人や家族、地域住民、学生、医療・福祉専門職が交流することを目的として2017年より継続して開催している。多世代交流や認知症理解の促進を図るとともに、地域住民とのつながりを育む実践の場となっている。一方、介護老人保健施設(以下、老健)入所者は、身体機能や認知機能の低下、移動手段、時間的制約などの理由から、地域で開催される認知症カフェへ直接参加することが容易ではない。そのため、地域との交流や社会参加の機会が限られやすく、施設内で生活する高齢者に対しても地域とのつながりを維持・促進する新たな方法が求められている。
【目的】
 大学オレンジカフェで実施しているアクティビティを老健施設内で展開し、入所者が作品制作を通して大学オレンジカフェへ間接的に参加する機会を創出することで、社会参加および地域とのつながりを促進する取り組みを実施したため報告する。
【方法】
 大学オレンジカフェでは毎回さまざまなアクティビティを実施している。その一つとして「ロバアート」を企画した。ロバアートは、大学オレンジカフェのマスコットであるロバの下絵に参加者が自由に色彩や模様を加え、それぞれの作品を一枚の大きな台紙へ貼り合わせて完成させる共同制作である。異なる色や模様のロバが一つの作品として集まることで、一人ひとりの個性や多様性を認め合い、多様な人々がともに暮らす認知症カフェの理念を表現している。
 今回、老健入所者を対象に作業活動としてロバの色付けを実施した。色彩やデザインは参加者が自由に決定し、作業療法士は対象者の身体機能や認知機能に応じて必要な支援を行った。完成した作品は大学オレンジカフェへ持ち込み、認知症カフェ参加者や学生、地域住民、大学関係者が制作した作品とともに一つの共同作品として展示した。
【結果】
 20名の入所者の協力を得て、22個のロバアートを制作した。完成した作品は大学オレンジカフェ会場に展示され、認知症カフェ参加者、地域住民、学生、大学関係者の作品とともに共同作品として完成した。施設内で制作された作品が地域住民や学生の作品と一体となることで、入所者も作品を介して大学オレンジカフェへ参加する機会を得ることができた。また、多様な参加者が制作した作品が一つの作品として完成することで、認知症カフェが目指す「多様性を認め合う地域」の理念を視覚的に表現することができた。
【考察】
 大学オレンジカフェで実施しているアクティビティを認知症カフェ会場以外で展開したのは今回が初めてであった。老健入所者が地域で開催される認知症カフェへ直接参加することは容易ではないが、作品制作という「作業」を介することで、認知症カフェの活動を共有し、地域とのつながりを感じる機会を創出できたと考えられる。
 作業療法では、「作業」は単なる活動ではなく、人と社会をつなぎ、その人らしい生活や役割を支える重要な手段である。本取り組みでは、ロバアートという共同制作を通じて、入所者一人ひとりの表現が地域住民や学生の作品と融合し、一つの作品を完成させた。この過程は、施設内で生活する高齢者が地域社会の一員として参画する機会となり、社会参加や役割の実感につながる可能性が示唆された。さらに、認知症カフェの活動を施設外へ持ち出すのではなく、施設内へ展開し、その成果を地域へ届けるという双方向の交流が実現できた点は、本取り組みの特徴である。認知症カフェは「集まる場」としてだけでなく、「活動を共有する場」としても活用できる可能性が示された。
 今後は、作品制作に参加した入所者の満足感や達成感、認知症カフェ参加者の受け止め方などについても評価し、作品を介した交流が社会参加や地域とのつながりに与える影響について検討を進めたい。また、大学オレンジカフェの活動の多様性をさらに広げるとともに、施設入所者と地域社会をつなぐ持続可能な交流モデルとして発展させていきたい。