講演情報
[22-P-L001-06]老健での超音波療法導入と麻痺側拘縮への臨床的有用性
*牟田 博行、片岡 将貴、西村 真志保、稲森 有里 (大阪府 社会医療法人 若弘会 介護老人保健施設 竜間之郷)
【はじめに】
介護老人保健施設(以下、老健)におけるリハビリテーションは、生活期の要介護者に対するADLの維持・向上が主眼である。近年のリハビリ医療領域では、ロボット技術や高度な物理療法機器の導入が進む一方、老健においては予算や設置場所の確保に加えてスタッフの習熟など様々な制約があり、ホットパック等の温熱療法に限定されている施設も少なくない。当施設では、施設研究費および外部調査事業費を活用し、整形外科疾患のガイドラインでも推奨される超音波治療器を導入した経緯と、その運用・教育体制、および脳血管障害後の麻痺側拘縮に対する臨床的効果について報告する。
【導入のプロセスと教育体制の構築】
機器導入にあたっては、単なる物的な配置に留まらず、スタッフの専門性向上を主眼とした運用計画を策定した。当法人は約200名のリハビリテーションスタッフを擁し、入職時より「療法部教育ガイドライン」に基づいた体系的なキャリア形成を支援している。現在、法人内の回復期リハビリテーション病院に150名を配置し、急性期病院・当老健・在宅部門との間でジョブローテーションを実施している。通常は回復期での初期教育を経て、急性期医療を経験した後、希望に応じて療養病棟や老健・在宅などの生活期リハビリテーションを半年から1年程度習得する仕組みとなっている。当施設は超強化型老健として入所100床、通所リハビリテーション25名/日をPT5名、OT3名、ST2名の計10名で運営している。
しかし、広範な組織規模ゆえに、物理療法機器の習熟度や臨床応用力にはスタッフ間で偏りが生じている現状がある。特に生活期を担うスタッフが、限られた環境下でいかに効果的なアプローチを選択できるかは重要な課題である。そこで本機器の導入を契機に、以下の教育体制を整備した。
1.機器使用の標準化
物理療法機器の使用基準を新たに作成し、施設やキャリアを問わずスタッフ間の一定の技術水準とスキルの標準化を図った。
2.臨床現場での指導
ジョブローテーションの期間中のスタッフに対して、従来の徒手療法に本機器をどのように併用すべきかの臨床判断(クリニカル・リーズニング)を学ぶ機会を作った。これにより、スタッフが科学的根拠に基づいた物理療法を選択・施行できる環境を構築し、生活期リハビリテーションの質向上に寄与する体制を確立した。
【事例提示および介入効果】
対象は、脳血管障害後遺症により重度の痙性麻痺による関節拘縮を呈する通所リハビリテーションの利用者2名である。両者とも発症から2~6年が経過しており、麻痺側下肢の屈曲拘縮により立位の支持性低下を認め、移乗やトイレ動作で介助負担が増大していた。介入は超音波療法(5分)施行後に通常の関節可動域運動(5分)を行う手順とし、導入後3か月間の経過を報告する。事例には説明し同意を得ている。
症例A(50代女性)
くも膜下出血術後6年、要介護4。左片麻痺br/unnstrome stage(以下、br/s)上肢Ⅲ/下肢Ⅳ。定期的なボトックス注射中で、左膝伸展-10°の屈曲拘縮と内反尖足を有する。介入前のFunctional Balance Scale(以下、FBS)は20/56点、Functional Independence Measure(以下、FIM)106/128点(運動71点、認知35点)であった。従来の徒手的な関節可動域運動では伸張痛が強く、本人も消極的であった。超音波療法を大腿二頭筋および下腿三頭筋に5分間施行した結果、疼痛なく左膝伸展は-5°まで改善した。その結果、立位時の麻痺側荷重が容易となり、FBSは22/56点、運動FIMは72点へと向上し、介助量の軽減を認めた。
症例B(80代女性)
被殻出血後2年、右片麻痺br/s上肢Ⅱ/下肢Ⅲ、ブローカー失語あり。介入前のFBSは5/56点、FIM50/128点(運動31点、認知19点)。右膝伸展-30°の屈曲拘縮により、移乗やトイレ動作時に伸張痛を強く訴え、家族の介助量も増大していた。超音波療法を大腿二頭筋へ5分間施行した結果、痛みなく関節可動域制限が段階的に緩和し、右膝伸展は-15°まで改善した。導入3か月後にはFBS 6/56点、運動FIMは34点へと向上し、実用的な立位での介助量の軽減が確認された。
本介入を通じ、従来の痛みを伴う徒手アプローチでは困難であった拘縮の改善が、超音波療法との併用により短期間で実現可能であることが示された。本結果は、物理療法がADL向上や介助負担軽減に直結する重要な手段であることを示唆している。
【考察】
超音波療法は整形疾患への有効性が一部で示されているものの、脳血管障害後の拘縮へのエビデンスは未だ十分ではない。本報告では、超音波療法と徒手的な関節可動域運動の併用が、慢性期拘縮に対する疼痛緩和と関節可動域の改善に極めて有効であることが示唆された。深部組織への温熱・非温熱効果が疼痛閾値を上昇させ、関節可動域運動への心理的障壁と苦痛を軽減したことが、短期間での介助量軽減に繋がったと推察される。
老健における物理療法は、介入効率を向上させ、スタッフの介助負担を軽減する手法として有用である。また、法人規模のジョブローテーションを活かし、本知見を組織的に共有・教育することは、施設間の技術格差を是正し、生活期リハビリテーションの質を底上げするモデルとなる可能性が示唆された。今後は症例数を重ね、長期的ADL維持への寄与が可能かを検証したい。本知見が、限られた予算と人員で運営される老健において、物理療法を「苦痛の緩和」のみならず「ADL向上の能動的手段」へと再定義する一助となれば幸いである。
