講演情報

[ES12]日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」改訂版のエッセンス

櫻井 晃洋 (札幌医科大学医学部遺伝医学)
2022年3月に、日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(医学会GL)が改訂された。医学会GLは2011年に公表されているが、今回の改訂は、臨床現場における遺伝情報の取り扱いの機会や、結果の解釈により注意を要する情報が増えてきたことを踏まえ、適切な遺伝医療の実践を目的としてなされたものである。
 遺伝医療・遺伝学的検査に関するガイドラインは2000年ごろから関連学会によって公開されていたが、2003年に遺伝関連10学会・研究会による「遺伝学的検査に関するガイドライン」(10学会GL)が公開された。この10学会GLはまだ遺伝学的検査が研究的な側面が強く、一般診療ではまだ遺伝学的検査が普及していない時代のものであり、被検者保護を最優先し、遺伝情報に特別な地位を与えたものであった。その後、診断に遺伝学的検査が必要な疾患など遺伝情報が一般診療の中で扱われる機会が増え、一部の検査が保険収載されるようになってきたこともあり、医学会GLでは、発症者の遺伝学的検査結果を共有することの重要性が明記された。今回の改訂では、さらに他の医療情報と同様に守られ活用されるべきものという位置づけが明確になっている。検査結果と同様に遺伝カウンセリングの内容も診療録に記載すべきことが明記されているし、検査結果の扱いについて発症者と未発症者を区別していない。
 また、今回の改訂では、遺伝情報の特性としてこれまでの特性に加えて、新たに「あいまい性」が加えられ、意義不明のバリアント(VUS)や不完全浸透疾患の原因遺伝子の病的バリアント、二次的所見などの結果開示における特段の配慮の必要性など、より網羅的なゲノム解析が研究から診療に移行しつつある現状を反映している。
 本講演ではわが国のガイドラインの変遷をたどりつつ、今回の改訂が意味するところを解説する。