講演情報

[22-O-D004-03]高齢者の色覚に合わせた、掲示物デザインとその効果

*櫻井 俊樹、岸 敬太、本山 潤一郎、金川 龍、根本 忠則、藤原 和彦 (北海道 医療法人耕仁会 介護老人保健施設 セージュ新ことに)
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1.はじめに
当フロアに入所されている多くは認知機能低下があり、中には自室やトイレの場所が分からず徘徊する方がいる。部屋迷いの要因として、認知症中核症状の記憶障害・見当識障害・理解判断力の低下の他、加齢による視空間認知の低下が考えられる。現在フロアでは部屋迷いのある方への掲示物に規定がなく、職員により文字、背景、配色の組み合わせが異なり、その効果の検証が不十分だった。認知症高齢者の視力・色覚低下に対応した配色を使用し、掲示物の作成で部屋迷いが減少し、更に利用者及び職員へ複数の効果が得られたので報告する。

2.事例紹介
2026年3~4月時点で部屋迷いまたはトイレ迷いのある利用者2名
事例①A様 男性92歳 要介護1認知症あり、認知症高齢者自立度:Ⅱb
ADL:独歩だが遠位見守り。食事:自立、排泄:一部介助。両目視力0.5(眼鏡あり)自席や居室を探し、職員や他利用者に尋ねる様子があった。居室番号は覚えるが場所は一致しない。日中、女性部屋のトイレに入ることがあった。
事例②B様 男性 78歳 要介護2
ADL:車椅子使用、排泄:一部介助、両目視力0.1以下(眼鏡なし)
既往歴:アルコール依存症、正常圧緑内障、白内障、認知症高齢者自立度:Ⅲa
食事席の前を素通りする。居室を職員に尋ねる様子や真逆のフロアへ行く。部屋番号と場所が一致せず、食堂まで戻ることあり。

3.実施方法と期間
 当フロア50名が対象。実施期間:2026年4月1日~5月30日。職員22名が制作した掲示物を調査した結果、配色は7パターンとばらつきがあった。その中で、白枠に黒文字が12名で最も多かったため、今回部屋迷いのある2名の利用者に白枠に黒文字の貼り紙で10日間経過を取った。貼り紙は部屋・トイレの前・食事席に設置し、「自分で行けた」「声掛けで行けた」「席まで誘導した」または「お部屋まで誘導した」の3つの項目で評価した。文字の大きさは、3メートル離れた位置からでも文字が見えるように、HGP創英角ポップ体、文字の大きさは150pt.とした。
 次に「白枠に黒文字」との効果を比較するため、高齢者が見えやすい配色で4パターンを提示した。それぞれの一番見えやすい配色としてA氏は黄枠と青文字、B氏は緑枠と白文字で掲示物を作成し10日間集計をした。
 色覚の個別性を把握するため、利用者50名に、高齢者が見えやすい配色として4パターン¹⁾(白枠・黒文字、黄枠・青文字、緑枠・白文字、黄枠・黒文字)を提示し、「はっきりみえる」「少し見えにくい」「みえない、判別できない」で評価を検証した。

4.結果
 A様・B様に対し、白枠・黒文字から個別に見やすい配色(A様:黄枠・青文字、B様:緑枠・白文字)へ変更した結果、両者とも「自分で行けた」割合が大幅に向上。A様は食事席13%→67%、お部屋5%→17%へ改善した。B様は食事席3%→76%、お部屋0%→14%へ上昇した。A様はお部屋への誘導が82%から22%に減少し、B様は56%から14%へ低下した。配色変更により自力移動が増え、誘導回数が大幅に減少した。A様は周りを見回し部屋を探す様子が減った。B様は、白枠・黒文字では食事席を素通りすることがあったが、対応後は掲示物を確認し食事席に着く様子が見られた。居室の場所を口頭でお伝えすると、部屋にスムーズに行くことができ、食堂まで戻ることが消失した。両名から「見えやすい」「わかりやすい」などの肯定的な意見が得られた。
 色覚の個別性を把握するため、50名を対象にどの色が見えやすいのか4パターンで検証した結果、「はっきり見える」白枠・黒文字50%、黄枠・青文字31%、緑枠・白文字19% 黄枠・黒文字23%、「少し見えにくい」白枠・黒文字29%、黄枠・青文字60%、緑枠・白文字50%、黄枠・黒文字58%、「みえない、判別できない」白枠・黒文字21%、黄枠・青文字8%、緑枠・白文字31%、黄枠・黒文字19%となった。この結果から一般的に見えやすい色³⁾と言われている黄枠・黒文字よりも白枠・黒文字、黄枠・青文字が上回っていることがわかった。

5.考察
 本研究では利用者50名を対象に見えやすい配色を調査したが、街でよく見かける黄色地に黒文字が必ずしも最適とはならず、部屋迷いのあった2名でも見えやすい色にばらつきが見られた。高齢者は加齢に伴う水晶体が黄変、錐体感度低下もあり色弁別能力は低下する³⁾と言われていることから、色覚変化は加齢による個人差が大きく、同一の配色では対応が難しいことが推測された。
 掲示物の改善により部屋迷い減少したことから、加齢による視空間認知の低下が要因の一つになることがわかった。その結果、利用者は目的地を把握しやすくなり、移動時の不安が軽減した。人に尋ねる必要が減り精神的負担が軽くなった他、歩行距離の安定により疲労や転倒リスクの低下、誤って他室に入るトラブル防止につながった。職員側では掲示物の配色が統一されケアが標準化された他、部屋迷いによる付き添い回数が1日5~10回から2~3回へ減少した。時間に換算すると5~15分の業務時間を他の利用者支援に充てられるようになった。これらの結果から、視覚の個別性に配慮した掲示物が利用者と職員双方に有効だった。

【おわりに】
 本研究では調査した利用者数が少ないが、今後継続して個別性を考慮したケアへ繋げたい。一人ひとりの生活がより良くなるように改善、検討、評価をしていきたい。

【参考文献】
1)高齢者の快適で安全な生活支援のための色彩の役割について 2005年デサントスポーツ科学26巻 高知女子大学 川口 順子
2)背景色と文字色の組み合わせに対する視認性の構造 行動計量学 第35巻第2号2008年(通巻69号)
3)視覚心理物理学の最近の動向 高齢者や2色覚者の色覚 2020年視覚の科学41 巻 4 号 p. 56-65  高知工科大学 篠森 敬三