講演情報
[22-O-L009-02]認知症症例の排泄困難に対して統一したケア対応の試み
*濱﨑 翔流 (鳥取県 介護老人保健施設 仁風荘)
Ⅰ.はじめに
認知症症状は発症前に培っていた能力や思考パターンに影響を受けることから、個人により行動パターンが異なるため、個別の対応が必要¹⁾である。今回、認知症に伴うコミュニケーション困難や見当識障害により、トイレ以外での排泄を繰り返す症例を担当した。そこで、行動を記録・検討し、対応方法を統一した結果、日常生活での関わりが増え排泄面での改善が見られたため、報告を行う。
Ⅱ.利用者紹介
80歳代男性。アルツハイマー型認知症、誤嚥性肺炎を2度発症している。在宅生活での生活パターンは職業柄朝早くから起床し早く寝る生活をされており、空いている時間は散歩をされていた。
Ⅲ.倫理的配慮
本研究の目的を家族へ説明し、個人情報保護について口頭と文書で説明し同意を得た。また、医療法人養和会研究倫理委員会の承認を得た。
Ⅳ.研究方法
X年Y月から4か月間行動観察表を作成し、当施設の電子カルテによる記録、リハビリ時の評価から本症例のデータを後方視的にて検討した。
Ⅴ.結果
1か月目:【状況】発話見られず声掛けに反応がないため意思疎通困難であり、発話は見られても痰が多く明瞭度が低い状態であった。トイレ誘導に拒否が多く、一人で施設内を歩き見当識低下のため自室内や他利用者の居室、廊下にて排泄を行う。日中は居室にて寝ている事が多く昼夜逆転傾向であった。【作業療法】HDS-R:3点、BPSD-Q:重症度30点、負担度34点、FIM:47点。歩行にふらつきあり、身障者トイレに誘導を行うと立って排泄を行う習慣があり転倒リスクが高い状態であった。排便の際は失行がみられズボンをおろす、座る場所への誘導に介助が必要な状態である。居室にポータブルトイレを設置したが使用されず、意思疎通困難のため行動・排泄パターンの観察を開始した。
2か月目:【状況】徐々に発話がみられ意思疎通を図る機会が向上した。日中の臥床時間が短くなり活動時間が向上する。【作業療法】発話の機会向上によりトイレへの要求を伝えられるようになる事、認知機能向上によりトイレの場所・排泄動作の理解を促すため回想法実施した。発語が多くみられるようになったが不明瞭の為内容を理解することは困難であった。行動観察の結果、トイレに行きたい時にズボンを触る、居室等場所がわからず一人歩きを行っていることが多いことが分かった。行動観察結果からカンファレンスを開催し対応方法を検討した。その結果、ズボンに触れている際は「トイレはこっちです」等声掛けを行い、トイレ誘導を実施した。居室や食堂から離れた位置にいる際は声掛け実施し、日中の食堂で過ごす時間は貼り絵やレクリエーションへの参加促進をスタッフ間で共有した。ポータブルトイレや居室に張り紙を設置し視覚的に認知できるよう環境を変更した。
3か月目以降:【状況】スタッフの声掛けや日中の活動量が増えたことにより生活リズムの改善が見られた。統一した声掛けによりレクリエーションへの参加回数も増え職員とのコミュニケーションが取れるようになった。発話明瞭度が向上しレクリエーションの際には「これは難しいな」「したくないわ」など意思表示を発話によってできるようになった。また、「トイレはどこ」「トイレに行きたい」等職員に対してトイレへの要求を伝えることができるようになった。【作業療法】HDS-R:4点、BPSD-Q:重症度11点、負担度8点、FIM:73点。張り紙のフォント、紙の色を変更し注意を向けやすいように変更を行った。また、居室・トイレの場所に対し繰り返し学習を促す目的で声掛け実施した。排泄動作では、立って行う事もあるがふらつきなく実施することができる。排便の際は自分で判断し座って行うことが出来るようになった。レクリエーションでは、風船バレー等に参加され会話を行う際に笑顔が見られることが増えた。作業療法内にてラジオ体操、模倣にて行える内容を実施し、日中の活動性向上がみられた。軍歌を流すと口ずさむことや回想法時の発話量の向上が見られた。
Ⅵ.考察行動パターンを観察し、対応方法を検討・共有・実施した結果、排泄失敗の減少が認められた。排泄前にズボンを触る行動を排泄要求のサインとして捉え、統一した声掛けやトイレ誘導を行ったことが改善につながったと考えられる。また、「トイレに行きたい」などの自発的な発話が増加し、職員とのコミュニケーションや発話による意思表出が可能となった。これらの背景には、統一したケアの実践に加え、生活リズムの改善や職員との関わりの増加が影響したものと考えられる。
排泄の失敗に関して、加瀬ら¹⁾は「トイレ以外で排泄する」課題に対し、「生活を本人のペースに合わせること」「会話の時間を確保すること」が改善に有効であると報告していることから、本症例の行動パターンを観察しその方に合わせ統一したケアや、作業療法等で職員と交流する時間が増え意思疎通を行える機会が増えたことにより、職員のご利用者への理解が深まり、レクリエーションや作業療法への参加による活動性向上と昼夜逆転の改善によって適切な排泄誘導が行いやすくなったことが、排泄失敗の減少につながったと考える。
Ⅶ.終わりに
今回の症例を通してスタッフ間で対応を共通する事の大切さを学んだ。排泄の失敗だけでなく、多様なBPSD症状にも意見交換を行い、多職種で環境設定や関わり方を検討し、症例に合わせたケアを実践していきたい。
Ⅷ.参考文献
