講演情報

[22-O-J002-06]協力歯科医療機関連携による経口摂取再開の取り組み

*今川 満理菜 (石川県 介護老人保健施設和光苑)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【はじめに】 
経管栄養利用者の経口摂取再開は、栄養状態の維持だけでなく、食べる楽しみや生活の質の向上につながる重要な支援である。一方で、誤嚥性肺炎再発のリスクを伴うことから、嚥下機能を適切に評価し、安全性を確認しながら進める必要がある。 
VEは嚥下機能を客観的に評価できる有用な手段であり、全国の医療機関を対象とした調査(2020年)ではVE導入率は56.8%と報告されている。しかし、介護老人保健施設(以下老健)での普及状況に関する報告は少なく、言語聴覚士や歯科医師の配置状況などにより施設間で実施体制に差がある。 
当施設には言語聴覚士および歯科医師の配置がなく、経口摂取再開に向けた専門的な嚥下評価が課題であった。今回、誤嚥性肺炎を契機に胃瘻造設となった利用者に対し、協力歯科医療機関と連携してVEを実施し、その結果を多職種で共有しながら段階的な食事調整を行ったことで、安全に経口摂取を再開・継続することができたため報告する。 
【症例】 
77歳女性。要介護5、障害高齢者の日常生活自立度C2、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱb。意思疎通は良好であった。 
既往歴に硬膜下血腫、陳旧性脳梗塞疑い、誤嚥性肺炎あり。 
介入前の体重は43.6kg(BMI:Body Mass Index 17.8kg/㎡以下BMI)で低栄養状態のリスク判定は中リスクに該当した。 
2023年11月に誤嚥性肺炎を発症し入院後、嚥下機能・意欲低下のため12月に胃瘻造設となり、2024年1月に当施設へ入所した。当初はお楽しみ程度の経口摂取を行っていたが、「寝て過ごしているのが今は幸せ。しばらく食べなくて良いわ、また食べたくなったら言うね。」との本人の希望により中止した。その後、経管栄養管理下に誤嚥性肺炎を再発し再入院した経緯がある。 
2025年8月、施設夏祭りで綿あめを摂取した後、本人から「また口から食べたい。」と希望が聞かれた。本症例は経管栄養管理中にも誤嚥性肺炎を再発しており、安全性の確保が大きな課題であった。そのため協力歯科医療機関に依頼し、経口摂取再開に向けた取り組みを開始した。 
【介入・経過】 
初回、歯科医師による嚥下スクリーニングの結果、とろみ水やゼリーでの直接訓練可能と評価を受け、介入12日目より中間とろみ茶で経口訓練を開始した。 
介入30日目にVEを実施した。ミキサー(学会分類2021コード2-1)に対する評価は、送り込みは良好で左梨状窩の食塊残留も追加嚥下で消失し、明らかな食物誤嚥はなかった。一段階上のソフト(学会分類2021コード3)まで摂取可能と評価を受け、ミキサーから段階的に食事を開始した。 
介入55日目の評価でソフトへ食上げした。 
介入65日目の評価後、全粥へ食上げしたが、介入74日目早朝、喀痰増加し SpO2は90-93%にまで低下し吸痰施行した。よって多職種で誤嚥リスクが高いと判断し、主食をミキサー粥へ変更した。その後は状態が安定し、毎月歯科医師による定期評価を実施した。 
介入198日目の評価で現行の食事形態(ミキサー粥・ソフト)が上限と判断され、以降は同形態を継続した。 
【結果】 
経口摂取再開後、現在まで9か月間、明らかな誤嚥性肺炎の再発なく経口摂取を継続できた。 
栄養管理は、介入前は経管栄養のみで1200kcal/日(標準体重×22kcal)、たんぱく質45.6g(標準体重×0.83g/㎏/日)を投与していた。経口摂取の開始に伴い、一日総栄養量を一貫して維持し、現在は昼食のみ経口摂取約300kcal/日と朝食・夕食は経管栄養900kcal/日を併用し、計1200kcal/日(標準体重×22kcal)、たんぱく質44.0g(標準体重×0.8g/kg/日)を確保できた。体重は43.6kg(BMI 17.8kg/㎡)から46.6kg(BMI 19.0kg/㎡)へ増加した。 
日常生活動作は、BI(Barthel Index以下BI)が5点から35点へ改善した。特にベッド・車椅子間の移乗は、現在は日中フリーで実施可能となった。さらに、口腔ケアや排泄に取り組む姿勢が積極的になった。 
経口摂取再開後は「食べられるようになって元気になった。これからも食べ続けて長生きしたい。」との発言が聞かれた。 
一方で、「食事の量を増やしてほしい。」との希望も聞かれるようになった。夜間の呼吸状態や痰量も踏まえ多職種で検討した結果、安全に経口摂取ができるよう、食事を増量するのではなく、ご家族からの差し入れを活用しながら食べる楽しみを継続した。 
【考察】 
本症例は誤嚥性肺炎の再発歴があり安全性の評価が課題であったが、協力歯科医療機関との連携により、VEによる客観的評価を行うことができた。 
VEの有用性は、咽頭残留や不顕性誤嚥のリスクを可視化できる点にある。専門職が不在の老健であっても、VEを行うことで、根拠に基づいた経口摂取への一部移行が実現できた。 
本症例において、経口摂取の再開は単なる栄養補給のみならず、「食べる楽しみ」を取り戻すことにつながった。これにより、生活への意欲が高まり、離床やリハビリテーションへの積極性を通じて、BIの改善や体重増加につながったと考えられる。
一方で、VEの評価結果のみならず、管理栄養士が確認できない夜間・早朝帯の就寝時の呼吸状態や痰量といった情報を多職種で共有することが重要である。本症例でも、早朝帯の喀痰増加やSpO2低下という現場の気づきに対して、ミキサー粥へ変更したことが、誤嚥性肺炎の発症を未然に防ぐ鍵となった。 
このような経口摂取支援を老健で「安全に、かつ諦めずに継続する」ためには、歯科医師による専門的・客観的評価と、現場スタッフによる24時間の生活観察情報を掛け合わせた多職種連携が不可欠である。 
結論として、自施設のみで専門的な嚥下評価が困難であっても、地域の歯科医療資源を積極的に活用し、日々の生活観察と掛け合わせることで、老健における経口摂取支援の選択肢を安全に広げられる可能性が示唆された。