講演情報

[22-P-D001-04]認知症チームケア推進加算の現場効果の検証

*堤 崇哉1、小此木 直人1、新谷 夏海2、岡村 達也1、井上 宏貴3、田中 志子1 (群馬県 1. 医療法人大誠会 介護老人保健施設大誠苑、2. 社会福祉法人久仁会 特別養護老人ホームくやはら、3. (株)H&Mサービス)
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【背景・目的】令和6年度介護報酬改定により、認知症チームケア推進加算が新設された。本加算は、認知症ケアに関する専門研修を修了した職員の配置と、定期的なワークシートを用いたチームカンファレンスの実施を要件とし、行動・心理症状(BPSD)の予防および早期対応を目的としている。しかし、加算導入が利用者のBPSDにどのような変化をもたらすかを検討した報告はほとんど存在せず、現場における実効性は十分に明らかになっていない。そこで本研究では、当法人運営の介護老人保健施設(以下、老健)の認知症専門棟を対象に、加算開始前後のBPSD13Qデータおよび介護職員アンケート結果を後ろ向きに分析した。これにより、加算導入が利用者のBPSDおよび職員の意識にもたらす変化を多角的に検証し、加算の現場効果を可視化することを目的とした。【方法】研究デザインは後ろ向き観察研究(前後比較デザイン)とした。期間は、加算開始前(令和5年12月~令和6年3月:以下、R5期)、開始後半年(令和6年12月~令和7年3月:以下、R6期)、開始後1年半(令和7年12月~令和8年3月:以下、R7期)の3期間を設定した。研究対象施設は老健大誠苑認知症専門棟とし、対象者は各期の12月に新規入所し、3ヵ月以上継続して在籍した者(各期4名、4名、6名、延べ14名)とした。主要アウトカムは、評価者を担当介護職員とするBPSD13Qの重症度合計および負担度合計の3ヵ月間の変化量とした。副次アウトカムには、令和8年6月に実施した介護職員意識調査(4段階評価:1.そう思わない~4.そう思う、有効回答数19名)を用いた。調査項目は、カンファレンスを通じた利用者理解の深まり、意見表出のしやすさ、ワークシートを用いたBPSD背景の考察、BPSD対応への自信、アセスメントの視点・知識の広がり、および業務負担感(記載・準備・参加)である。統計解析には、3群間比較にKruskal-Wallis検定、各期内における前後比較にWilcoxon符号順位検定を用いた。対象者の背景因子(年齢、要介護度、寝たきり度、認知症自立度)についても同様に群間の同質性を確認した。【結果】対象者の背景因子において3期間に統計学的有意差は認められず、各コホートの背景は同質であった。主要アウトカムであるBPSD13Q重症度合計の3ヵ月変化量は、加算開始前(R5期)が+2.8であったのに対し、開始後半年(R6期)は-0.5、開始後1年半(R7期)は-1.5と推移した。負担度合計の変化量も、R5期+0.5、R6期+1.2、R7期-0.2であった。3期間の比較および各期内の前後比較において統計学的有意差は認められなかったが、加算開始前はBPSDが悪化傾向にあったのに対し、導入後は半年時点で横ばい、1年半時点では改善方向へとシフトする明確な推移の傾向が観察された。副次アウトカムである介護職員意識調査(n=19)では、「カンファレンスを通じた利用者理解の深まり(平均3.05点)」や「ワークシートを用いたBPSD背景の考察(2.84点)」が比較的高く評価された。一方で、「BPSD対応への自信(2.32点)」や「アセスメント知識の広がり(2.21点)」は低値にとどまった。また、記載に伴う負担感(2.84点)や準備・参加の負担感(2.74点)は中間値を上回った。経験年数別の分析では、経験4~5年目の職員で業務負担感が最も高く(3.50点)、自由記述でも「書類業務が優先になっている」との指摘があった。一方、経験6~9年目では効果実感が最も高かった(3.17点)。さらに、経験10年以上の主任・副主任級からは「ワークシートを作ることが目的となっている傾向が強い。また、認知症の種類を把握しておらず、中核症状と行動心理症状を混同しているものも少なく無い。まだまだ、介護職の知識やアセスメント能力の醸成が必要だと感じる。」との懸念が示された。【考察】小規模な単一施設研究(延べ14名)であるため統計学的有意差には至らなかったが、加算導入後に利用者のBPSD重症度変化が悪化から改善へと転じた推移は、定期的なチームカンファレンスの実施が現場のケアの質向上を支え、BPSDの予防・早期対応に一定の効果をもたらしている可能性を示唆している。しかし職員意識調査からは、カンファレンスを通じて「利用者への理解」は深まっているものの、それが「ケアへの自信」や「専門知識の向上」に直結していないという「形と実態の乖離」が浮き彫りとなった。この要因として、以下の2点に集約される運用の課題が考えられる。第一に、特定の職員層への業務負担の偏りである。中堅層(経験4~5年目)において負担感が最も高い背景には、実務の中心を担いながら加算に伴う書類作成や多職種調整等の負担が集中している現状がある。そのためICTの活用や業務分担の見直しによる記載業務の効率化が急務である。第二に、アセスメントの質的課題とカンファレンスの形骸化である。職員がBPSD対応に自信を持てない要因として、認知症の種別によっては中核症状との境界が異なるという疾患特異性が関与している可能性がある。「ワークシートを埋めること自体が目的化し、適切な原因分析(なぜその症状が起きているのか)に基づかないまま対応策が話し合われている危険性が主任級からも指摘されている。今後は、認知症の疾患特性を正しく理解するためのオンザジョブトレーニング(OJT)や外部研修の活用など、アセスメントの「質」を担保する教育体制の構築が必要である。本研究は、単一施設での後ろ向き観察研究であるため結果の一般化には限界があるが、新設された認知症チームケア推進加算の「利用者のBPSD変化」及び「介護職員の意識への影響」を明らかにした点において意義があると考える。今後は対象者数を拡大した前向き縦断的検証を行い、加算がBPSDアウトカムに好影響を及ぼすメカニズムをより精緻に解明していく必要がある。