講演情報

[22-O-J003-03]自分らしく笑顔で過ごせる生活を目指して口腔機能訓練から広がるデイケアの可能性

*岩崎 美子、松田 愛美、三輪 美瑛 (東京都 介護老人保健施設 カトレア)
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【はじめに】
介護老人保健施設カトレアは東京都日野市にある入所定員140名・通所定員80名の大規模施設である。通所リハビリテーション(以下デイケア)ではR7年度の平均稼働率は95.0%、R8年度4月~6月までの平均稼働率も96.5%で運営している。
【目的】
当施設では、施設方針として算定可能な加算は積極的に取得するという方針のもと、令和7年4月より口腔機能向上加算の算定を開始した。当初は、職員も知識や経験が十分ではなく、試行錯誤しながらの取り組みであった。一方で、口腔機能訓練は「食べる機能」の維持・向上だけでなく、「笑う」「話す」「自分の思いを伝える」といった「人とつながる」ためのコミュニケーションにも影響を及ぼす可能性がある。そこで、本取り組みの経過と、口腔機能訓練を継続する中で得られた利用者の変化について報告する。
【方法】
口腔機能向上加算導入にあたり、約1年前から看護師へ継続的に周知を行い、口腔機能訓練に対する意識づけを図った。開始当初は担当看護師から「何をすればよいのかわからない」という言葉も聞かれたが、STの協力を得ながら訓練方法を検討し、段階的に体制を整備した。訓練開始前に全利用者および家族へ案内を行い、約70名(利用登録者数の29.2%)の利用者を対象とし、看護師間で話し合いを行い、訓練は第2・第4週の月曜日から金曜日に実施、1回10名程度の小集団形式として実施した。会議室やレクリエーションルームなどを活用し、誘導については介護職員や担当以外の看護師も協力し、部署全体で取り組んだ。訓練内容としては動画教材を活用した体操を中心に、パタカラ体操、口腔周囲筋マッサージ、早口言葉、歌唱などを組み合わせて実施した。
【結果】
訓練を継続する中で、場所への誘導、動画機器の準備、振替日の調整などの運営上の課題や、一度に10名程度を対象とすることで、個別性の高い関わりが難しいことなどの課題が明らかになった。これらの課題に対し、実施内容は担当看護師それぞれの工夫を大切にし、限られた人員や時間の中で担当者の負担軽減と利用者に向き合う時間の確保を目指し試行錯誤を重ね、独自の訓練日管理表を活用した運用につながった。また、実施を重ねる中で看護師自身も訓練の進め方を習熟し、当初動画教材が中心であった訓練も看護師それぞれが利用者の反応や特性に応じたオリジナルプログラムを展開するようになった。訓練を重ねる中で、参加者同士の交流や会話が自然に生まれ、口の動きや発生が大きくなるなどの変化も見られた。中には右硬口蓋がんの治療で右顎部切除をしたため、口が開きづらくはっきりしゃべることが困難で、他者との交流や人前でマスクを外すこと、さらには飲水までも嫌がり、ST不在時にはデイケアの利用を休んでいた利用者が、継続参加により休むことがなくなり、「椅子タップダンスクラブ」などにも積極的に参加するようになった事例もみられた。さらに、アンケートを実施したところ、「声が出る時はうれしい」「これからも参加したい」「気分が明るくなった」などの前向きな回答が多くみられた。3ヶ月ごとの計画書説明時に継続意向も確認しているが、95%が継続を希望した。ご家族からも、「家で練習している」「以前より話すようになった」という声が聞かれた。一方で、「口腔機能の変化を感じない」という回答もみられた。口腔機能訓練をきっかけに、介護士による口腔体操も見直され、昼食前・おやつ前に毎日実施する体制へと発展した。看護師・介護士が連携し、口腔機能への意識が部署全体へ広がる取り組みとなった。
【考察】
口腔機能訓練というと言語機能や嚥下機能の改善が目的になりがちだが、それだけでなく利用者の社会参加や人とつながる機会の拡大にもつながる可能性が示唆された。特に、音楽や歌唱、レクリエーション要素を取り入れたことで、「訓練」という抵抗感が軽減され、楽しみながら継続できる環境づくりにつながったと考える。「口腔機能の変化を感じない」という回答は、口腔機能の低下を防ぎ、現状を維持できている結果とも考えられるのではないだろうか。また、昼食時のむせ込みが減少し、「最近は吸引器を使う機会がほとんどなくなった」と看護師の間で話題になるなど、日々の観察からも効果が感じられている。本取り組みを継続できた要因として、利用者だけでなく担当看護師も楽しみながら、無理なく対応できる環境づくりも重要であったと考える。看護師は交代で毎日配置しているが、利用状況や業務の都合により対象者が少ない日や実施できない日もある。しかし、実施の有無だけで評価するのではなく、「続けること」を重視し、実施できなかったことを責めない風土づくりを心掛けた。その結果、担当看護師それぞれの工夫やアイデアに繋がり、その結果、利用者の「楽しい」「回数を増やしてほしい」といった継続意欲につながったと考えられる。身体機能へのアプローチだけでなく、「話す」「笑う」「人とつながる」といった生活機能への支援もデイケアにおける重要な役割である。利用者の変化が、職員のやりがいにもつながり、その積み重ねが、利用者・職員双方に好循環をもたらしたと考える。
【まとめ】
私達は当初、口腔機能訓練の取り組みは、利用者の「食べる力」を支援するものと捉えていた。当初は利用者や家族も「食べる力」を支える取り組みとして受け止めていたと考える。しかし実際には、「話す」「笑う」「社会活動に参加する」といった、その人らしい生活につながる変化を数多く経験することができた。利用者が自分らしく過ごせる生活を支えるためには、利用者だけでなく職員も無理なく継続できる環境づくりが重要であると考える。今後も、「話す」「笑う」「人とつながる」ことを大切にし、一人ひとりが「自分らしく笑顔で過ごせる生活」を支えるデイケアを目指して取り組みを継続していきたい。