講演情報

[23-P-JH-05]安全で安定した嚥下調整食提供の取り組み学会分類2021に基づいた早見表(マニュアル)の作成

*髙浪 恵 (新潟県 介護老人保健施設てらどまり)
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【はじめに】
 当施設では、咀嚼・嚥下機能が低下したご利用者に、安全に食事を楽しんでいただくため、嚥下調整食を提供している。しかし、これまで嚥下調整食の調理において明確な基準や早見表が存在せず、調理者の経験や感覚に依存していた。そのため、仕上がりにばらつきが生じたり、新人職員への指導においても情報の統一が難しいという課題があった。こうした状況は、ご利用者にとっての安全性や食事の質に影響を及ぼす可能性があり、改善が求められていた。
 一方、学会分類2021(日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021の略称)は、医療・福祉・介護の現場で共通言語として用いられる嚥下調整食の全国基準である。この分類に基づいた食事提供は、ご利用者の咀嚼・嚥下状態に適した食事を提供するうえで不可欠であり、施設内での統一的な理解と運用が求められる。
 そこで、学会分類2021に準拠した早見表(マニュアル)の作成に取り組むとともに、検食の実施、法人内での統一、外部への情報公開と活用といった一連の取り組みを進めることとした。
【取り組み】
1.学会分類2021の理解共有
 学会分類2021に基づき、当施設で提供している嚥下調整食を分類した一覧表を作成した。これにより、職員間で共通の認識を持つことができ、食事形態の判断基準が明確になった。
2.早見表(マニュアル)の作成
 誰が見ても分かりやすい早見表(マニュアル)を作成した。写真などの視覚的な情報を取り入れ、工程ごとに注意点や目安を明確に示すことで、調理者の経験に依存しない再現性の高い調理が可能となった。また、栄養価と味を損なわずに同等の物性を再現できるよう、加水量とゲル化剤量は使用器具の特徴を踏まえながら必要最小限に設定した。さらに、計量方法は“容積”より誤差が少ない“重さ”で行うことを基本とし、誰が調理しても同じ品質に仕上がるよう工夫した。その一方で、現状の課題として、使用器具のミキサー機類については加水量が多くなり、常食よりも摂取量が増え、ご利用者の負担になっている現状がある。また、設定した早見表については、混乱を避けるためシンプルな内容にしているが、食材や料理の種類によっては適用が難しい場合もあり、細かな対応や個別最適化が今後の課題となっている。
3.検食の実施
 毎食、多職種で常食と一緒に嚥下調整食の検食を行い、常食との味の比較や物性などの確認・評価を実施している。多くの意見は「常食と変わらない味で物性も丁度良く食べやすく仕上がっている」という肯定的な内容であるが、少数ながら「常食と比べて味が薄い」「物性がかたくご利用者は食べにくいと思う」などの指摘もある。嚥下調整食であっても味など直接的な部分だけでなく、食べやすさなど様々な要因が複合して生まれる“おいしさ”に配慮し、ご利用者本位の視点を共有する場となっている。検食の結果は調理工程の改善に反映され、継続的な品質向上につながっている。
4.法人内での統一
 法人内12施設で試食会や意見交換を行い、嚥下調整食の統一に向けた取り組みを進めている。施設ごとに使用する器具や調理環境が異なるため、実際に試作・検討を重ねながら調整を行い、法人全体で同じ基準の食事を提供できる体制を整えている。
5.外部への情報公開と活用
 嚥下調整食の情報は新潟県栄養士会ホームページ「にいがた食形態一覧」に掲載し、地域全体で共有できるようにした。入退所時や在宅復帰時などに多職種が共通資料として適切な食事内容を切れ目なく提供できるよう活用している。地域の医療・介護機関との連携をより円滑にし、利用者の移行期における食事の連続性を確保するうえでも重要な役割を果たしている。
【考察】
 この取り組みは、単に早見表(マニュアル)を作成するだけではなく、嚥下調整食の質と安全性を高めるための重要な基盤整備である。学会分類2021に基づくことで職員間の認識が揃い、調理者の経験・感覚に依存していた従来の方法から、科学的根拠に基づく標準化へと移行することができた。また、業務の効率化や新人教育の負担軽減にもつながり、調理体制の強化が図られた。この「共通言語化」は、嚥下機能の評価を行う多職種との連携に役立ち、ご利用者の状態に応じた適切な食事形態の選択がより確実になった。多職種で行う検食の実施では、多角的な評価を可能にし、ご利用者にとって「安全でおいしい食事」を保証する仕組みとして有効である。
 また、法人内での統一は、ご利用者がどの施設を利用しても同じ品質の食事を受けられるという安心感が生まれ、法人全体のサービス品質向上にも寄与している。職員の異動時にもスムーズな業務移行を可能にするなど、組織としての一体感や効率性につながる。加えて、外部への情報公開は、施設の透明性を高め、ご利用者、ご家族に対しては「安全で根拠に基づいた食事提供を行っている」という信頼を得る効果がある。他施設との情報交換やフィードバックを受ける機会にもつながり、取り組みの継続的な改善が見込まれる。情報公開システムを活用することで、地域全体での情報共有を促し、医療・介護連携をよりシームレスにする効果が期待される。
 今後も継続的な見直しと職員間の協働を通じ、安全で安定した嚥下調整食の提供をさらに充実させ、ご利用者が安心して食事を楽しめるように取り組んでいきたい。