講演情報

[ES3]臨床細胞遺伝学

原田 直樹 (京都大学 iPS細胞研究所 基盤技術研究部門)
臨床細胞遺伝学はヒト染色体の構造や数の変化と遺伝形質や疾患との関連性を追求する学問領域である。1956年にTjioとLevanはヒト染色体数が46本であることを特定し、この時点が臨床細胞遺伝学の起始でわずか66年前のことである。以降ほぼ10年おきの技術的ブレークスルーで、臨床細胞遺伝学は順次新たな局面を迎えてきた。1971年にG分染法が開発され、単一細胞ゲノムを視覚的に捉えることが可能となり、核型分析が臨床検査として普及して数多くの染色体異常症が同定された。1990年代にはG分染を補完するFISH法が普及し、微細欠失・重複症候群の確定診断や造血器疾患に特有な再構成の検出が容易になった。2000年にヒトゲノムドラフトシークエンスが公表されると、同時進行で開発されていたCGHマイクロアレイで健常者にゲノムコピー数の変化が多数検出され、CNVが新たな概念として定義されることになった。網羅的ゲノム解析で染色体再構成の発生機序が複数解明され、同時に個人ゲノム解析が容易になって、 大規模なデータの蓄積により“バリアントと疾患関連性”を追究する必要性が指摘された。2015年頃にClinGenが整備され、検査結果データの蓄積と専門家によるキュレーションで表現型相関を追究する現在の流れに至っている。2010年代前半には次世代シークエンス技術が実用化され、NIPTの一般医療化やPGTの医療実装に展開しているところである。
細胞遺伝学は細胞ゲノム学へ、即ちゲノムの構造やコピー数の変化と表現型との関連性を追究する学問に変容してきた。国内では2021年にようやくマイクロアレイ染色体検査の保険適用化が実現した。初のゲノムファースト臨床検査であり、医療者自身が各種データベースから情報を入手し、患者表現型との相関を分析することが求められる。本公演では臨床細胞遺伝学の歴史と現在に至る経緯をご紹介してみたい。