講演情報
[22-P-P101-04]生成AIと協調する気づきシートの課題分類~現場の声と経営的判断~
*上岡 暢子、山田 哲也 (栃木県 介護老人保健施設あそヘルホス)
【背景・目的】
厚生労働省が推奨する介護現場の生産性向上において、多職種から現場の課題を網羅的に抽出する「気づきシート」(ステップ2)は極めて有効な手法である。しかし、回収された大量の定性データを、具体的な解決の切り口である「どう改善するか」(ステップ3:3Mや業務の仕分けの軸)へ整理し直すプロセスにおいては、多くの施設が時間的負荷と分析バイアスという障壁に直面する。
質的データ分析において、現場を熟知する当事者が手作業でコーディング(仕分け)を行うと、背景にある人間関係や文脈を深読みしすぎる傾向がある。質的データ分析の実務では、当事者バイアスによる「過度な細分化(過剰コーディング)」が分析を複雑化させ、全体像の把握を困難にする落とし穴として広く認識されている。現場職員の主観や日々の「痛み」に引っ張られてカテゴリが細分化しすぎると、経営・管理者層がリソースをどこに優先投入すべきかという全体最適の判断を下すことが困難となる。
本研究の目的は、厚生労働省のガイドラインが示す「ステップ2(課題抽出)」から「ステップ3(解決の切り口への変換)」の難所において、現場職員による現場発想(ボトムアップ)分類と、公式ガイドラインの文脈を理解させた生成AIによる課題解決志向(トップダウン)分類の特性を比較評価し、双方を相補的に融合させる生成AIと人間の協調型(ハイブリッド)プロセスの、意思決定支援としての有用性を実証することである。
【対象と方法】
当施設の全職種・全職員約65名を対象とした。2026年3月に「気づきシート」を配布し、回収された有効データ139件を検証データセットとした。今回は手書きでの回収を行ったため、アナログデータをデジタル化する初期入力作業に約5時間を要した。
このデジタル化された139件に対し、次の2つのアプローチで比較検証を行った。
アプローチA(手作業による現場発想分類)は、プロジェクトメンバー2名が議論しながら共同で仕分けを実施した。
アプローチB(課題解決志向分類)は、厚生労働省の公式ガイドライン等を前提として生成AIに指示した上で、解決の切り口から逆算した生産性向上6大カテゴリへの自動分類を実施した。なお、本研究では生成AIとして、Anthropic社製の大規模言語モデル「Claude Sonnet 5(2026年7月)」を使用した。
【結 果】
アプローチAでは、メンバー2名による議論と仕分け完了までに3時間(180分)を要し、現場の感情や日々の「痛み」がそのまま反映された結果、カテゴリ数は22にまで細分化された。項目は構造的な業務課題から個々の心情に関わるものまで多岐にわたった。このボトムアップ分類は現場の当事者意識を高める一方、強弱が消えるため、経営者が優先領域を判断することは困難であった。
これに対しアプローチBでは、139件が瞬時に生産性向上6大カテゴリへと分類された。内訳は、業務の明確化・役割分担が最多の54件、職場環境・リスクマネジメントが36件、マネジメント体制・人事処遇が21件、テクノロジーの活用が13件、記録・報告の簡素化が8件、情報共有の工夫が7件であった。感情を排除した比率算出により、経営層は役割分担の明確化への優先投資という選択と集中の判断をクリアに行うことが可能となった。しかし、生成AIには職種間の人間関係等の文脈を読み取れない弱点も同時に浮き彫りとなった。
【考 察】
どちらか一方のアプローチのみで進めると、プロジェクトは破綻する。現場発想のみでは要望の羅列に終わり、課題解決志向のみでは現場の協力が得られず改善策が形骸化する。
したがって、現場発想で職員の「痛み」を丁寧に拾い上げ(22分類)、それを経営・管理者が意思決定を下せるガイドラインの枠組み(生成AIの6大カテゴリ)へ収納し直すという協調プロセスが有効である。この協調プロセスにより、手作業では3時間を要していた構造化作業が、生成AIによって瞬時に、かつ経営判断に耐えうる粒度で完了する。整理された6大カテゴリは、次段階のワークショップでの因果関係図(原因・結果・悪影響作成)の客観的な出発点となり、多職種の合意形成が仕分けを巡る感情論に陥ることを防ぐ。これにより、最終的な意思決定に至るまでの労力を、具体的な改善策の策定へ集中させることが可能となる。
なお、本研究は自施設1件における単一事例の検証であり、業種構成や職員数が異なる施設への一般化には慎重を要する点は限界として付記する。
【結 論】
現場発想分類と課題解決志向分類は対立するものではなく、相互に補い合う不可欠な両輪である。データ化に約5時間、手作業仕分けに3時間を要する現場の実態があるからこそ、生成AIとの協調によってこの初期の構造化プロセスをいかに高速化するかが鍵となる。生成AIの構造化能力を経営判断可能な形への翻訳の道具として活用し、人間の文脈理解を融合させる協調型プロセスは、後続の意思決定ワークショップを感情論から解放する土台となる可能性が、本施設の検証から示唆された。