介護老人保健施設(以下、老健)におけるリハビリテーションは、生活期の要介護者に対するADLの維持・向上が主眼である。近年のリハビリ医療領域では、ロボット技術や高度な物理療法機器の導入が進む一方、老健においては予算や設置場所の確保に加えてスタッフの習熟など様々な制約があり、ホットパック等の温熱療法に限定されている施設も少なくない。当施設では、施設研究費および外部調査事業費を活用し、整形外科疾患のガイドラインでも推奨される超音波治療器を導入した経緯と、その運用・教育体制、および脳血管障害後の麻痺側拘縮に対する臨床的効果について報告する。
【導入のプロセスと教育体制の構築】
機器導入にあたっては、単なる物的な配置に留まらず、スタッフの専門性向上を主眼とした運用計画を策定した。当法人は約200名のリハビリテーションスタッフを擁し、入職時より「療法部教育ガイドライン」に基づいた体系的なキャリア形成を支援している。現在、法人内の回復期リハビリテーション病院に150名を配置し、急性期病院・当老健・在宅部門との間でジョブローテーションを実施している。通常は回復期での初期教育を経て、急性期医療を経験した後、希望に応じて療養病棟や老健・在宅などの生活期リハビリテーションを半年から1年程度習得する仕組みとなっている。当施設は超強化型老健として入所100床、通所リハビリテーション25名/日をPT5名、OT3名、ST2名の計10名で運営している。
しかし、広範な組織規模ゆえに、物理療法機器の習熟度や臨床応用力にはスタッフ間で偏りが生じている現状がある。特に生活期を担うスタッフが、限られた環境下でいかに効果的なアプローチを選択できるかは重要な課題である。そこで本機器の導入を契機に、以下の教育体制を整備した。
1.機器使用の標準化
物理療法機器の使用基準を新たに作成し、施設やキャリアを問わずスタッフ間の一定の技術水準とスキルの標準化を図った。
2.臨床現場での指導
ジョブローテーションの期間中のスタッフに対して、従来の徒手療法に本機器をどのように併用すべきかの臨床判断(クリニカル・リーズニング)を学ぶ機会を作った。これにより、スタッフが科学的根拠に基づいた物理療法を選択・施行できる環境を構築し、生活期リハビリテーションの質向上に寄与する体制を確立した。
【事例提示および介入効果】
対象は、脳血管障害後遺症により重度の痙性麻痺による関節拘縮を呈する通所リハビリテーションの利用者2名である。両者とも発症から2~6年が経過しており、麻痺側下肢の屈曲拘縮により立位の支持性低下を認め、移乗やトイレ動作で介助負担が増大していた。介入は超音波療法(5分)施行後に通常の関節可動域運動(5分)を行う手順とし、導入後3か月間の経過を報告する。事例には説明し同意を得ている。
症例A(50代女性)
くも膜下出血術後6年、要介護4。左片麻痺br/unnstrome stage(以下、br/s)上肢Ⅲ/下肢Ⅳ。定期的なボトックス注射中で、左膝伸展-10°の屈曲拘縮と内反尖足を有する。介入前のFunctional Balance Scale(以下、FBS)は20/56点、Functional Independence Measure(以下、FIM)106/128点(運動71点、認知35点)であった。従来の徒手的な関節可動域運動では伸張痛が強く、本人も消極的であった。超音波療法を大腿二頭筋および下腿三頭筋に5分間施行した結果、疼痛なく左膝伸展は-5°まで改善した。その結果、立位時の麻痺側荷重が容易となり、FBSは22/56点、運動FIMは72点へと向上し、介助量の軽減を認めた。
症例B(80代女性)
被殻出血後2年、右片麻痺br/s上肢Ⅱ/下肢Ⅲ、ブローカー失語あり。介入前のFBSは5/56点、FIM50/128点(運動31点、認知19点)。右膝伸展-30°の屈曲拘縮により、移乗やトイレ動作時に伸張痛を強く訴え、家族の介助量も増大していた。超音波療法を大腿二頭筋へ5分間施行した結果、痛みなく関節可動域制限が段階的に緩和し、右膝伸展は-15°まで改善した。導入3か月後にはFBS 6/56点、運動FIMは34点へと向上し、実用的な立位での介助量の軽減が確認された。
本介入を通じ、従来の痛みを伴う徒手アプローチでは困難であった拘縮の改善が、超音波療法との併用により短期間で実現可能であることが示された。本結果は、物理療法がADL向上や介助負担軽減に直結する重要な手段であることを示唆している。
【考察】
超音波療法は整形疾患への有効性が一部で示されているものの、脳血管障害後の拘縮へのエビデンスは未だ十分ではない。本報告では、超音波療法と徒手的な関節可動域運動の併用が、慢性期拘縮に対する疼痛緩和と関節可動域の改善に極めて有効であることが示唆された。深部組織への温熱・非温熱効果が疼痛閾値を上昇させ、関節可動域運動への心理的障壁と苦痛を軽減したことが、短期間での介助量軽減に繋がったと推察される。
老健における物理療法は、介入効率を向上させ、スタッフの介助負担を軽減する手法として有用である。また、法人規模のジョブローテーションを活かし、本知見を組織的に共有・教育することは、施設間の技術格差を是正し、生活期リハビリテーションの質を底上げするモデルとなる可能性が示唆された。今後は症例数を重ね、長期的ADL維持への寄与が可能かを検証したい。本知見が、限られた予算と人員で運営される老健において、物理療法を「苦痛の緩和」のみならず「ADL向上の能動的手段」へと再定義する一助となれば幸いである。
