講演情報

[22-P-TZ-04]データに基づくAIケアプラン作成支援と業務構造変革~タイムスタディと心理的指標を用いた多角的効果検証~

*平形 佳之1、小此木 直人1、黒木 勝紀1、結城 崇2、井上 宏貴3、田中 志子1 (群馬県 1. 介護老人保健施設大誠苑、2. 株式会社最中屋、3. (株)H&Mサービス)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【はじめに】 介護老人保健施設は、利用者の在宅復帰を支援する上で、多職種による緻密なケアプラン作成と連携が不可欠である。しかし、従来のケアマネジメント業務は、アセスメントデータの集約や計画書作成に伴う膨大な事務作業が職員の負担となっている。さらに、多職種間での対面や電話による同期的な情報共有・調整業務が、本来の直接的な対人ケアの時間を圧迫し、職員の心理的ストレスを高める要因となっている。 【目的】 全老健版ケアマネジメント方式(R4システム)の理念を基盤とし、LIFEデータ等と連携した「AIケアプラン作成支援システム」を当施設に導入し、その有用性を検証することである。具体的には、タイムスタディを用いた「業務構造」の見える化を図るとともに、AIによる原案作成とテクノロジーによる情報共有の非同期化を導入した。効果検証として職員を対象に心理的指標を用いた評価を実施し、「業務時間の変化」および「職員の心理的安全性」に及ぼす効果を明らかにすることを目指した。 【方法】 当施設において、タイムスタディアプリ「ハカルト」およびAIケアプラン作成支援システム「ミタスト」を導入した。本システムは、介護記録ソフトと連携し、ルールベースとAIによる自然言語処理を用いてケアプラン原案を自動生成する機能や、多職種がシステム上で情報を共有・承認する非同期カンファレンス機能を有する。 システム導入の有用性を検証するため、以下の多角的な効果測定を実施した。 (1) タイムスタディアプリ「ハカルト」を用いた業務時間の定量的変容分析:システム導入前後において、主要3職種(介護職、医療・リハ職、相談職)の全業務をリアルタイムで記録し、ケアプラン作成関連業務の所要時間の推移と時間帯別の動態を比較検証した。 (2) 心理的ストレス反応尺度(SRS-18)および主観的モチベーション調査を用いた定性的評価:システム導入による業務効率化が、職員の心理的負担感や労働意欲に与える影響を測定した。  「ハカルト」「ミタスト」は株式会社最中屋の製品であり、当苑との共同研究として実施しているが、金銭的利益相反はない。【結果】 タイムスタディによるミクロ分析(Before)の結果、主要3職種の時間帯別動態クロス分析から、解決すべき「時間管理上の真のボトルネック」が特定された。 第一に、対人ケアを分断する「日中の連絡調整の山」である。朝の連絡・調整業務が、介護職(8時帯:計310分)、医療・リハ職(8~9時帯:計1,082~1,497分)、相談職(9時帯:計1,201分)と特定時間帯に強烈な山を形成。最も現場が動く時間に細切れの対応を迫られ、直接ケアが構造的に「分断」されていた。 第二に、夕方以降に押し寄せる「デスクワークの集中」である。相談職の計画作成(14~15時帯:計1,023~1,061分)、医療・リハ職の計画・記録(15~17時帯:最大1,109分)が連続して発生し、日中に処理しきれない事務負担が勤務後半へ雪崩式に押し寄せていた。 システム導入後(After)、これらの課題に対し明確な改善が確認された。AIによる原案提示と情報の非同期化により、ゼロから起稿する負担が軽減され、計画作成業務の1回あたり平均所要時間が18.2分から15.0分(17.6%減)へ、モニタリング業務が19.9分から9.4分(52.8%減)へ短縮した。また、PC端末での回覧や非同期ヒアリングにより、日中の連絡調整スパイクが緩和され、夕方の事務集中も平準化に向かう傾向が確認された。 定性評価(SRS-18)では、心理的ストレススコアが微減(平均30.5点→29.2点)した。さらに、経験1年未満の新人層における「仕事のやりがい」が、導入前のマイナス予測から実運用後にプラスへと転じる結果(-1.60→+0.17)が得られた。 一方で、経験2年目以上の職員やその他の項目においては、短期間での顕著な心理的指標の変化は認められなかった。【考察】 本研究におけるAIシステムの導入効果は、単なる「書類作成時間の短縮」に留まらない。タイムスタディ調査が浮き彫りにした「日中のケア分断」と「夕方の雪崩現象」という構造的課題に対し、「AIによる原案作成」と「情報の非同期共有」が有効となる可能性が示唆された。特に注目すべきは、書く作業(モニタリング等)を効率化したことで捻出された時間が、利用者理解を深める「アセスメント時間(全体で32.3%増)」へと再配分された点である。職員が細切れの連絡対応から解放され、テクノロジーによる業務構造の変革が利用者のQOL向上に直結する「直接的な対人ケアとアセスメントの質の向上」へと繋がる可能性が示唆された。 一方で心理的負担感に大きな変化が見られなかった背景として、「新しいシステムの導入や操作習得に伴う初期の負担感(慣れの問題)」が影響した可能性が考えられる。【結論】 データに基づくAIケアプラン作成支援システムの導入は、ケアマネジメント業務の効率化のみならず、多職種連携のあり方を根本から変革するアプローチである。タイムスタディによるミクロな実態把握とAIテクノロジーの融合が、専門性をより発揮しやすくするための環境整備に向けた、有効な示唆を与えたと考えられる。今後は、この創出された時間を『利用者への良質なケア』へと着実に還元していく具体的な実践を積み重ね、老健における新たなスタンダードモデルの確立を目指していきたい。