講演情報

[ES13]遺伝性疾患と進化

小金渕 佳江 (東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻)
ヒトの遺伝性疾患と遺伝的多様性は深く結びついている。その遺伝的多様性の成立過程を紐解くと、アフリカを起源とするヒトの拡散史と関係するところが大きい。ヒトは約7万年前にアフリカ大陸から拡散し、今では全ての大陸に存在する唯一の生物種となった。その過程で様々な遺伝変異を獲得し、地域特異的な遺伝的特徴を持つに至っている。その変異の多くは、生存の有利不利に関係しない中立変異である。しかし僅かながら、生存に有利もしくは不利に働く変異が存在する。そのうち生存に不利な変異は、遺伝性疾患に大きく関係している。近年では、絶滅したネアンデルタール人のゲノムがヒトゲノム中に数%存在し、その中に疾患に関係する領域があることが報告されている。よって遺伝子が関わる多くの疾患は、進化、すなわちヒト集団内で遺伝子頻度が世代を超えて変動する過程を考慮することで、その実態により迫ることができると考えられる。そこで本講演では、遺伝性疾患の成立プロセスや特徴について進化の観点から具体例を交えながら概説する。