講演情報
[22-P-TZ-03]老健における全職種タイムスタディとDXによる連携最適~「見えない多忙感」の正体とその解消~
*黒木 勝紀1、小此木 直人1、平形 佳之1、結城 崇2、井上 宏貴3、田中 志子1 (群馬県 1. 介護老人保健施設大誠苑、2. 株式会社最中屋、3. ㈱H&Mサービス)
【はじめに】介護老人保健施設(以下、老健)において、質の高いケアと在宅復帰支援を継続するためには、多職種協働の円滑化と現場の生産性向上が急務である。当苑では全老健版ケアマネジメント方式R4システムの理念を基盤に連携を推進しているが、業務フローには専門職間の「情報分断」が存在している。これにより、連携を深めるほど連絡・調整などの間接業務が増大するというジレンマが生じており、現場の慢性的な「見えない多忙感」が大きな課題となっていた。【目的】本研究の目的は以下の2点である。第一に、タイムスタディ調査により当苑の全職種における業務実態を定量的に可視化し、現場を圧迫している「見えない多忙感」の真の要因(ボトルネック)を明らかにすること。第二に、その課題に対し、情報共有効率化ソリューション(アプリ)を用いた抜本的な現場改善モデルを導入し、施設全体のマルチタスク構造がどのように解体されるかを検証すること。【方法】1) 対象:介護老人保健施設 大誠苑(以下、当苑)に勤務する全職種(計66名)。2) 期間:事前(Before)2025年11月3日~11月14日(2週間)。事後(After)2026年2月9日~2月20日(2週間)。3) 方法:現状分析として、タイムスタディ調査アプリ「ハカルト」を使用し、対象者の全業務を秒単位で記録・測定した。次に、その結果から抽出された課題に対し、アセスメントデータを横断的に統合し非同期連携を可能にする多職種連携支援システム「ミタスト」を導入・評価した。「ハカルト」「ミタスト」は株式会社最中屋の製品であり、当苑との共同研究として実施しているが、金銭的利益相反はない。【結果】総測定時間は事前・事後を合わせて約3,794時間(事前:118,090分、事後:109,575分) に及ぶタイムスタディ分析から、職種の垣根を越えた構造的な共通課題が明確に浮かび上がった。第一に「日中の高密度なマルチタスク構造」である。介護職の排泄介助ピーク帯(10~11時、17時頃)や、医療・リハ職の午前稼働ピーク帯(9~11時頃)といった「直接ケアの最盛期」において、大量の「間接介護(事務・情報共有等)」が重複して発生している実態が確認された。職員の多忙感は、ケアの絶対量ではなく、過密な時間帯に事務処理を並行せざるを得ないタイムスケジュールの重層構造に起因していた。第二に「全職種のランキング上位を占拠する共通のボトルネック項目」である。各専門業務のすぐ裏側に、常に以下の3つの間接業務がトップ層に食い込んでいることが示された。「記録」業務は介護職10位(2,090分)、看護職員4位(1,464分)、理学療法士5位(1,047分)。「内部連絡調整」は理学療法士2位(2,057分)、相談職全体3位(1,546分)、支援相談員2位(545分)。「書類準備・計画」「カンファレンス」は相談職全体の上位を独占し、支援相談員の1位(書類準備609分)、介護支援専門員の1位(カンファ1,328分)・2位(書類準備1,120分)を占有していた。さらに「1人1日あたりの総拘束時間」を積算した結果、相談職で約238分(3時間58分)、栄養職で約144分、医療・リハ職で約103分もの時間が、純粋な連絡・記録・書類業務に奪われていることが判明した。【考察】本調査では、介護老人保健施設に勤務する全職種を対象にタイムスタディを実施し、職種別・業務内容別・時間帯別に業務実態を把握した。その結果、各職種の専門業務に加え、記録、内部連絡調整、書類準備、カンファレンス等の間接業務が一定の時間を占めていることが確認された。また、直接ケアや専門職業務が集中する日中の時間帯に、これらの間接業務も重なって発生している傾向がみられた。このことから、職員が感じる多忙感には、業務量そのものだけでなく、複数の業務を同時並行で処理する時間帯の重なりが影響している可能性がある。一方で、これらの間接業務は、多職種協働や在宅復帰支援、リスク管理、ケアの継続性を支えるうえで必要な業務でもある。そのため、単純に削減対象とするのではなく、必要な業務と重複・非効率が生じている業務を整理する必要がある。今後は、今回明らかとなった間接業務の内容を整理し、多職種連携支援システム「ミタスト」の導入により、業務時間や業務プロセスにどのような変化が生じるかを検証していく。【結論】全職種を対象としたタイムスタディにより、当苑における業務実態を定量的に把握することができた。その結果、各職種において、記録、内部連絡調整、書類準備、カンファレンス等の間接業務が一定の時間を占めていること、また日中の直接業務が集中する時間帯に、これらの間接業務も重なって発生していることが確認された。今回の調査により、これまで感覚的に捉えられていた「見えない多忙感」の一部を、業務内容別・時間帯別のデータとして可視化することができた。今後は、多職種連携支援システム「ミタスト」の導入後に、間接業務の時間や業務プロセスがどのように変化するかを検証し、第2報として報告する予定である。
