講演情報

[22-O-D005-02]当施設における園芸療法の効果と今後の可能性について認知機能、QOL、及びADLに与える影響

*杉原 優利、若佐 雄太、河村 宗哉、松川 飛鳥 (大阪府 医療法人橘会介護老人保健施設たちばな)
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【はじめに】
介護老人保健施設において、入所期間の長期化に伴う認知機能低下や、それに起因するBPSD(意欲低下、転倒、徘徊、不穏、他利用者様とのトラブル等)の顕在化は、入所者のQOL低下やADLを下方修正せざるを得ない要因となり得る。その背景には、日々の生活のマンネリ化や社会参加機会の減少に伴うストレスが存在すると考える。これらの諸問題の軽減および予防には、入所者の認知機能の維持とQOLの向上を図ることが不可欠である。
野田らの報告では、園芸療法における栽培作業やクラフト作業が神経症症状や気分の改善に有効とされ、小原らの報告では閉じこもり傾向の改善や他者交流増加、自発性の向上、表情の変化が示されている。
そこで介護老人保健施設たちばな(以下当施設とする)では、周期的な作業や役割の獲得、ストレス緩和の観点から園芸療法を導入し、その効果を定量的に検討した。
【対象】
令和2年4月から令和8年4月までに、当施設の3階フロアに半年以上入所した高齢者130名(園芸療法実施者および非実施者を含む)を対象とした。
【方法】
令和7年3月より、当施設内の観賞用の庭園(計4区画、1区画あたり縦3.5m、横4m、深さ0.3m)を入所者と共に開墾し、園芸療法を開始した。活動内容は、屋外での庭園作業(伐採・除石・たい肥作成・播種・灌水・収穫など)、および屋外作業が困難な利用者を対象としたプランターでの野菜栽培や観賞用植物管理の計3カテゴリーに分類し、利用者のADLや希望に応じて選択・提供した。野菜栽培では大根、人参、トウモロコシなど季節に応じて年間で空白期間が無いように年間計画を建て栽培を実施。収穫した野菜は栄養科と連携して利用者の食事として提供したほか、地域の品評会への出品を通じた社会参加も促した。
評価指標として、改訂長谷川式認知症スケール(以下HDS-Rとする)およびBarthel Index(以下BIとする)を1年ごとに集計した。また、QOL評価としてWHOQOL-br/EF、認知症高齢者の健康関連QOL評価表(QOL-D)を参考に作成した高齢者QOL評価シート(身体的健康、心理的健康、社会的関係、環境の4項目、全15問、5段階評価)を用い、令和7年8月から令和8年4月までの期間で評価を行った。なお、分析にあたっては園芸療法実施前後の各指標における経時的変化の比較検討を行った。
【結果】
1)HDS-R:園芸療法実施前(長期入所による自然経過)の年間平均変化量は-0.70点であったのに対し、園芸療法実施後(介入期間)は+0.04点と維持・向上が認められた。
2)BI:実施前の年間平均変化量は-5.65点であったのに対し、実施後-7.41点であった。また、当施設の3階フロアにおける園芸療法実施前(令和2年4月から令和7年3月まで)の平均重症者割合が45%であったのに対し園芸療法実施後(令和7年4月から令和8年4月まで)の平均重症者割合が46%と増加していた。
3)QOL:同期間における非実施者の平均点が52.5点から55.0点と2.5点の微増であったのに対し、園芸療法実施者では51.5点から60.5点と9.0点の大幅な増加が見られた。
【考察】
遠藤らの報告では、植物の育成が負の感情を減らし、正の感情が増す傾向があり、リラックス効果をもたらすとされている。また増谷らの報告では、意欲の優位な改善や他者との交流が快の体験として記憶され、その体験が繰り返し想起されることで不穏、孤独感を抑制するとされている。これらのことから、継続的な植物の生育や園芸療法に参加していた職員、利用者間での交流を通じて精神的な安定、意欲の向上が生じたと考える。
本取り組みにおいて、灌水や収穫へ自発的に関わる入所者が増加したことや、直接的に園芸療法に参加されていない利用者もプランターでの植物の生育過程や園芸療法を見物することで、波及的なQOLの向上が見られたことは、これら先行研究を支持するものである。
認知機能面については、増谷らの述べる「記憶を呼び戻す作業」による脳の活性化や、プログラムの規則性が認知機能の特に見当識領域の改善に寄与した可能性が推察される。今回の取り組みでは詳細な認知機能の評価を行っておらずどの認知領域に有意な効果が得られたのかの特定には至らなかったが、継続的な作業による想起、収穫、喫食といった一連の体験が認知機能低下の抑制に有効であったと考えられる。反面BIの低下が生じた要因として、要介護度の上昇に示されるような、加齢や疾患進行による影響が大きかったと考えられる。
しかし注目すべきは、身体機能の重症化がすすみADLが低下する経過の中であっても、園芸療法への参加によってQOLの大幅な向上と認知機能の維持・向上が図られた点である。これは園芸療法が入所者の不活動や孤立を防ぎ、長期入所生活におけるQOLを維持・向上させるアプローチになり得るという強い可能性を示唆している。
【総括】
本介入は、重症化が進む長期入所者において、身体機能(ADL)の維持・向上には直接至らなかったものの、精神・心理面におけるQOL向上および認知機能維持には極めて高い効果と、ケアの質を向上させる新たな可能性を示すことができた。