講演情報
[22-O-L004-05]老健スタッフが訪問リハビリを担う意義
*加藤 美歩、島根 さやか、岩間 将夫、仲地 有華、長尾 雅裕 (埼玉県 介護老人保健施設 翔寿苑)
【はじめに】
訪問リハビリの特徴は、利用者の生活の場を継続的に確認できる点にある。住環境や生活習慣、家族の介護力、福祉用具の活用状況などを把握することで施設内では見えにくい課題を発見し、より実践的な支援につなげることができる。
当苑では21年前より、在宅生活を見据えた支援として訪問リハビリを実施してきた。しかし、人員不足から十分な事業展開ができず、休止期間を挟みながら限られた件数での運営が続いていた。令和8年1月よりPT・OT・STの配置体制が整ったことを契機に訪問リハビリ事業を本格的に拡充し、老健入所中のリハビリから在宅生活までを切れ目なく支援する体制の構築を目指した。
訪問リハビリは利用者の生活の場に直接介入できるサービスであり、在宅生活継続支援において重要な役割を担う。今回、当苑における訪問リハビリの取り組みを通して、老健スタッフが訪問リハビリを担う意義について改めて考える機会を得たためここに報告する。
【目的】
当苑では、在宅退所前にPT、OTが自宅訪問を実施し、手すりの設置位置やベッド周囲の環境調整、生活動線の確認など安全な在宅生活に向けた支援を行っている。しかし、退所後に自宅内で転倒し再入所となった利用者を経験した。この経験から施設内での評価や退所前支援のみでは把握できない生活上の課題や、在宅生活開始後の環境変化、家族との認識の相違などが存在することを実感した。
そこで、在宅生活の継続支援機能を強化することを目的として訪問リハビリの拡充を以下のように図った。
(1) 老健から在宅退所する利用者に対し、退所前より訪問リハビリの必要性を説明し退所後の利用を提案した。
(2) 法人内の通所介護の利用者において必要性がある利用者を選定し導入支援を行った。
【成果】
入所時に日中・夜間ともオムツ対応であった利用者に対し、個別リハビリを実施した結果、日中はトイレ介助へ移行した。更衣動作は介助を要していたが訓練場面では実施可能であったため、多職種で生活場面への定着を図り、見守りレベルまで改善した。その後、自宅退所となり訪問リハビリを開始した。自宅では環境面からポータブルトイレを使用していたが、更衣動作は見守りで実施できていた。しかし、在宅生活が進むにつれ、家族が「時間がかかるため」と介助するようになり、更衣動作能力の低下が懸念された。訪問時に動作を確認し家族へ助言を行ったことで、再び見守りでの実施が可能となった。施設と自宅では環境面でも違いがあり、施設ではできていたことが自宅ではできないという解離を専門職として回避することに着眼した。
また、入退所を繰り返した事例では入所時に車椅子移動であった利用者に対し個別リハビリを実施した結果、伝い歩きが可能となった。自宅退所を見据えて施設の居室環境を整備し、居室内は伝い歩き自立となった。その後、自宅退所となり訪問リハビリ開始後は歩行補助具を使用して自宅周辺の歩行まで能力が向上した。さらに、訪問時に利用者が洗濯物の取り込みを役割として担っていることを把握した。その一連の動作を改めて評価した結果、立位保持が不安定な状態で実施していたため転倒リスクが認められた。この情報を施設と共有し、再入所時には立位安定性向上を目的とした支援を重点的に実施した。退所直後から夏季の熱中症リスクを考慮し、「暑くなる前に一度入所したい」との相談があった。その後、実際に再入所となり、安全に夏季を過ごした後、再び在宅生活へ移行し訪問リハビリを再開する予定となった。
法人内の通所介護からの導入に至った事例では、STによって嚥下・口腔機能支援を行い食事姿勢や介助方法の指導により刻み食から常食へ移行できた。さらに家族が口腔ケアを行う際に開口しないなどの苦慮があったが、口腔ケア方法の助言により口腔衛生の改善も認められ家族が喜ばれ介護負担軽減につながった。
【考察】
訪問リハビリの役割の一つは、施設で獲得した能力を在宅生活へ定着させ、「できるADL」と「しているADL」の差を埋めることである。今回の事例では訪問時に生活場面を直接確認することで、利用者の有する能力と家族の認識との齟齬、在宅生活の中で新たに担っている役割等を把握した上で、専門職による評価を通して過介助のための活動性低下や転倒リスクなどの課題を早期に発見することができた。
二つ目は訪問リハビリで得られた情報を施設内で共有することで、多職種による視点から支援内容を検討し、再入所時のリハビリへ反映することが可能となった。これは訪問リハビリ単独ではなく、老健機能全体と連動した支援であり、老健から訪問リハビリを提供する大きな意義と考えられる。
今回経験した「老健-在宅-老健-在宅」という経過は、利用者の状態や生活環境の変化に応じて支援内容を柔軟に切り替える老健機能を活用した継続的な在宅支援の実践例であった。老健の訪問リハビリは、在宅生活を支援するだけでなく、必要時には短期入所や入所機能へ円滑につなぎ、再び在宅へ戻ることを支援できる点に特徴がある。これは訪問看護ステーション等による訪問リハビリにはない、老健ならではの強みである。
【おわりに】
訪問リハビリは単なる機能訓練の場ではなく、在宅と老健を結ぶ重要な接点である。生活の場を直接確認し、利用者や家族の状況を把握することで、必要な支援を切れ目なく提供できる。今後も訪問リハビリを活用しながら老健の在宅生活継続支援機能を強化し、利用者が住み慣れた地域で安心して生活を継続できるよう支援するとともに在宅と老健を密接につなぎ、「できるADL」を「しているADL」へと定着させ、より良い生活機能の維持・向上を目指していきたい。
