講演情報

[22-O-L010-07]介護職を経験したPTが捉えた生活リハビリの本質

*加藤 和晃 (千葉県 ロータスケアセンター)
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【はじめに】
自身は回復期リハビリ病院で理学療法士(以下、PT)として3年間勤務した後、介護老人保健施設(以下、老健)で夜勤を含む介護職として6年間勤務し、リハビリテーション(以下、リハ)と24時間の生活支援の双方を経験した。その後、現在は超強化型の当施設でPTとして勤務し、介護職経験で得た生活者視点を活かしながら理学療法を実践している。介護職として利用者の24時間の生活に関わる中で、リハでは「できる」動作が生活場面では十分に発揮されないことを多く経験した。その背景には、身体機能だけでなく、生活環境や介助方法、時間帯など生活そのものが影響していることを実感した。そこで本演題では、介護職経験で得た生活者視点を理学療法の評価・介入へ取り入れ、「できる活動」を「している活動」へつなげるための評価・介入の枠組みについて報告する。
【背景】
老健におけるリハは身体機能の向上を図る重要な役割を担っている。しかし、リハ場面では歩行や移乗が自立していても、実際の生活場面では同じように実践できない利用者は少なくない。特に排泄や移動は時間に余裕がなく、焦りや周囲の環境、職員の声かけ、生活リズムなどの影響を受けやすく、リハで獲得した能力が十分に発揮されないことが多くみられる。私は介護職として夜勤を含む24時間の生活支援に携わる中で、このような生活場面にこそ利用者の本当の課題が現れることを実感した。リハ場面だけでは把握できない生活上の課題が数多く存在し、それらを理解することが生活リハには不可欠であると考えた。そのため、理学療法士は短時間の介入で「できる活動」を引き出し、介護職は24時間の生活の中で「している活動」として定着させるという、それぞれの専門性を生かした連携が重要である。生活リハの質を高めるためには、リハだけでなく「生活そのもの」を評価し、その視点を理学療法評価・介入へ取り入れることが必要である。
【方法】
職種間で異なる視点や役割への理解不足によって生じる、「できる活動」と「している活動」の差を埋めることを目的に、介護職経験で得た生活支援の視点を取り入れた理学療法評価・介入の枠組みを作成した。本枠組みは、「生活場面を見て評価すること」「介護職の気づきを評価に生かすこと」「多職種で支援方法を考えること」の3つを柱としている。第一に、生活場面を見て評価することを重視した。従来のリハ場面での評価では、身体機能や基本動作を中心に確認することが多いが、実際の生活では時間帯や生活リズム、周囲の環境、介助方法など様々な要因が動作に影響する。そのため、朝・食事・排泄・夜間など24時間の生活場面を評価対象とし、利用者が生活環境の中でも能力を発揮できるかを確認した。また、時間的な制約や周囲の利用者の存在、職員の声かけ、人や物の配置など、生活場面特有の条件が動作へ与える影響についても評価した。第二に、介護職の気づきを評価へ取り入れた。介護職は24時間の生活を支える中で、利用者の小さな変化を継続的に観察している。「今日はいつもより動きが悪い」「夕方になると疲労が目立つ」「排泄場面では介助量が増える」「声かけによって動きが変わる」など、リハ場面だけでは把握しにくい情報を理学療法評価へ反映した。介護職の経験で得た生活場面での気づきを評価情報として整理し、生活の中で能力を発揮できない要因を多面的に捉えられるようにした。第三に、PTと介護職が共に支援方法を考える仕組みを構築した。PTは動作分析を基に「どのような条件であれば能力を発揮できるか」を提示し、介護職は生活の中で実際に生じている課題や介助時の工夫を共有する。双方の視点をすり合わせることで、評価内容や介助方法を見直し、訓練室で獲得した能力を生活場面へ結び付ける支援につなげた。現在、この枠組みは在宅復帰を目標とし、入所後訪問を実施する利用者を対象に運用している。
【結論】
生活リハの本質とは、リハ場面で獲得した「できる活動」を生活の中で「している活動」として定着させることである。その実現には、PTだけ、あるいは介護職だけの支援では十分ではない。PTは利用者の能力を評価し、「できる活動」を引き出す役割を担い、介護職は24時間の生活の中でその能力を繰り返し実践できるよう支援し、「している活動」へと定着させる役割を担う。そのためには、お互いの専門性や業務特性、時間的制約を理解し合い、それぞれの視点を共有しながら支援することが重要である。さらに、PTが生活を理解し、介護職が動作分析の視点を共有する双方向の連携によって、リハ場面と生活場面の差を小さくすることができると考える。介護職としての経験で得た生活者視点を理学療法評価・介入へ取り入れることは、生活リハの質を高め、「できる」を「している」へつなげるための有効な枠組みであることが示唆された。
【まとめ】
生活リハは、リハ場面で完結するものではなく、24時間の生活の中で成り立つものである。本演題では、介護職経験で得た生活者視点を理学療法へ取り入れ、「できる活動」を生活の中の「している活動」へつなげる支援の枠組みを提案した。その実現には、PTが能力を引き出し、介護職が生活の中でそれを定着させるなど、それぞれの専門性を生かした連携が重要である。また、多職種がお互いの視点や役割を共有することで、リハ場面と生活場面の差を小さくできると考える。今後も本枠組みの実践と検証を重ね、生活リハの質の向上と、利用者一人ひとりの「その人らしい生活」の実現に貢献していきたい。
【参考文献】
1.世界保健機関(編): 国際生活機能分類(ICF)日本標準版, 2002.
2.全国介護老人保健施設協会(編): 介護老人保健施設における生活リハビリテーションプログラムガイドライン, 2012.