講演情報
[22-O-D003-06]認知症の特性を活かそう
*小林 ひろみ、吉田 真紀子、高橋 みどり (神奈川県 介護老人保健施設レストア横浜)
1, はじめに
介護老人保健施設(以下、老健)では、認知症高齢者の生活機能維持・向上において食事動作の自立支援は重要である。認知症では新しい学習が困難となる一方、習慣的な行動を担う手続き記憶は比較的保持されやすい。本事例は、右橈骨神経麻痺により利き手が使用困難であった認知症高齢者が、約半年で右手による食事自力摂取を再獲得した経過を示し、認知症の特性を活かした支援の有効性を検証する。
2.対象者
90歳代女性。要介護3、障害老人自立度A1、認知症自立度IIIa。HDS-R 0点、MMSE 0点。
アルツハイマー型認知症、右上腕骨遠位端骨折後の橈骨神経麻痺を呈し、利き手は右。
入所時の右手は手関節腫脹・熱感を伴う屈曲位で手指進展困難、顕著な下垂手を認め、MMT2。スプーンの把持保持は困難で、認知症による指示理解の低下や注意障害もみられた。入院前は自力摂取可能だったが、骨折後に食事動作は全介助となった。
3.支援方法
1)初期:入所~1ヶ月
手関節の疼痛と炎症所見に対し鎮痛剤を投与した。左手でスプーン把持を促したが摂取には至らず、スプーンに食物を乗せて口元へ誘導する「手添え介助」を継続した。左手から右手へスプーンを持ち替える行動がみられたが、疼痛と把持力不足により落下が多かった。
注意障害により食事への集中が困難であったため、視覚的負担を軽減するために小鉢1個の提供とした。嚥下に問題がないことを確認し、全粥から形状が認識されやすい軟飯への変更を行ったところ、1か月後には右手でスプーンを持ち、口に運ぶ場面が出現した。
リハビリテーション(以下、リハビリ)では、手関節の拘縮予防を目的に18㎝ボールを用いたROM訓練を実施した。
2)中期:入所~3か月短期集中リハビリ期間)
軽量スプーンや滑り止め加工など福祉用具の導入を試みたが、本人は従来のスプーンを好み定着しなかった。そこで道具の変更を強制せず、回復しつつある右手の筋力で従来のスプーンを操作できるよう支援方針を変更した。
リハビリでは単調な筋力訓練ではなく、輪投げ・積み木・机上アクティビティなど「楽しさを伴う活動」を導入し、無意識のうちに右手の使用頻度を増加させた。結果として手指の巧緻性と耐久性が改善した。
3)後期:入所~4か月以降
カレーなどワンプレート食では迷いなく自力摂取できたため、視覚的負担を軽減し、食事としての形を認識しやすくする目的で小鉢から介助皿へ変更した。また、把持力の弱い右手でもすくいやすくするため、介助皿への変更は有効であった。
その結果、5か月目には右手での自力摂取がほぼ可能となり、表情も豊かになり、レクリエーションでも右手を積極的に使用する姿がみられた。
短期集中リハ終了後も右手のグリップ力と耐久力は安定し、肩・肘・手関節が連動した上肢の協調運動が可能となった。上肢全体のMMTは3ないし4へ改善し実用的な動作が出来るレベルへと改善された。
4.結果
対象者は約半年で利き手である右手による食事自力摂取を再獲得した。上肢機能はMMT2から3ないし4へ改善し、巧緻性・耐久性が向上した。食事場面での右手使用が自然に増加し、レクリエーションでも右手を積極的に使用するようになった。表情の改善や活動参加の増加など、生活全体の活性化がみられた。
5.考察
本事例では、認知症を“できない理由”として捉えるのではなく、保持されやすい手続き記憶という残存機能を回復資源として活用した点である。生活場面で繰り返し右手を使用する機会を確保したことが、結果として麻痺側の機能回復を促した。
第一に手続き記憶が、利き手使用の習慣的行動を支え、食事場面が反復訓練として機能した。
第二に、楽しさを伴うリハビリが自発的参加を促し、上肢全体の協調運動と耐久性向上につながった。
第三に、麻痺の自然回復経過に合わせた環境調整と支援方法を柔軟に行えた点である。福祉用具が定着しなかった際に、従来のスプーンを継続使用したことは、習慣性を活かす結果となった。ワンプレート化は、認知症による注意障害を補完し、食事動作の安定につながった。
第四に、多職種が情報を共有し、過剰介助を是正し、右手使用の機会を奪わない環境を維持できた点も大きい。
6.結論
本事例は、認知症高齢者においても、生活の中に残る習慣的行動を手掛かりに、麻痺側上肢の機能再獲得が可能であることを示した。新規学習に依存せず本人がもともと備えていた、行動パターンを支援に組み込むことで、右手を使う機会が自然に増え、食事動作の再獲得につながった、認知症を「失われた機能」として捉えるのではなく、生活に残る自動化された行動を引き出す視点は、老健における食事自立支援の実践において有効なアプローチであることが示された。