1)加瀬裕子,多賀努,久松信夫,横山順一:認知症の行動・心理症状(BPSD)と効果的介入:老年社会科学,第34巻第一号,2014.4
認知症症状は発症前に培っていた能力や思考パターンに影響を受けることから、個人により行動パターンが異なるため、個別の対応が必要¹⁾である。今回、認知症に伴うコミュニケーション困難や見当識障害により、トイレ以外での排泄を繰り返す症例を担当した。そこで、行動を記録・検討し、対応方法を統一した結果、日常生活での関わりが増え排泄面での改善が見られたため、報告を行う。
Ⅱ.利用者紹介
80歳代男性。アルツハイマー型認知症、誤嚥性肺炎を2度発症している。在宅生活での生活パターンは職業柄朝早くから起床し早く寝る生活をされており、空いている時間は散歩をされていた。
Ⅲ.倫理的配慮
本研究の目的を家族へ説明し、個人情報保護について口頭と文書で説明し同意を得た。また、医療法人養和会研究倫理委員会の承認を得た。
Ⅳ.研究方法
X年Y月から4か月間行動観察表を作成し、当施設の電子カルテによる記録、リハビリ時の評価から本症例のデータを後方視的にて検討した。
Ⅴ.結果
1か月目:【状況】発話見られず声掛けに反応がないため意思疎通困難であり、発話は見られても痰が多く明瞭度が低い状態であった。トイレ誘導に拒否が多く、一人で施設内を歩き見当識低下のため自室内や他利用者の居室、廊下にて排泄を行う。日中は居室にて寝ている事が多く昼夜逆転傾向であった。【作業療法】HDS-R:3点、BPSD-Q:重症度30点、負担度34点、FIM:47点。歩行にふらつきあり、身障者トイレに誘導を行うと立って排泄を行う習慣があり転倒リスクが高い状態であった。排便の際は失行がみられズボンをおろす、座る場所への誘導に介助が必要な状態である。居室にポータブルトイレを設置したが使用されず、意思疎通困難のため行動・排泄パターンの観察を開始した。
2か月目:【状況】徐々に発話がみられ意思疎通を図る機会が向上した。日中の臥床時間が短くなり活動時間が向上する。【作業療法】発話の機会向上によりトイレへの要求を伝えられるようになる事、認知機能向上によりトイレの場所・排泄動作の理解を促すため回想法実施した。発語が多くみられるようになったが不明瞭の為内容を理解することは困難であった。行動観察の結果、トイレに行きたい時にズボンを触る、居室等場所がわからず一人歩きを行っていることが多いことが分かった。行動観察結果からカンファレンスを開催し対応方法を検討した。その結果、ズボンに触れている際は「トイレはこっちです」等声掛けを行い、トイレ誘導を実施した。居室や食堂から離れた位置にいる際は声掛け実施し、日中の食堂で過ごす時間は貼り絵やレクリエーションへの参加促進をスタッフ間で共有した。ポータブルトイレや居室に張り紙を設置し視覚的に認知できるよう環境を変更した。
3か月目以降:【状況】スタッフの声掛けや日中の活動量が増えたことにより生活リズムの改善が見られた。統一した声掛けによりレクリエーションへの参加回数も増え職員とのコミュニケーションが取れるようになった。発話明瞭度が向上しレクリエーションの際には「これは難しいな」「したくないわ」など意思表示を発話によってできるようになった。また、「トイレはどこ」「トイレに行きたい」等職員に対してトイレへの要求を伝えることができるようになった。【作業療法】HDS-R:4点、BPSD-Q:重症度11点、負担度8点、FIM:73点。張り紙のフォント、紙の色を変更し注意を向けやすいように変更を行った。また、居室・トイレの場所に対し繰り返し学習を促す目的で声掛け実施した。排泄動作では、立って行う事もあるがふらつきなく実施することができる。排便の際は自分で判断し座って行うことが出来るようになった。レクリエーションでは、風船バレー等に参加され会話を行う際に笑顔が見られることが増えた。作業療法内にてラジオ体操、模倣にて行える内容を実施し、日中の活動性向上がみられた。軍歌を流すと口ずさむことや回想法時の発話量の向上が見られた。
Ⅵ.考察行動パターンを観察し、対応方法を検討・共有・実施した結果、排泄失敗の減少が認められた。排泄前にズボンを触る行動を排泄要求のサインとして捉え、統一した声掛けやトイレ誘導を行ったことが改善につながったと考えられる。また、「トイレに行きたい」などの自発的な発話が増加し、職員とのコミュニケーションや発話による意思表出が可能となった。これらの背景には、統一したケアの実践に加え、生活リズムの改善や職員との関わりの増加が影響したものと考えられる。
排泄の失敗に関して、加瀬ら¹⁾は「トイレ以外で排泄する」課題に対し、「生活を本人のペースに合わせること」「会話の時間を確保すること」が改善に有効であると報告していることから、本症例の行動パターンを観察しその方に合わせ統一したケアや、作業療法等で職員と交流する時間が増え意思疎通を行える機会が増えたことにより、職員のご利用者への理解が深まり、レクリエーションや作業療法への参加による活動性向上と昼夜逆転の改善によって適切な排泄誘導が行いやすくなったことが、排泄失敗の減少につながったと考える。
Ⅶ.終わりに
今回の症例を通してスタッフ間で対応を共通する事の大切さを学んだ。排泄の失敗だけでなく、多様なBPSD症状にも意見交換を行い、多職種で環境設定や関わり方を検討し、症例に合わせたケアを実践していきたい。
Ⅷ.参考文献
1)加瀬裕子,多賀努,久松信夫,横山順一:認知症の行動・心理症状(BPSD)と効果的介入:老年社会科学,第34巻第一号,2014.4