厚生労働省が推奨する介護現場の生産性向上において、多職種から現場の課題を網羅的に抽出する「気づきシート」(ステップ2)は極めて有効な手法である。しかし、回収された大量の定性データを、具体的な解決の切り口である「どう改善するか」(ステップ3:3Mや業務の仕分けの軸)へ整理し直すプロセスにおいては、多くの施設が時間的負荷と分析バイアスという障壁に直面する。
質的データ分析において、現場を熟知する当事者が手作業でコーディング(仕分け)を行うと、背景にある人間関係や文脈を深読みしすぎる傾向がある。質的データ分析の実務では、当事者バイアスによる「過度な細分化(過剰コーディング)」が分析を複雑化させ、全体像の把握を困難にする落とし穴として広く認識されている。現場職員の主観や日々の「痛み」に引っ張られてカテゴリが細分化しすぎると、経営・管理者層がリソースをどこに優先投入すべきかという全体最適の判断を下すことが困難となる。
本研究の目的は、厚生労働省のガイドラインが示す「ステップ2(課題抽出)」から「ステップ3(解決の切り口への変換)」の難所において、現場職員による現場発想(ボトムアップ)分類と、公式ガイドラインの文脈を理解させた生成AIによる課題解決志向(トップダウン)分類の特性を比較評価し、双方を相補的に融合させる生成AIと人間の協調型(ハイブリッド)プロセスの、意思決定支援としての有用性を実証することである。
【対象と方法】
当施設の全職種・全職員約65名を対象とした。2026年3月に「気づきシート」を配布し、回収された有効データ139件を検証データセットとした。今回は手書きでの回収を行ったため、アナログデータをデジタル化する初期入力作業に約5時間を要した。
このデジタル化された139件に対し、次の2つのアプローチで比較検証を行った。
アプローチA(手作業による現場発想分類)は、プロジェクトメンバー2名が議論しながら共同で仕分けを実施した。
アプローチB(課題解決志向分類)は、厚生労働省の公式ガイドライン等を前提として生成AIに指示した上で、解決の切り口から逆算した生産性向上6大カテゴリへの自動分類を実施した。なお、本研究では生成AIとして、Anthropic社製の大規模言語モデル「Claude Sonnet 5(2026年7月)」を使用した。
【結 果】
アプローチAでは、メンバー2名による議論と仕分け完了までに3時間(180分)を要し、現場の感情や日々の「痛み」がそのまま反映された結果、カテゴリ数は22にまで細分化された。項目は構造的な業務課題から個々の心情に関わるものまで多岐にわたった。このボトムアップ分類は現場の当事者意識を高める一方、強弱が消えるため、経営者が優先領域を判断することは困難であった。
これに対しアプローチBでは、139件が瞬時に生産性向上6大カテゴリへと分類された。内訳は、業務の明確化・役割分担が最多の54件、職場環境・リスクマネジメントが36件、マネジメント体制・人事処遇が21件、テクノロジーの活用が13件、記録・報告の簡素化が8件、情報共有の工夫が7件であった。感情を排除した比率算出により、経営層は役割分担の明確化への優先投資という選択と集中の判断をクリアに行うことが可能となった。しかし、生成AIには職種間の人間関係等の文脈を読み取れない弱点も同時に浮き彫りとなった。
【考 察】
どちらか一方のアプローチのみで進めると、プロジェクトは破綻する。現場発想のみでは要望の羅列に終わり、課題解決志向のみでは現場の協力が得られず改善策が形骸化する。
したがって、現場発想で職員の「痛み」を丁寧に拾い上げ(22分類)、それを経営・管理者が意思決定を下せるガイドラインの枠組み(生成AIの6大カテゴリ)へ収納し直すという協調プロセスが有効である。この協調プロセスにより、手作業では3時間を要していた構造化作業が、生成AIによって瞬時に、かつ経営判断に耐えうる粒度で完了する。整理された6大カテゴリは、次段階のワークショップでの因果関係図(原因・結果・悪影響作成)の客観的な出発点となり、多職種の合意形成が仕分けを巡る感情論に陥ることを防ぐ。これにより、最終的な意思決定に至るまでの労力を、具体的な改善策の策定へ集中させることが可能となる。
なお、本研究は自施設1件における単一事例の検証であり、業種構成や職員数が異なる施設への一般化には慎重を要する点は限界として付記する。
【結 論】
現場発想分類と課題解決志向分類は対立するものではなく、相互に補い合う不可欠な両輪である。データ化に約5時間、手作業仕分けに3時間を要する現場の実態があるからこそ、生成AIとの協調によってこの初期の構造化プロセスをいかに高速化するかが鍵となる。生成AIの構造化能力を経営判断可能な形への翻訳の道具として活用し、人間の文脈理解を融合させる協調型プロセスは、後続の意思決定ワークショップを感情論から解放する土台となる可能性が、本施設の検証から示唆された。
