講演情報

[ES14]ゲノム研究・医療における倫理的・法的・社会的課題

武藤 香織 (東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター 公共政策研究分野)
本教育講演では、ゲノム研究・医療に関する倫理的法的社会的課題や配慮事項について、基本的な留意点を述べる。
研究現場での倫理的配慮としては、研究対象者としての保護という観点が重視される。研究参加に伴うリスクとベネフィットを説明し、十分に理解をしたうえで意思決定していただく必要がある。特に重要なのは、解析結果から得られる所見の取扱い、長期かつ広範な利用を想定した試料や情報の二次利用などを説明し、理解を得ることである。倫理審査委員会は、研究開始前に研究計画の科学的倫理的妥当性を審査することが大きな役割であるが、研究開始後にも計画変更が生じる場合や倫理的なジレンマに悩む場合には、判断を仰ぐ必要がある。
一方、徐々に診療現場での倫理的配慮としては、患者が治療方針や自身の生き方について納得できる意思決定がなされることが最も重要である。そのうえで、遺伝的リスクの親族内での共有に関する意思決定、診療の過程で明らかになるゲノム情報を知る権利・知らない権利や第三者から検査を受けることを強制・強要されない権利の保障なども考慮する必要がある。倫理的なジレンマに悩む場合には、倫理カンファレンスや臨床倫理コンサルテーション、臨床倫理委員会の活用が不可欠である。
国際的には、患者・市民参画(PPI/E)、先住民族や少数者など社会から疎外されてきた人々を対象にした研究のあり方、胎児期からのゲノム研究のあり方などが話題である。
遺伝情報を含む診療情報の活用は今後とも盛んになるが、当事者は疾患名や家系図、遺伝学的検査の結果に基づく差別的言動への不安を常に抱えている。このことを医療従事者も十分に理解し、研究や診療にあたる必要がある。現在、超党派議員連盟が検討している「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」案についても概要を紹介する。