講演情報

[22-O-D005-03]日常生活動作にヒントを得てできることもできないことも伝えあえること

*石川 智美 (長野県 老人保健施設ふるさと)
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1.はじめに
当施設では在宅復帰、身体機能維持のためにリハビリ職員による個別リハビリに加えて、毎日利用者全員が参加して廊下の手すりを用いた集団の立ち上がり練習を行うなど、多職種間で協力しながら体を動かせる機会を作っている。しかし、認知症などの影響でリハビリをする目的が伝わりにくく、実施することができない利用者も少なくない。本報告では、認知症によりリハビリが困難であった事例に対し、日常生活におけるケア場面での状態を多職種間で情報共有し、通常であれば起立練習の場として用いない「トイレ」という環境において、起立練習が実践可能となった事例について報告する。
2.利用者紹介
氏名:A氏 年齢:80歳代 性別:男性 介護度:要介護4
既往歴:認知症HDS-R:6点(2026年4月) 高脂血症 高血圧 陳旧性脳梗塞 右麻痺 横紋筋融解症
ADL 
 起居・移乗動作:一部~全介助 移動:車椅子介助
 排泄:全介助 日中洋式トイレ 夜間紙オムツで失禁対応 立位保持5秒程度
3.経過
2025年自宅で畑作業中に倒れ、両下肢脱力、歩行困難となり救急搬送、横紋筋融解症と診断され入院加療後、リハビリ目的で当施設入所となる。入所当初、起居動作は見守り~一部介助レベル、立位も10秒程度保持ができており軽介助で日常生活を過ごすことができていた。2025年秋頃より体をひどく痒がるようになり、抗ヒスタミン薬の内服が開始されたが、その後傾眠傾向が出現し、それに伴いADLの低下もみられるようになった。全ての動作が一部~全介助レベルとなり、特に立位の保持が困難となった。膝が伸びきらずベッドや車椅子への移乗動作時には一度では移乗できずに2~3回に分け何度も立ち上がりながらの移乗となった。また、リハビリとして起立練習を行っていたが離臀することも難しく、起立動作は重介助で、立位も3秒程度しか保持ができず回数も5回程度という状態であった。
しかし、日々の排泄で洋式トイレを使用する時には、自ら手すりを掴む意欲がみられ、起立動作も軽介助で膝も比較的伸ばすことができ、下衣の上げ下ろしが一度で済む程度に立位保持が可能であった。A氏は介護の場面によって同じ起立動作であっても介助量に差があった。そこに着目し、回診等にて他職種にも洋式トイレ使用時の立位動作の状況を共有しあい、洋式トイレ内での起立練習の実施提案を行なった。廊下での起立練習ではほとんど実施することができなかったが、洋式トイレ内だと5回×6セットの起立練習が軽介助でできることが分かり、それ以降起立練習を洋式トイレの手すりを用いて実施するようになった。
4.考察
小宅ら(2024)の研究によると、リハビリテーションにおける患者の意欲を高める主要な要因として、「明確な目標の設定」や「患者の生活に関係のある訓練」が挙げられている。A氏が洋式トイレ内でのみ起立が容易になるのは、「トイレ」という「場所」に行くことにより、何を行う場所なのかを認識することができ、「立たないといけない」という意識が働くことが影響していると考えられる。
また、リハビリ職員からはA氏の起立練習に苦労をしているとの情報を聞いており、トイレでの起立動作の様子を伝え、提案するとすぐに取り入れて実施することができた。介護職員が排泄ケアを行う中で気づいたことやリハビリ職員が困っていることが回診や日々のカンファレンスなどで情報共有できる体制があったことが重要な要因であったと言える。
5.終わりに
この症例では、A氏にとって目的が認識しやすい場所でリハビリが行えるようになったのは、日常生活での動作を見ての気付き、他職種間での情報共有が行えたことによる結果である。本事例を通して、リハビリの実施が困難な利用者であっても、日常生活動作の中では能力を発揮することができる場所があることを示唆することができた。今後も日々のケア実践における気付きを多職種間で共有し、個々の生活環境に合わせたリハビリテーションを実施できる体制づくりをしていきたい。