介護老人保健施設(以下、老健)では、認知症高齢者の生活機能維持・向上において食事動作の自立支援は重要である。認知症では新しい学習が困難となる一方、習慣的な行動を担う手続き記憶は比較的保持されやすい。本事例は、右橈骨神経麻痺により利き手が使用困難であった認知症高齢者が、約半年で右手による食事自力摂取を再獲得した経過を示し、認知症の特性を活かした支援の有効性を検証する。
2.対象者
90歳代女性。要介護3、障害老人自立度A1、認知症自立度IIIa。HDS-R 0点、MMSE 0点。
アルツハイマー型認知症、右上腕骨遠位端骨折後の橈骨神経麻痺を呈し、利き手は右。
入所時の右手は手関節腫脹・熱感を伴う屈曲位で手指進展困難、顕著な下垂手を認め、MMT2。スプーンの把持保持は困難で、認知症による指示理解の低下や注意障害もみられた。入院前は自力摂取可能だったが、骨折後に食事動作は全介助となった。
3.支援方法
1)初期:入所~1ヶ月
手関節の疼痛と炎症所見に対し鎮痛剤を投与した。左手でスプーン把持を促したが摂取には至らず、スプーンに食物を乗せて口元へ誘導する「手添え介助」を継続した。左手から右手へスプーンを持ち替える行動がみられたが、疼痛と把持力不足により落下が多かった。
注意障害により食事への集中が困難であったため、視覚的負担を軽減するために小鉢1個の提供とした。嚥下に問題がないことを確認し、全粥から形状が認識されやすい軟飯への変更を行ったところ、1か月後には右手でスプーンを持ち、口に運ぶ場面が出現した。
リハビリテーション(以下、リハビリ)では、手関節の拘縮予防を目的に18㎝ボールを用いたROM訓練を実施した。
2)中期:入所~3か月短期集中リハビリ期間)
軽量スプーンや滑り止め加工など福祉用具の導入を試みたが、本人は従来のスプーンを好み定着しなかった。そこで道具の変更を強制せず、回復しつつある右手の筋力で従来のスプーンを操作できるよう支援方針を変更した。
リハビリでは単調な筋力訓練ではなく、輪投げ・積み木・机上アクティビティなど「楽しさを伴う活動」を導入し、無意識のうちに右手の使用頻度を増加させた。結果として手指の巧緻性と耐久性が改善した。
3)後期:入所~4か月以降
カレーなどワンプレート食では迷いなく自力摂取できたため、視覚的負担を軽減し、食事としての形を認識しやすくする目的で小鉢から介助皿へ変更した。また、把持力の弱い右手でもすくいやすくするため、介助皿への変更は有効であった。
その結果、5か月目には右手での自力摂取がほぼ可能となり、表情も豊かになり、レクリエーションでも右手を積極的に使用する姿がみられた。
短期集中リハ終了後も右手のグリップ力と耐久力は安定し、肩・肘・手関節が連動した上肢の協調運動が可能となった。上肢全体のMMTは3ないし4へ改善し実用的な動作が出来るレベルへと改善された。
4.結果
対象者は約半年で利き手である右手による食事自力摂取を再獲得した。上肢機能はMMT2から3ないし4へ改善し、巧緻性・耐久性が向上した。食事場面での右手使用が自然に増加し、レクリエーションでも右手を積極的に使用するようになった。表情の改善や活動参加の増加など、生活全体の活性化がみられた。
5.考察
本事例では、認知症を“できない理由”として捉えるのではなく、保持されやすい手続き記憶という残存機能を回復資源として活用した点である。生活場面で繰り返し右手を使用する機会を確保したことが、結果として麻痺側の機能回復を促した。
第一に手続き記憶が、利き手使用の習慣的行動を支え、食事場面が反復訓練として機能した。
第二に、楽しさを伴うリハビリが自発的参加を促し、上肢全体の協調運動と耐久性向上につながった。
第三に、麻痺の自然回復経過に合わせた環境調整と支援方法を柔軟に行えた点である。福祉用具が定着しなかった際に、従来のスプーンを継続使用したことは、習慣性を活かす結果となった。ワンプレート化は、認知症による注意障害を補完し、食事動作の安定につながった。
第四に、多職種が情報を共有し、過剰介助を是正し、右手使用の機会を奪わない環境を維持できた点も大きい。
6.結論
本事例は、認知症高齢者においても、生活の中に残る習慣的行動を手掛かりに、麻痺側上肢の機能再獲得が可能であることを示した。新規学習に依存せず本人がもともと備えていた、行動パターンを支援に組み込むことで、右手を使う機会が自然に増え、食事動作の再獲得につながった、認知症を「失われた機能」として捉えるのではなく、生活に残る自動化された行動を引き出す視点は、老健における食事自立支援の実践において有効なアプローチであることが示された。