訪問リハビリの特徴は、利用者の生活の場を継続的に確認できる点にある。住環境や生活習慣、家族の介護力、福祉用具の活用状況などを把握することで施設内では見えにくい課題を発見し、より実践的な支援につなげることができる。
当苑では21年前より、在宅生活を見据えた支援として訪問リハビリを実施してきた。しかし、人員不足から十分な事業展開ができず、休止期間を挟みながら限られた件数での運営が続いていた。令和8年1月よりPT・OT・STの配置体制が整ったことを契機に訪問リハビリ事業を本格的に拡充し、老健入所中のリハビリから在宅生活までを切れ目なく支援する体制の構築を目指した。
訪問リハビリは利用者の生活の場に直接介入できるサービスであり、在宅生活継続支援において重要な役割を担う。今回、当苑における訪問リハビリの取り組みを通して、老健スタッフが訪問リハビリを担う意義について改めて考える機会を得たためここに報告する。
【目的】
当苑では、在宅退所前にPT、OTが自宅訪問を実施し、手すりの設置位置やベッド周囲の環境調整、生活動線の確認など安全な在宅生活に向けた支援を行っている。しかし、退所後に自宅内で転倒し再入所となった利用者を経験した。この経験から施設内での評価や退所前支援のみでは把握できない生活上の課題や、在宅生活開始後の環境変化、家族との認識の相違などが存在することを実感した。
そこで、在宅生活の継続支援機能を強化することを目的として訪問リハビリの拡充を以下のように図った。
(1) 老健から在宅退所する利用者に対し、退所前より訪問リハビリの必要性を説明し退所後の利用を提案した。
(2) 法人内の通所介護の利用者において必要性がある利用者を選定し導入支援を行った。
【成果】
入所時に日中・夜間ともオムツ対応であった利用者に対し、個別リハビリを実施した結果、日中はトイレ介助へ移行した。更衣動作は介助を要していたが訓練場面では実施可能であったため、多職種で生活場面への定着を図り、見守りレベルまで改善した。その後、自宅退所となり訪問リハビリを開始した。自宅では環境面からポータブルトイレを使用していたが、更衣動作は見守りで実施できていた。しかし、在宅生活が進むにつれ、家族が「時間がかかるため」と介助するようになり、更衣動作能力の低下が懸念された。訪問時に動作を確認し家族へ助言を行ったことで、再び見守りでの実施が可能となった。施設と自宅では環境面でも違いがあり、施設ではできていたことが自宅ではできないという解離を専門職として回避することに着眼した。
また、入退所を繰り返した事例では入所時に車椅子移動であった利用者に対し個別リハビリを実施した結果、伝い歩きが可能となった。自宅退所を見据えて施設の居室環境を整備し、居室内は伝い歩き自立となった。その後、自宅退所となり訪問リハビリ開始後は歩行補助具を使用して自宅周辺の歩行まで能力が向上した。さらに、訪問時に利用者が洗濯物の取り込みを役割として担っていることを把握した。その一連の動作を改めて評価した結果、立位保持が不安定な状態で実施していたため転倒リスクが認められた。この情報を施設と共有し、再入所時には立位安定性向上を目的とした支援を重点的に実施した。退所直後から夏季の熱中症リスクを考慮し、「暑くなる前に一度入所したい」との相談があった。その後、実際に再入所となり、安全に夏季を過ごした後、再び在宅生活へ移行し訪問リハビリを再開する予定となった。
法人内の通所介護からの導入に至った事例では、STによって嚥下・口腔機能支援を行い食事姿勢や介助方法の指導により刻み食から常食へ移行できた。さらに家族が口腔ケアを行う際に開口しないなどの苦慮があったが、口腔ケア方法の助言により口腔衛生の改善も認められ家族が喜ばれ介護負担軽減につながった。
【考察】
訪問リハビリの役割の一つは、施設で獲得した能力を在宅生活へ定着させ、「できるADL」と「しているADL」の差を埋めることである。今回の事例では訪問時に生活場面を直接確認することで、利用者の有する能力と家族の認識との齟齬、在宅生活の中で新たに担っている役割等を把握した上で、専門職による評価を通して過介助のための活動性低下や転倒リスクなどの課題を早期に発見することができた。
二つ目は訪問リハビリで得られた情報を施設内で共有することで、多職種による視点から支援内容を検討し、再入所時のリハビリへ反映することが可能となった。これは訪問リハビリ単独ではなく、老健機能全体と連動した支援であり、老健から訪問リハビリを提供する大きな意義と考えられる。
今回経験した「老健-在宅-老健-在宅」という経過は、利用者の状態や生活環境の変化に応じて支援内容を柔軟に切り替える老健機能を活用した継続的な在宅支援の実践例であった。老健の訪問リハビリは、在宅生活を支援するだけでなく、必要時には短期入所や入所機能へ円滑につなぎ、再び在宅へ戻ることを支援できる点に特徴がある。これは訪問看護ステーション等による訪問リハビリにはない、老健ならではの強みである。
【おわりに】
訪問リハビリは単なる機能訓練の場ではなく、在宅と老健を結ぶ重要な接点である。生活の場を直接確認し、利用者や家族の状況を把握することで、必要な支援を切れ目なく提供できる。今後も訪問リハビリを活用しながら老健の在宅生活継続支援機能を強化し、利用者が住み慣れた地域で安心して生活を継続できるよう支援するとともに在宅と老健を密接につなぎ、「できるADL」を「しているADL」へと定着させ、より良い生活機能の維持・向上を目指していきたい。
